今年ソロデビュー40周年のミュージシャン・高橋ユキヒロ(高橋幸宏 66)が、1stアルバム『サラヴァ!(Saravah!)』(1978年)のヴォーカルパートを再録音し新たにミックスダウン・マスタリングを施した『Saravah Saravah!』を24日にリリースする。40年前、坂本龍一が共同プロデュースと編曲を手がけ、故・加藤和彦さん、高中正義、細野晴臣、山下達郎らレジェンドが若かりし日の才気をぶつけ合った同作のサウンドは、まさに音楽ジャンルの“るつぼ”と呼ぶにふさわしい。高橋と細野、坂本で結成され同じく今年40周年を迎えたイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)のデビュー前夜、突如世に放たれた“奇跡の一作”への思いを高橋に聞いた。
■70年代の空気が生んだ異色のサウンド 「イメージ広げてくれた」坂本龍一の貢献
加藤和彦さん率いるサディスティック・ミカ・バンド(72年デビュー)のドラマーとして本格的にキャリアをスタートさせた高橋は、ミカ・バンド解散後の76年からサディスティックスを経て78年6月に同作でソロデビュー。世界の音楽シーンを席巻したYMOの1st『イエロー・マジック・オーケストラ』は同年の11月に発売されている。高橋は「70年代後半を思い返してみると本当に音楽シーンの過渡期で、自分の気持も急速に変化していってましたね」と当時を振り返る。
60年代を中心に一時代を築いたロック(ロックンロール)への熱狂が一段落し、新たな音楽ジャンルへの探求心が熱を帯びていた70年代後半。同じYMOメンバーも、細野が『はらいそ』(78年4月)、坂本がソロデビュー作『千のナイフ』(78年10月)と実験的な作品を同じ時期に相次ぎ制作していたというのは象徴的だ。
『サラヴァ!』もそんな時代のエッセンスを存分に吸い込み形を成していった作品。シティ・ポップと捉えることもできるが、通して聴いてみるとその内実はもっとずっとカオスである。高橋は「どこのジャンルにも入らない特殊なサウンドですよね。それは教授(坂本)の功績が大きいんじゃないかと思いますよ。僕のイメージをどんどん広げてくれた」と、自身の片腕になって“異端”のアルバムに向き合ってくれた坂本へ惜しみない感謝を語る。
「当時、教授とはほとんど毎晩のように飲んでたんですよ。その席で、ここに弦を入れたいだとか、例えば『C'EST SI BON』は銀巴里(銀座にあったシャンソン喫茶)みたいな曲だけど、それをフレンチレゲエにしたいだとか。そういうアイデアを伝えて具体化してくれていった。教授も書くの速かったですよ。次の日スタジオ来るタクシーの中でスコア(楽譜)全部できちゃうんだもん(笑)」。「あとは、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)っぽいボズ・スキャッグスとか、スティーヴィー・ワンダーがシンセを使い始めた頃の音とか、とにかくごちゃ混ぜなんです。それでもバランス感を保ててるのは、やはりあの時代の空気感そのものなのかもしれないですね」。
■“原点回帰”はしない…進み続ける盟友たちの存在
40周年の節目に1stアルバムをヴォーカルだけ録り直すという一風変わったリメイクにはどんな意図が込められているのか。高橋は今作について「40年前の作品が、まさに、“今の自分”の作品になった」と意味深なコメントを寄せているが、その真意を聞いてみた。
「あのアルバムには、ずっと未完成なイメージが自分の中にあって…。とんでもなく素晴らしいメンバーと演奏だったことはわかっているし、当時みんなができることを出しきったような作品。そのなかで僕だけが(当時)ここまでちゃんとしたヴォーカル録りは初めてに近い状況だった。山下達郎や吉田美奈子にもコーラスをやってもらっているのに、そういう人たちのなかで、あのヴォーカルはまずいんじゃないのって思いがずっとありましたね(笑)」。また、「23枚もソロを作ってきたから少しはね、自分の歌のスタイルっていうのを確立できたんで。日本語の表現とか、自分の技量で作品をコントロールできるようになった今の状態で歌ってみたかったんです」と狙いを明かしてくれた。
