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SMAPが体得した大人の戦い方、映像集に見る“アイドルの天才”の成熟

 様々な角度からSMAPに迫る連載第24弾。現在も売上を伸ばしている映像集『Clip!Smap!コンプリートシングルズ』について、“後編”をお届けする。フレッシュな若さで魅せる時代から、戦う大人のゴージャスへ。SMAPの成長と成熟が見える映像集は、5人が“アイドルの天才”となっていく過程が記録されている。

ベストアルバム『SMAP 25 YEARS』はミリオンを突破

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◆『嘘の戦争』とクリップ集に見る、SMAPの経験と成熟

 草なぎ剛主演のドラマ『嘘の戦争』(フジテレビ系)は、スリリングなストーリー展開だけでも十分面白いが、作品の肝になっているのは何と言っても草なぎの“表情”にある。子供の頃、目の前で家族を殺され、心に深い傷を負った主人公。真実を語ることすら許されなかった少年時代に、壮絶な孤独と絶望を抱えてしまう。日本ミステリーの大家である松本清張は、自身の小説の中で“なぜ犯人は殺人を犯したか”という“社会的動機”を克明に描写した。『嘘の戦争』で草なぎが演じる一ノ瀬浩一は、殺人こそ犯さないが、子供時代に自分たち家族を地獄へ追いやった事件の犯人やその首謀者への復讐の鬼と化す。彼の初主演ドラマのタイトルは『いいひと』(同系・1997年)だが、20年の歳月を経て、誰もが認める“善人”から、自分の正義を貫くために悪事に手を染めるダークヒーローへの役柄の振り幅の広がりは、ジャニーズ俳優部門の中でも一番と言っていいだろう。発言のすべてに、虚と実が入り混じった一ノ瀬。彼がふとした瞬間に見せる、心の奥に潜むとてつもない悲しみは、過去の殺人事件に関わった人を陥れる行為を、見る側に応援させてしまうほどの強い説得力を持つ。

 なぜ、草なぎはあんな表情ができるのだろうか。地獄を味わった人でないと抱え込むことのできない冷たさや遣る瀬なさ。ある種の“狂気”とも取れなくもない一瞬の迫力。人としての経験値が、桁違いであることを感じさせるその存在感。このコラムの本題は、SMAPの映像集『Clip!Smap!コンプリートシングルズ』のレビューの後編なのだけれど、あらためて25年分の彼らの映像の記録を追ってみて、その経験値の高さに驚愕し、わかったのだ。SMAPとしてのあらゆる経験が、彼らを俳優やアーティストとして他の追随を許さないほどに成長させ成熟させたのだと。5時間に渡るミュージッククリップ集を観れば、確実に、彼らが年齢を重ねるごとに表現力や人間力を増していることが理解できる。

◆若さで魅せる時代から大人の戦い方へ、伝わる“生きるメッセージ”

 スターとなった彼らは、たくさんの人たちの才能と知性と情熱と誠意と技術とを結集させた“音楽”を、常に全力で表現してきた。俳優の人たちにインタビューすると、芝居をするにあたっては、“役を演じる”というより、“役を生きる”と表現する人が少なくない。SMAPの場合も、曲の世界観を表現するたびに、その音楽の主人公の人生を“生きて”いたのかもしれない。90年代のSMAPのビジュアルは、やはり若さや美しさやイキの良さやカッコ良さが際立っていた。「夜空ノムコウ」あたりから、徐々に“かげり”を表現するようになり、ショートフィルム仕立ての「Fly」で、今度は“大人の戦い方”のような、自分たちなりの“正義の貫き方”のようなものを、最高にクールな形で映像化した。「らいおんハート」は、日本のアイドルとしては初の“ウエディングソング”で、まるで予言したかのように、この曲がリリースされた年の秋、木村拓哉が結婚を発表した。

