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“うるさい脚本家”遊川和彦、現場で演出に口を出す真意とは?

 『家政婦のミタ』(2011年/日本テレビ系)をはじめ、朝ドラ『純と愛』(2012〜2013年/NHK総合)『偽装の夫婦』(2015年/日本テレビ系)など、数々の話題作の脚本を手がけてきたヒットメーカー・遊川和彦氏が、阿部寛、天海祐希主演の映画『恋妻家 宮本』で念願の監督デビュー。「もともと映画監督になりたかった」と話す売れっ子・脚本家の同作にかける想いを聞いた。さらに、自らを撮影現場で演出に口を出す“うるさい”脚本家としながら、その真意についても語ってくれた。

「誰よりもいいもの作りたいという気持ちは負けない」と語る遊川和彦氏

「誰よりもいいもの作りたいという気持ちは負けない」と語る遊川和彦氏

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◆現場で口を出す“危険人物”あつかいされるのも「いい作品を作るため」

――『恋妻家 宮本』が初の監督作品になります。本作も実は、最初は脚本のみの担当だったそうですね?
【遊川和彦】 そうです。脚本を書く上において、まずは重松清さんの原作小説『ファミレス』を読ませていただきました。重松作品は基本的に心に沁みるようないいお話が多いのですが、僕は映像作品ということで、そこにポップな色を入れるなど、映画版ならではの楽しみを入れ込みたかった。それを重松さんに相談したところ快諾いただきました。ところが、重松作品の世界観とは異なる部分が多いので、書いているうちに僕自身「これは演出をするのが難しそうだな」「この世界観が分かるのは僕しかいないのではないだろうか」と思い始めていました。

――誰が監督を務めるのか気になっていたと。
【遊川和彦】 僕はまったく口を出さずにいました。けれども腹のうちでは「僕しかいないな」と思いながら(笑)。監督にはいろいろな方の名前が挙がったのですが、しばらくしてプロデューサーから「撮りませんか?」と言われて、心のなかで「来た、来た!」と。そういう流れですね(笑)。

――演出には以前から興味があった?
【遊川和彦】 もともと映画監督になりたくてこの世界に入ったんですよ。ですが、当時はシテスム上、制作会社のADは演出が出来なかった。だから、脚本を書くようになって、それから作品を重ねるうちにオファーが次々と来るようになり、いつの間にか“脚本家の偉い人”のように扱われるようになってしまった。だから「監督になりたかったのに、自分は何者なのか?」と思いながら生きてきたところはありますね。

――そもそもなぜ、脚本家の道に?
【遊川和彦】 この世界で仕事を始めたのは、素敵な作品が出来上がるのが楽しみで、それを作りたいからです。ですから、自分では物書きとか文学者という意識はなく、作品の設計図を書いているだけといった意識で……。ADの頃から、上がってくる脚本を勝手に直したりしているうちに「もうこれは、自分が書いた方が早いな」と思うようになり(笑)、そんな生意気なことを言っていたら「じゃあお前が書いてみろよ」となったんです。ところが書いてみたらそれなりに出来てしまった(笑)。幸いなことにその後オファーが続き、脚本家としてここまで来られたわけです。今回、初めて監督を務めさせていただき、本来は映画監督になりたかったという想いが30年越しで叶ったという感じですね。長いようで、今思うとあっという間の30年でした。

――遊川さんは、現場で演出の助言をされる脚本家ということでも有名です。
【遊川和彦】 「演出家になりたかったのに」という想いがありましたから、その恨みを晴らすように(笑)。それは冗談ですけど、作品へのこだわりが強いからですかね。現場にも行きますし、自分が脚本を書きながらイメージしていたものと違うと「そうじゃない」と指摘します。すべては最終的な目標である「いい作品を作るため」なのですが、現場で口を出す“うるさい先生”というレッテルを貼られるようになり、“危険人物”あつかいされるようになりました(笑)。自分がなれなかった演出という職業の人間に対して、嫉妬する気持ちも多少はあったのかもしれませんけど(笑)。

◆天海祐希さんに向いていない役柄をやらせるのは僕しかいない(笑)

