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玉森裕太の映画俳優としての魅力 俊英・森義隆監督が語る「得な資質を持っている」

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第2回 森義隆監督
 「相当追い詰められました」とアイドルグループKis-My-Ft2玉森裕太が現場を振り返った映画『パラレルワールド・ラブストーリー』。本作で監督を務めたのが森義隆監督だ。チャレンジングだったという本作へのアプローチ方法や「映画にとって得な資質を持っている」という玉森への評価などを通して映画人・森義隆に迫る。

映画『パラレルワールド・ラブストーリー』森義隆監督 (C)ORICON NewS inc.

映画『パラレルワールド・ラブストーリー』森義隆監督 (C)ORICON NewS inc.

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■超難解な作品だからこそ、守りに入らず開き直った。

 数々の執筆作が映像化されてきた人気作家・東野圭吾。そんな東野の作品のなかでも、複雑な構造の『パラレルワールド・ラブストーリー』は映像化不可能と言われてきた。実際、森監督も「これまで何度もプロジェクトが立ち上がっては消えてきたようで、いまから5〜6年前に僕のところにオファーが来たんです」と経緯を説明する。 「パラレルワールド」というタイトルの通り、並列する二つの世界の描き方や、そこに存在するキャラクターのすみわけなど、確かに原作を読むと、映像化するには相当ハードルが高いと感じられる。しかし森監督は、その状況を逆手に取った。

 「誰かが作ろうとして作れなかったということは、逆にいろいろなチャレンジができる。守りに入らず、開き直って自分が『こうだ』と思ったことをすべてやりました。僕は20年ぐらい前に原作を読んだのですが、作者の手のひらの上で気持ち良く弄ばれ、最後カタルシスも得られるというすごい読書体験をしたなという感じだった。それを再現できたらと思ったんです」。

 森監督が導き出した本作の映像化の肝は「不安定さ」だという。キャストへの演出方法やスタッフ編成を含め大きなチャレンジを試みた。カメラマンも二人起用し、ゆらゆらとした「不安定さ」を見せるようにした。さまざまな局面で、開き直った演出を試みた。「これまでも『聖の青春』で2時間の長回しをするなど、勝負所で開き直ることはあったのですが、この作品では、全体的に正解か不正解かわからない挑戦がちりばめられています」と解説する。確かに画面から「いまどこにいるのだろう」という常に拠り所のない不安が伝わってくる。なんともいえない心地よい違和感が充満している。

■玉森裕太を徹底的に追い込んだ理由とは

 そんななか、役者へのアプローチ方法もこれまでとは大きく違った。これまで『ひゃくはち』や『宇宙兄弟』『聖の青春』などの作品では主人公に寄り添いながら撮影してきたというが、本作では「突き離す」演出だった。

 「『ひゃくはち』にしても『宇宙兄弟』にしても、だいたい主人公に目標設定があり、そこまでのプロセスを描くのが自分の得意分野でした。でも今回は、主人公がまったくどこにいるのか、どこに行けばいいのかわからない人物で、周囲に巻き込まれていく。突き離して遠くから見つめるという撮り方をしました。ただ、遠くから見つめるのも、寄り添うのも距離感が違うだけで本質的には同じことなのですが、俳優との接し方は違いましたね」。

 玉森はこうした森監督の演出方法を「相当追い込まれた」と表現していたが、森監督も覚悟を持って臨んだという。その理由を「玉森くんが演じた崇史は、受け身で巻き込まれ、追い込まれていく役柄。彼自身も映画という世界ではそこまで経験もなく、未知の世界に挑む不安やプレッシャーがあったはず。それを利用してうまく役に乗せてあげたいと思ったんです」と語る。

 森監督自身も「玉森くんからすれば『なんでこんなに追い込んでくるんだろう』と感じたかもしれません」というくらい徹底的に追い込んだ。しかし、こうした森監督の演出には、玉森に俳優としての資質を見たからというのも大きかった。

 「彼自身の状況をうまく役に取り込むことができるかなと思って、最初追い込んでみたら、案の定すぐに理解してくれました。途中からはこちらが言わなくても、崇史として自分自身を追い込むようになった。勘の鋭さと自分に対するストイックさは僕の想像を超えていた。そういう姿勢だと、スタッフたちも『こいつは本気だな』と感じるんです。中盤ぐらいからは現場が彼中心に回り始めました」。

■玉森裕太は映画にとって得な資質を持っている

 またもう一つ、森監督は玉森の映画俳優という部分への期待も大きかった。

 「映画は映画館で観るものと定義すると、大きなスクリーンとディティールまで構築された音のなかで役者の演技を見るわけです。そうするとすべてが見えてしまう。ただ立っているだけで、その人物としていられるか。それはテレビが映し出すものの比ではないんです。逆に言えば、本当にその人としてそこにいられれば、お客さんの心を動かすことができる。人物になり切れていなければすべてが映ってしまう。その意味で玉森くんは、立っているだけでどこか闇のような憂いのようなものが見えてくる。映画にとってとても得な資質を持っているなと思ったんです」

 さらに森監督は、玉森には「この人はなにを考えているんだろう」と引き込んでいく力があるという。テレビではセリフを押し出してくれるので、視聴者は待っていればいい。しかし映画では、俳優の芝居や佇まいで鑑賞者をスクリーンのなかに引き込んでいくことが要求されると森監督は述べる。その意味で、玉森には「観たい」と観客をスクリーンに吸い込んでいく力があるというのだ。