 デビュー10周年記念シングル「Smac」は、ライブで歌われたこともほとんどなく、過去曲の歌詞を盛り込んだ“企画もの”的な作りなのだが、あらためて観ると映像は実験的でシュール。癖になる面白さだ。TシャツにSMAPのメンバーの顔がプリントされたTシャツを着た南国系の男たちが、上野の街を練り歩く。Tシャツの中でしゃべる生命体といえば、日本人ならつい“ど根性ガエル”のピョン吉を連想してしまうが、ヒロシと生活を共にするピョン吉さながらに、商店街や回転寿司屋に出没する5人の姿は、“見たこともない東京”を浮かび上がらせる。これも偶然というべきか、その年のライブでは途中から稲垣吾郎の姿はなく、ツアーのラストで、全員が稲垣の顔がプリントされたTシャツを着て登場した。

 見たことのない映像といえば、「ありがとう」も同様で、切り絵っぽいアニメーション仕様で、アリとSMAPの友情が描かれる。アイドルなのにSMAPがカッコ良く映っているわけでもなく、リアリティも皆無なのだけれど、こうしてクリップ集で観ると、その斬新さについ見入ってしまう。SMAPのミュージッククリップに、常識なんてものはない。どんな調理法でも、SMAPの素材としての強さが消えることはないし、若さが失われても、代わりに獲得しているものの方が圧倒的に多い点も頼もしい。彼らが大人になるにつれ、放つ輝きは“フレッシュ”から“ゴージャス”へと進化した。それもまた、同じ時代を生きる者にとっての勇気につながる“生きるメッセージ”なのである。

◆常に見たことのない景色を提示する5人、その“極限の表情”

 SMAPはこれまで、常に“見たことのない景色”を提示し続けてきた。ニューヨークやロンドンの街角でも、東京のストリートでも、葉山のゴージャスな一軒家でも、メンバーが揃えば、瞬時にそこにSMAPの物語が生まれた。雑誌のグラビアを撮影するとき、編集側は、新しい魅力を引っぱり出したいとか、あるいは一番カッコイイところを、“こんなことやってみたらどうだろう?”とか、事前にいろいろと妄想して、フォトグラファーや撮影場所やスタイリングを決めていく。でも、このクリップ集を観ると、SMAPという存在はもう既にあらゆるステージに立って、あらゆるストリートを徘徊し、あらゆるパーティに出て、あらゆるスタイリングを着こなしていて、その経験値の高さと柔軟性は、どんな働き者の人でも絶対にかなわないだろうなと思う。しかも、その佇まいは、西洋の模倣でもなんでもなく、まぎれもない“クール・ジャパン”そのもの。

 SMAPという人生の中で、彼らは時に鳥になり、花になり、空になり。でも、何より人間らしくあり続けた。それぞれにSMAPであることに傷つき、もがき、苦しみながら、でもおそらくそれ以上の歓喜の瞬間もまた体験してきたはずだ。常に極限の状況に自分を追い込んできた彼らだからこそ、例えば、芝居で役に入った時に、観る側の想像を絶するような“極限の表情”を見せることができるのだろう。

◆5人の天才が“アイドルの天才”になるまで

 ミュージッククリップには、5人5様の“キメ顔”がある。木村拓哉の力強い(でも毎回微妙にニュアンスが違う)キメ顔を見ると胸がスカッとするし、中居正広のちょっとはにかんだような顔と切なく甘い歌声には、心にぽっと明かりが灯る。草なぎ剛は、やはりふと見せる寂しげな顔に、胸がぎゅっと苦しくなって、稲垣吾郎が弾けた笑顔を見せるとこっちまで嬉しくなって、香取慎吾の輝くばかりのビッグスマイルは、心を純化させてくれる。

 SMAPという土壌が育てた5人の天才。彼らが“アイドルの天才”になっていく過程が、このミュージッククリップにはつぶさに記録されている。5人がずっと成長と変容と成熟を続けている、そのことがわかるから、まだきっとこの先に、もっと素晴らしい景色を見せてくれることを、信じずにはいられない。
(文/菊地陽子)

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