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オンライン面接が定着 コロナ禍のオーディション事情

 新型コロナウイルス感染拡大を受けて、多くの企業が採用面接をWebで行わざるを得なくなったが、エンタメ業界もそれは同じ。モデルや俳優、歌手など、志望者に対して対面による審査が不可欠だったオーディションも、やり方を変えなければいけない事態に陥っている。コロナ禍でのオーディション事情、そして応募する側、選考する側の意識にどんな変化をもたらしているのかについて探った。

『デビュー/Deview』主催の『リモート&ドラフト オーディション』イメージ

『デビュー/Deview』主催の『リモート&ドラフト オーディション』イメージ

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■コロナ禍、応募者数が過去最多となったオーディションも

 昨年2月末よりコンサートや舞台、ライブ等イベントは中止か延期、ドラマやバラエティ、歌番組は収録を休止するなど、新型コロナウイルス感染拡大によって大打撃を受けたエンタメ業界。歌手や俳優、モデルなど、業界を目指すオーディション応募者も、自粛ムードの高まりを受けて減少したのではないかと思いきや、「意外と減らなかった」と関係者は口を揃える。中には、「過去最高の応募数となった」と語る事務所もある。二階堂ふみ成田凌ら人気俳優から、奥田民生らミュージシャン、声優、芸人、タレントなど幅広いジャンルの所属者を擁するソニー・ミュージック・アーティスツ(以下、SMA)で新人開発を担当する上原岩氏(新人開発部プロデューサー)は言う。

「当社では、毎月、ジャンル不問、年齢・性別・国籍不問で募集する『マンスリーオーディション』を開催しているのですが、昨年の5月頃から徐々に応募数が増え始め、今年5月は過去10年の歴史の中で最高を記録しました」

 コロナ禍、なぜ応募数が増えたのか。オーディションメディアとして38年の歴史をもつ『デビュー/Deview』の水野誠志氏はこう分析する。

「学生は授業がリモートになり、自由に友人と集まることもできず、行動が制限される状況が続いています。そういったなかで、何かを始めたいという欲求が高まった人が多いと聞きます。オーディション応募はその選択肢の1つになっているのかもしれません」

 それは応募書類の志望動機にも表れている。
「コロナ禍を経験して、『世の中、何が起こるかわからないから、今まで二の足を踏んでいたけれど、やりたいことをやろうと思った』とエントリーシートに書いてくる人が増えました。そのほかにも、『悶々とした毎日を過ごす中、俳優の〇〇さんの演技にすごいパワーをもらったので、自分も与える側になりたい』というコメントも散見されます。在宅時間の増加により、映画やドラマ、音楽といったエンタメコンテンツに触れる時間も増えたことが、応募者増加の背景にあると思います」(上原氏)

■新たな人材発掘のためにネットを活用

 そういった応募者の意識の変化に加え、新人開発の方法にも現状に即した様々な工夫が為されるようになった。コロナ禍で多くの人を集めて行う大規模オーディションは次々に中止となったが、従来は対面が基本であったオーディションも、オンラインを取り入れたものへと一気にシフト。なかには、審査から表彰式までコンテストすべてをオンラインで完結させているものもあるという。

 『デビュー/Deview』でも昨年、オンライン面接ならではの特徴を活かして、自社主催の『リモート&ドラフト オーディション』の初開催に踏み切った。デビュースタッフが書類&動画選考&リモート面談を行い、10名のファイナリストを決定。最終面接では、人気芸能プロ10社とWEB会議ツールを使い、ドラフト会議よろしく1対10のリモート合同審査会を実施するというものだ。第1回目のオーディションで合格者が誕生するなど、好評につき現在、第2弾が行われている。

 各社が新たなオーディションを立ち上げる背景に、コロナ禍によるエンタメ業界のこんな苦境もある。

「コロナ禍以前は、スカウトマンが地方に出向いて原石を発掘していましたが、今はそれができません。首都圏でも今は皆がマスクをしているため、顔がわからず、街頭スカウトができない状態です。新たな人材発掘のためには、オンラインによるオーディションを開催するほかないんです」(水野氏)
 