――天海祐希さんは『女王の教室』など、これで4回目のお仕事になります。あんなに生活感にあふれる天海さんを観ることはなかなかないと感じましたが、どのような演出をされたのでしょうか?
【遊川和彦】 天海さんが一番向いていない役柄って、ふつうの主婦だと思うんです。そこに手を付けるのはとても危険なことだけど、まあ僕しかやるひとはいないだろうなと思いながら(笑)、これまでもやってきました。『偽装の夫婦』では、初恋の人でゲイの超治(沢村一樹)に偽装結婚を依頼され、妻のふりをする女性を演じてもらったのですが、内心毒づきながらも必死に笑顔を保とうとする芝居をする天海さんがとても可愛く思えて、ちょっとキュンとしたんですね(笑)。強い天海さんを見せることは、もうやり尽くされた感があります。ですが弱い天海さんを魅力的に見せるということを、まだ誰もやっていない。だから今作でも、疲れて重力を1.5倍ぐらいに感じて、だらしなくて、愛想も悪くて、そして“ふつう”の優しさを持つ女性を演じてほしいとお願いしました。天海さんは若い頃からトップスターとして頂点に立っていらっしゃったこともあり、非常に折り目正しく、礼儀がしっかりされた方。そういった“いい人”の面を出さないでほしいと話しました。

――映像面でもさまざまなこだわりがあったように思います。妻が離婚届を隠し持っていたことに落胆する陽平の心象風景として、ふつうの日本の街が砂嵐のようになっているシーンがありますが、枯れて球状になった草の塊がコロコロと陽平の背後を転がっていく。日本が舞台なのに(笑)。あれはやはり何かの映画のオマージュ?
【遊川和彦】 僕は映画人なので、自分の好きな作品に影響されないわけがなくて。砂嵐のシーンは『ドクトル・ジバゴ』(1965年)のオマージュです。また、ディズニー映画では、悪役は必ず影から先行して、登場人物が影を覆って振り返るとそこに悪役が立っているというシーンが多いのですが、そういったオマージュも今作に入っています。原作の重松作品らしくないというのはそういう部分も含めてのこと。僕は“遊び”の部分が大事だと思っていて、どう退屈させないか、どう予想できない展開にするか。そういうものをいろいろ込めて作ったつもりです。

――コメディを書かれていても、そういった“知性”が感じられました。
【遊川和彦】 ひとを笑わせるというのは、簡単そうに見えて、実は一番難しい。“笑い”は知性がないと理解できないというところがあります。笑いは、もとになるものを知っているという前提で作られていく。だから、やっぱり名作には笑いが含まれていることが多いんです。

◆無謀にも黒澤明さんを超えたいと思っている(笑)

――映画監督としても“笑い”の部分を突き詰めていかれる?
【遊川和彦】 僕は無謀にも黒澤明さんを超えたいと思っていて(笑)。やっぱり黒澤明さんに勝つには“笑い”しかないと常々思っていたんです。なに言っているんだって笑われてしまうかもしれませんが、“山”はまず登ろうとしないと始まりませんからね(笑)。

――遊川さんも覚悟を持って監督をなされた。
【遊川和彦】 「誰よりもいいものを作りたい」という気持ちだけは負けないと思ってやってきたものですから。その想いが伝わって監督をできることになったのも、諦めずにコツコツとやってきたおかげかもしれませんね。やはり人間、クサってはいけない。信念のもとに続けていけば、夢だったものが、ある日突然、現実のものとして目の前に現れいづることがあるんです。僕も30年越しの監督業への夢の実現に「ああ、なるほど。昔、母に言っていた夢がこのように叶うのか」と、喜びよりも感慨のほうが大きかった。人生はおもしろい。自分の想像できないような形で夢が叶うことがある。ぜひ皆さんも、どんなに辛くても仕事を積み重ねていってみてください。

――“危険人物”とも言われるほど熱い遊川さんの想いがつまった初監督作ですね。
【遊川和彦】 今作に込めたテーマは「観るひとが優しい気持ちになってくれたら」。僕の作品だと、観終わったあとで嫌な気持ちになるんじゃないかと心配している方もいるかもしれませんけど、今回はそれはありません(笑)。夫婦で観てもケンカになることはありませんし、結婚を考えているひとが結婚生活に不安を感じるようなこともないはず。観ていただく方に、少しでも希望を持ってもらいたいと思って作りましたので、安心してご覧ください。
(文:衣輪晋一)

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