長いキャリアで磨いた表現力で改めて当時の演奏に向き合い、ようやく作品が「完成した」と感じられたという。40年経て再び吹き込まれたヴォーカルは色気が格段に増しているように思えたが、そのことを伝えると「自分としてもやっぱり(声が)若返った印象はあるかな」と笑顔をみせた。
一方、ベテランのアーティストからはたびたび「原点回帰」というテーマが聞かれるものだが、高橋は今作を「原点」のカテゴリーで語られることに違和感を示す。細野や坂本、今でも先進的な作品を生み進化を止めない盟友たちの音楽に触れ、その思いを再確認したという。
「僕、細野さんの最近のソロ作品を聴いて原点回帰してるのかなって思ったんです。でも、実はそれは違うなと最近思ってきて。細野さんがやってることって、今でもすごく新しいんですよ。それは教授も同じ。目に見えるわかりやすい部分ではなくても、前を向いて新しい音や作品に取り組んでいるということは昔も今も全然変わってない。だから、僕の今回のアルバムも『ルーツに戻るんですね』と言われちゃうと、なんか違うんだよなと思います」。
“40周年”への感慨とも無縁だ。「達成感みたいなものも全くないですね。40年という月日がどうこうではなく、今回のアルバムも歌を録り直してより良いものにしたいなとずっと引っかかっていて、やりたいことがまた一つかなっただけです」。
淡々とした語り口。ただ、流行り廃りに呑まれず40年間音楽を生み続けてきた姿には確かな自信がにじむ。「今でも今度はこれをやりたい、という意志が枯れたり消えたりすることはないです。今は作品に普遍性を求めてるかな。もう次のアルバムの構想もあるけど、『何十年先も聴かれるもの』にするためにどうしたらいいか、次はそういうものができたらいいなと思いますね」。
11月24日にはこのアルバムをまるごとステージ上で再現するライブ『Saravah! 40th Anniversary Live』を東京国際フォーラム・ホールCで開催する。当時のスーパープレイを誰と奏でるのか。詳細はまだシークレットだが「とにかく、練習しなきゃね」という静かな言葉には、過去の自分に挑むような覚悟と誇りが感じられた。
■70年代の空気が生んだ異色のサウンド 「イメージ広げてくれた」坂本龍一の貢献
加藤和彦さん率いるサディスティック・ミカ・バンド(72年デビュー)のドラマーとして本格的にキャリアをスタートさせた高橋は、ミカ・バンド解散後の76年からサディスティックスを経て78年6月に同作でソロデビュー。世界の音楽シーンを席巻したYMOの1st『イエロー・マジック・オーケストラ』は同年の11月に発売されている。高橋は「70年代後半を思い返してみると本当に音楽シーンの過渡期で、自分の気持も急速に変化していってましたね」と当時を振り返る。
60年代を中心に一時代を築いたロック(ロックンロール)への熱狂が一段落し、新たな音楽ジャンルへの探求心が熱を帯びていた70年代後半。同じYMOメンバーも、細野が『はらいそ』(78年4月)、坂本がソロデビュー作『千のナイフ』(78年10月)と実験的な作品を同じ時期に相次ぎ制作していたというのは象徴的だ。
『サラヴァ!』もそんな時代のエッセンスを存分に吸い込み形を成していった作品。シティ・ポップと捉えることもできるが、通して聴いてみるとその内実はもっとずっとカオスである。高橋は「どこのジャンルにも入らない特殊なサウンドですよね。それは教授(坂本)の功績が大きいんじゃないかと思いますよ。僕のイメージをどんどん広げてくれた」と、自身の片腕になって“異端”のアルバムに向き合ってくれた坂本へ惜しみない感謝を語る。