 そのため、スカウトの場をストリートから、InstagramやTikTokなどネット上に移す事務所も増えている。SMAの新人開発部署でも、担当者がジャンルを絞らず、クリエイターも含め、日々、SNSをチェックし、新しい才能との出会いのきっかけとして活用しているという。また、スカウトマンたちがSNSに注目するのには、「コロナ禍での活動状況も影響している」と水野氏は続ける。

「以前から、エンタメ業界では、これからの時代は発信力のある人が生き残っていけると言われていました。コロナ禍で活動の場が狭まっている俳優やアーティストが多いなか、自分から何かを作り、発信できる才能を求める動きが加速しているように感じます。俳優に特化した事務所はさておき、幅広いジャンルの人材を求める総合プロダクションはとくに、発信力があって、SNSの対応ができる人のニーズが高いといえます」

 もう1つ、視聴者参加のオーディションが増えたのもコロナ禍による変化と言える。SHOWROOMや17LIVE、LINE LIVEを利用し、視聴者のポイントを最も集めた人には、何らかの作品への出演、声優としての参加などを優勝賞品としたオーディションも増えているという。昨今、視聴者参加型オーディションが話題となり人気を呼んでいるのは、リアルの場で人々が集まることが難しくなった今、参加型オンラインイベントには同じ趣味や関心を持っている人たちとつながり、盛り上がれるという醍醐味がある。主催者側としても、デビュー前の段階からファンを獲得できるメリットは大きいと考えているためだろう。

■コロナ禍をきっかけにオーディションは多様化

 このように対面による面接審査ができないため、やむなくオンライン面接を行うオーディションが増えているわけだが、遠距離の人も気軽に応募できるため、地方に出向かずとも、アプローチできる範囲が広がっている点は大きなメリットと言えるだろう。また、応募者サイドにも、通信環境や、会話のキャッチボールの間合いがとりにくいなどの危惧がある一方で、従来のオーディション会場での審査にはないメリットがあるようだ。

「特技披露で、魚をさばくのが得意という方が、キッチンに移動して実演して見せてくれて、大変印象に残りました。オーディション会場に来てもらった場合はエアでやってもらうほかありませんから」(SMA新人開発部・中島真由美氏)

「部屋中に恐竜のフィギュアが並んでいる方がいたのですが、ただ言葉で恐竜が好きと説明されるのと、その部屋で語られるのではやはりインパクトが違いますよね」(上原氏)

 自宅で審査を受けるため、事前に家族で画面の作り方を研究して審査に臨む人も多く、受け答えも含めてリラックスして個性をアピールできるというのは、オンライン面接ならではだ。面接者が“家庭訪問”するオンライン面接からは、応募者の背景が見えてくるという一面もある。しかし、「やはり最終的には対面で審査を行う必要がある」という。

「その人の持っている雰囲気やたたずまいなど、リモートの映像だけではわからない部分がありますし、映像だと、カメラの位置によってスタイルが全然違って見えます。実際お会いすると、リモートとは雰囲気が違う方も多い。対面では緊張しますからね。とっさの判断や立ち居振る舞いなど、リラックスしている自宅で見せる姿とはまた違う“素”の部分が見えます。それも含めて、やはり契約に至るには実際お会いしないと決められません。オンラインでの審査はあくまで途中段階までしかできないかなと考えています」(上原氏)

 演出によって見え方が変わることや、スキルや能力だけでなく、表現者として人を引き付ける資質や雰囲気があるかどうか、内面が重要な審査ポイントになるだけに、やはり直接会って確認しなければわからないことも多い。加えて、ネットにアクセスするだけで気軽に応募でき、自宅で手軽に面接が受けられるぶん、遊び感覚で参加できるという一面もはらんでいる。契約を念頭に置く主催者側からすれば、応募者の本気度を測るためにも、対面での面接は欠かせないといえるだろう。

 コロナ禍で、オンラインオーディションはすっかり定着した。企業の採用活動さながらに、今後は、途中段階までの面接はオンラインで効率的に行い、最終面接は対面でというケースが増えていくに違いない。オンライン面接は応募者側にとっても利便性が高いだけに、新たな才能の発掘につながる可能性も秘めている。このチャンスをどう活かしていくのか、その動向を注視したい。
(文・河上いつ子)

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  • 『デビュー/Deview』主催の『リモート&ドラフト オーディション』イメージ
  • ソニー・ミュージック・アーティスツ 新人開発部プロデューサー・上原岩氏
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