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イメージを覆す生田斗真、ベルリンでも評価されたトランスジェンダー役の葛藤

 生田斗真の主演映画『彼らが本気で編むときは、』(2月25日公開)が、『第67回ベルリン国際映画祭』で、邦画作品として初めて「テディ審査員特別賞」を受賞した。同賞は、LGBT(セクシャル・マイノリティの人たち)を題材にした全37作品の中から優れた作品に贈られるもの。これまでも、イメージの異なる作品に果敢に挑んできた生田。荻上直子監督から「久々にしごかれた」という本作で、どのようにトランスジェンダーの役をつかんだのか?

◆「以前のイメージがチラついたら負け」、挑戦的な作品に

――映画『彼らが本気で編むときは、』で、トランスジェンダーの女性・リンコ役に挑戦した生田斗真さん。オリジナルの脚本も書き上げた荻上直子監督から「他には考えられない」と、熱いラブコールを受けての出演だそうですね。
【生田斗真】監督から「出てくれませんか」という熱い想いをぶつけられて、俳優として素直に嬉しいです。即答で「出させていただきます!」と答えました。

――『土竜の唄』シリーズ(2014年・2016年)や、『予告犯』(2015年)、『秘密 THE TOP SECRET』(2016年)など、近年はハードなアクションを披露する男っぽい役柄が続いていましたが、それとは真逆のキャラクターを演じる戸惑いは?
【生田斗真】それは少しありましたね。これまでガンガンにアクションをしてきましたし、役柄の上では人も殺してきました(笑)。ですから、この作品を観ていただいた方の中に少しでも以前の僕のイメージがチラついたら負けだなと思って。そういう意味では、かなりチャレンジングな仕事だと、想いを強くしました。

◆トランスジェンダー役に葛藤、女性の仕草を学ぶ

――体は男性でも心は女性として生まれてきたリンコは、性別適合手術をして、今では外見も女性として生きている。演じる上で、女性になりきることは難しくありませんでしたか?
【生田斗真】まず、監督やスタッフのみなさんといろいろ試しながら作っていきました。最初は長い髪を考えていたのが、セミロングに落ち着いて。メイクも、スタッフさんから「ナチュラルなほうがいい」という意見が出た。それに僕自身、女性の扮装をしていろいろわかったこともあります。まず、口紅って大変ですよね。なにげなくペットボトルで水を飲んでも、飲み口にべっとりと付いてしまう。そうなると、また塗り直さなければいけない。爪もそう。僕は台本をガンガンめくってサクサク読みたいんだけど、長い爪ではそれもできない。女性がいわゆる“女の子っぽい仕草”になるのも、理にかなっているんだなと思いました。

――リンコの所作がおしとやかで美しく、見入ってしまいました。声のトーンも自然で。
【生田斗真】声は、監督から「やや高めで、きれいな声で」と言われたので、それを意識しました。あとは、所作や作法などの専門の方に現場で教えていただきましたね。その方の所作が、どちらかというと古風とうか、昔の奥ゆかしい女性の動きなので、そういう優雅な感じがリンコさんらしいなと思っていました。

◆考えたのは、社会を変えることではなく「“普通”ってなに?」

――トランスジェンダーの方ともお会いになったそうですが?
【生田斗真】僕の友人にもトランスジェンダーの人がいるので、彼女たちに話を聞いたんです。そこで、劇中でも描かれている、リンコさんが少年の頃に味わった辛い経験は、現実にあるということも知りました。学ランを着なきゃいけないとか、男子用の水着を着て胸を出すことが恥ずかしくて死ぬほど嫌だったとか……。そんな様々な試練がある中で、一番大事なのは身近にいるご両親が理解してくれるかどうかなんですよね。それによって、大きく違ってくるんです。リンコさんの場合は、お母さんが「あなた、女の子だもんね」と理解をしてくれる。トランスジェンダーの方から見たら、すごく羨ましい環境なんです。

――こういう作品によって、多くの人々の意識が少しでも変わればいいですね。
【生田斗真】そうですね。とはいっても、そもそも監督も僕も「社会を変えて行こうよ!」というよりは、「“普通”ってなに?」ということを考えたんです。男性と女性が愛し合うことが“普通”と言われているけれど、それは大多数がそうだから“普通”と言われているだけだという。そういういろんな境目が少しでも緩和されればいいなという気持ちで、この映画を作ったつもりです。監督もおっしゃっていましたけど、差別とか区別とかという意識は、海外に比べると日本はまだ低いですよね。

◆監督に芝居を見透かされ……「蜷川幸雄さんより、厳しかった」

――荻上監督には、本格的な撮影が始まる前に釘を刺されたと伺っていますが?
【生田斗真】始まる直前に、「もう一回、しっかりリンコと向き合って。寝る時以外はリンコのことを考えてください」と言われました。そのときまでは、わりと所作とか声の出し方とかテクニック的なことを考えてやっていたんです。どうやったら女の子に見えるかとか、ね。それで、ある程度まではいけたなと思っていたんですけど……。監督は本当に役者の芝居をよく見ていて、“もうちょっと心の中身を見たい”といつも思っている人なんです。だから、僕自身がまだリンコさんの気持ちに入り切れていない段階だったのが、見透かされてしまった。久しぶりにしごかれました(照笑)。

――他の監督の現場とは違いましたか?
【生田斗真】最近の撮影は、役者が居てそれを映すカメラがあって、監督は別のところにあるモニターを観ながら演出するのが普通になっています。でも、荻上監督はずっとカメラの横にいて指示を出す。「なんか違うんですよ。もう一回いいですか」って言いながら。ご自分の感性や感情を大切にするタイプの監督さんで、芝居をした瞬間に監督が“グッとくるか、こないか”でOKが決まる。かといってこちらがあまり考えすぎると、いわゆる段取りになってしまいそうなので、そこも気をつけなきゃいけない。さらにリンコさんを演じる上で難しいのは、カメラと自分の動きをうまくリンクさせないと、たとえば肩幅が広く見えてゴツく映ってしまう、なんていうこともあります。ほんとにすべてがピタリとハマらないとOKが出なくて、そこは厳しかったです。蜷川幸雄さんより、厳しかったな(笑)。“俺、こんなにしごかれるんだ!”と思いました。でもその分、本当に良くないとOKは出ない、そういう安心感と信頼がありました。

――これまでもいろんな役柄に挑戦して来た生田さんですが、今後も挑戦を続けますか?
【生田斗真】俳優という仕事はいくつになっても、どんなに経験を積んでも、極めるということのない仕事だと思っています。今もたくさんの先輩たちが可能性を信じてチャレンジし続けている姿を下から見ていて、その輝きに憧れていますからね。僕も、挑戦は続けていきます。昨年、舞台に立ったんですけど、本番前は死ぬほど緊張しました。普通の生活をしていたら、そんなに緊張する機会には簡単には出会えないでしょ。それくらい、俳優という仕事はワクワク、ハラハラ、ドキドキがあって、刺激的なんです。やっぱり、その刺激を常に求めて行きたいです。
(文:金子裕子)



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