「当時、教授とはほとんど毎晩のように飲んでたんですよ。その席で、ここに弦を入れたいだとか、例えば『C'EST SI BON』は銀巴里(銀座にあったシャンソン喫茶)みたいな曲だけど、それをフレンチレゲエにしたいだとか。そういうアイデアを伝えて具体化してくれていった。教授も書くの速かったですよ。次の日スタジオ来るタクシーの中でスコア(楽譜)全部できちゃうんだもん(笑)」。「あとは、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)っぽいボズ・スキャッグスとか、スティーヴィー・ワンダーがシンセを使い始めた頃の音とか、とにかくごちゃ混ぜなんです。それでもバランス感を保ててるのは、やはりあの時代の空気感そのものなのかもしれないですね」。
■“原点回帰”はしない…進み続ける盟友たちの存在
40周年の節目に1stアルバムをヴォーカルだけ録り直すという一風変わったリメイクにはどんな意図が込められているのか。高橋は今作について「40年前の作品が、まさに、“今の自分”の作品になった」と意味深なコメントを寄せているが、その真意を聞いてみた。
「あのアルバムには、ずっと未完成なイメージが自分の中にあって…。とんでもなく素晴らしいメンバーと演奏だったことはわかっているし、当時みんなができることを出しきったような作品。そのなかで僕だけが(当時)ここまでちゃんとしたヴォーカル録りは初めてに近い状況だった。山下達郎や吉田美奈子にもコーラスをやってもらっているのに、そういう人たちのなかで、あのヴォーカルはまずいんじゃないのって思いがずっとありましたね(笑)」。また、「23枚もソロを作ってきたから少しはね、自分の歌のスタイルっていうのを確立できたんで。日本語の表現とか、自分の技量で作品をコントロールできるようになった今の状態で歌ってみたかったんです」と狙いを明かしてくれた。
長いキャリアで磨いた表現力で改めて当時の演奏に向き合い、ようやく作品が「完成した」と感じられたという。40年経て再び吹き込まれたヴォーカルは色気が格段に増しているように思えたが、そのことを伝えると「自分としてもやっぱり(声が)若返った印象はあるかな」と笑顔をみせた。
一方、ベテランのアーティストからはたびたび「原点回帰」というテーマが聞かれるものだが、高橋は今作を「原点」のカテゴリーで語られることに違和感を示す。細野や坂本、今でも先進的な作品を生み進化を止めない盟友たちの音楽に触れ、その思いを再確認したという。
「僕、細野さんの最近のソロ作品を聴いて原点回帰してるのかなって思ったんです。でも、実はそれは違うなと最近思ってきて。細野さんがやってることって、今でもすごく新しいんですよ。それは教授も同じ。目に見えるわかりやすい部分ではなくても、前を向いて新しい音や作品に取り組んでいるということは昔も今も全然変わってない。だから、僕の今回のアルバムも『ルーツに戻るんですね』と言われちゃうと、なんか違うんだよなと思います」。
“40周年”への感慨とも無縁だ。「達成感みたいなものも全くないですね。40年という月日がどうこうではなく、今回のアルバムも歌を録り直してより良いものにしたいなとずっと引っかかっていて、やりたいことがまた一つかなっただけです」。
淡々とした語り口。ただ、流行り廃りに呑まれず40年間音楽を生み続けてきた姿には確かな自信がにじむ。「今でも今度はこれをやりたい、という意志が枯れたり消えたりすることはないです。今は作品に普遍性を求めてるかな。もう次のアルバムの構想もあるけど、『何十年先も聴かれるもの』にするためにどうしたらいいか、次はそういうものができたらいいなと思いますね」。
11月24日にはこのアルバムをまるごとステージ上で再現するライブ『Saravah! 40th Anniversary Live』を東京国際フォーラム・ホールCで開催する。当時のスーパープレイを誰と奏でるのか。詳細はまだシークレットだが「とにかく、練習しなきゃね」という静かな言葉には、過去の自分に挑むような覚悟と誇りが感じられた。
コメントする・見る
2018/10/23