 また若手演技派俳優と呼ばれている染谷将太とのコンビネーションも魅力的だったようだ。

 「染谷くんの実力は折り紙付きで、今回も『やっぱりいい俳優だな』と思わせてくれました。そんな彼を玉森くんにぶつけたらどんな化学反応を起こすか興味深かった。俳優としてのキャリアは染谷くんが圧倒的で、普通なら染谷くんが玉森くんを食ってしまいそうですが、玉森くんもアイドルグループのセンターにいて東京ドームを満員にするような人。逆に染谷くんがやられてしまうかもしれないという面白さもありました。また畑違いの二人で、パブリックイメージからも『親友じゃないだろう』という雰囲気の二人が親友役をやるのも、作品的にはピッタリだと思ったんです。実際は仲が良かったようですけれどね」。

■森監督の過去、現在、未来――

 森監督は『ひゃくはち』で長編映画監督デビューを果たす。高校野球の補欠部員二人を中心とした一筋縄ではいかない青春を描いた作品は高い評価を受けた。その後も“男二人”がときには兄弟、ときにはライバルとして対峙していく作品を手掛けることが多い。

 「特に意識しているわけではないのですが、毎回男二人が真ん中にいることが多いですね。『聖の青春』のときは、いよいよ『BL(ボーイズラブ)撮れば』なんて言われました(笑)。でも同性だから共有できる青春性みたいなものを描くのが好きという部分はあるのかなと思っています。この作品もタイトルに『ラブストーリー』と入っているので、最初は恋愛ものという意識で臨んでいたのですが、撮り始めてみると、恋愛より玉森くん演じる崇史と染谷くんの智彦の二人の関係にフォーカスした方が、より面白い世界が構築できるし、これまでの経験が生きるかなと思いましたから」。

本作で森監督と出会った人が、次になにを見たらいいか――。

 「映画は4本しか撮っていないのですが、僕の原点と言う意味では、やっぱり『ひゃくはち』は観て欲しいですね。あとは伊坂幸太郎さん原作の『バイバイ、ブラックバード』(2018年WOWOW)というドラマですかね。同時期に『パラレル〜』の東野さん、『バイバイ〜』の伊坂さんという二人のベストセラー作家の作品を映像化させてもらったのですが、セットにして観てもらえると、僕がそれぞれの作家さんのどういう部分をリスペクトして映像化したのかが見えてくるかもしれません」。

森監督にとっての好きな俳優とは――。

 「この人俳優しかできないんだろうなと感じさせる人は魅力的ですね。『聖の青春』に出てくれた松山ケンイチくんと、東出昌大くんは良い意味で“演技の変態”ですよね(笑)。純粋に役と向き合ってくれる人は、こちらの背筋も伸びます」。

『ひゃくはち』は森監督が20代で撮った作品。早くから映画業界で活躍しているが「懐が深い映画界が好き」と語る。一方で、キャリアを重ねるにつれ、気づくこともあるという。

 「10代で自主映画を始めたころは、カメラを持って、俳優も調達して……みたいな機動力があったのに、年々型にはまった製作スタイルに慣れていってしまっている。語弊を恐れずに言うと、映画監督って、現場で決断をする必要があるので、偉そうにしていないとダメな部分ってあると思うんです。でも、いまはデジタルネイティブの人がiPhoneと仲間だけで映画を作ってしまう時代。いいものを作る環境を持ち続けるには、捨てるべきときは捨て、いろいろなことにチャレンジしていかなければいけないという思いはあります」。

もう一つ、森監督にはやってみたいことがあるという。

 「僕は自分が主人公に憑依するタイプなので、どうしても自分と同世代の登場人物やちょっと下の人間を撮ることが多かったんです。でもそこは年を重ねてきて、やりたいテーマも増えてきたので、演技の大先輩たちとも組んでみたいなという思いは年々増してきています。沖田(修一)監督などは年配の俳優さんとのお仕事が多いですよね」。

 「自分が楽しいかどうか、自分が映画というツールを持ってどう人生を楽しむか」。テーマ選びには、森監督が「知りたい」と思う好奇心が大きいという。「家族もできて子供もできた。そして今年40歳になり、関心事も変わってきました」と語った森監督の今後にも大いに注目していきたい。(取材・文・撮影:磯部正和)

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関連写真

  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』森義隆監督 (C)ORICON NewS inc.
  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』で主演を務める玉森裕太(C)2019「パラレルワールド・ラブストーリー」製作委員会(C)東野圭吾/講談社
  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』ポスター(C)2019「パラレルワールド・ラブストーリー」製作委員会(C)東野圭吾/講談社
  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』(C)2019「パラレルワールド・ラブストーリー」製作委員会(C)東野圭吾/講談社
  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』(C)2019「パラレルワールド・ラブストーリー」製作委員会(C)東野圭吾/講談社
  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』(C)2019「パラレルワールド・ラブストーリー」製作委員会(C)東野圭吾/講談社
  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』(C)2019「パラレルワールド・ラブストーリー」製作委員会(C)東野圭吾/講談社
  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』森義隆監督 (C)ORICON NewS inc.
  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』森義隆監督 (C)ORICON NewS inc.
  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』森義隆監督 (C)ORICON NewS inc.
  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』森義隆監督 (C)ORICON NewS inc.
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