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日本の映画業界が抱える課題 人材育成の“環境作り”が鍵に

 『シン・ゴジラ』『君の名は。』がヒットし、邦画の“当たり年”と言われる2016年。その一方で、年間ランキングは邦画で埋まる“ガラパゴス化”が本格的に危惧されるなど、映画界には向き合わなければならない課題もある。邦画界の製作にまつわる現状について、チェン・カイコー監督作『始皇帝暗殺』(1998)など海外との合作を製作し、欧米やアジアの作品への投資の先駆けとなった映画プロデューサー・井関惺氏(73)に聞いた。

邦画界の製作にまつわる現状について語ってくれた井関惺氏 (C)ORICON NewS inc.

邦画界の製作にまつわる現状について語ってくれた井関惺氏 (C)ORICON NewS inc.

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■転換期を迎える邦画界 時代に合わせて「体質を変えないと」

 井関氏は「日本では外国映画が当たらないと長く言われてきて、今や完全なガラパゴスになってしまった。独自の発展を遂げて生きていけるならそれでもかまわないけれど、体質を変えないと発展が止まってしまいます」と警鐘を鳴らし、中国映画に目を向け始めた日本映画界について「もう遅い」と指摘する。

 最近では、マット・デイモン主演の『オデッセイ』(2015)で中国国家航天局(CNSA)が登場したほか、『トランスフォーマー ロストエイジ』(2014)の物語の後半の舞台が中国大陸だったように、近年のハリウッド大作における“中国要素”の多さが目立っている。数年前まで米国に次ぐ市場とされていた日本を抜き、映画ビジネスにまつわるすべての側面で著しい成長を遂げてきた。

 「もう遅い」理由について、「今の中国の目は、日本ではなくハリウッドに向いている」と説明し、「レオナルド・ディカプリオ主演の『レヴェナント』にも中国のお金が入っています。日本で洋画がヒットして、これからの映画界が少し変わるかもしれないっていうときに『君の名は。』がヒットしたから、まだ変わらないような気もします」と辛らつな言葉を並べる。

■多すぎる“プロデューサー”「仕事が確立されていない」

 井関氏は、約10年前にORICON STYLEの取材に応じた際にも、邦画界の製作に関する問題点について「監督に雑音が聞こえない環境づくりがプロデューサーの仕事ですが、残念なことに、現在の日本のシステムでは不可能ですね。お金を出す人は意見も出す。すべてが悪い意見とは言わないまでも、実質的にはプロデューサーという仕事が確立されていない」と明かしていた。

 当時も問題の一つとしてあげていた“製作委員会方式”によるプロデューサー職の多さは、現在も改善していない。

 「映画のエンドロールでプロデューサー、製作、企画…と、プロデューサーに分類される名前が多くて、これが30人を越える場合もある。僕は、最終責任を持つ人間がプロデューサーであるべきと思っていますが、日本の場合はそれが曖昧なので、現場で何か問題が起きたときに対処するまで時間がかかってしまう」。

 井関氏は、自身が企画・製作に携わったウェイン・ワン監督作『Smoke』(1995)がクラインクインの前に俳優が消えるという問題に直面するなど、数々の映画の現場の経験から「撮影にトラブルはつきもの」と断言する。

 「もともとはティム・ロビンスとトム・ウェイツが出演するはずだったのですが、製作費を出してくれた配給会社のミラマックスと過去に揉めていたロビンスが降りてしまい、ウェイツは離婚騒動で大騒ぎになったことが原因で行方不明に。なんとか連絡をとっても『出演できない』と言われてしまい、最終的にハーヴェイ・カイテルとウィリアム・ハートに出演が決まりました」。

 そんなエピソードもあり、「その場ですぐ解決するのが、プロデューサーの役割。今のままでは、機能としてどうしようもならないです。“製作委員会”方式で生み出される作品が多い今の日本のシステムだと、日々大きな決断をすることはできない。これをどうにかしないとクリエイティブな環境にはならないですね」と力を込める。

■人材育成の“環境作り”が鍵に

 現状の問題点について語ってもらったが、それを改善させるためには「多くの人間を長く働かせられる」ような環境づくりを目指し、世界へ目を向けられる人材を育てることが大事だと話す。

 「今の映画界の最大の問題は、若い人たちが入ってきたいと思える環境を作れていないこと。給料が安すぎます。お金のためだけに映画を作っているわけではないし、『給料は少なくていい』って言う子もいるけれど、そういう子も半年で辞めてしまうことがあった。もう少しお金をスタッフに回せるように、誰でもいいからうんと儲けてるようなクリエイターやプロデューサーが誕生すれば、なりたいっていう人も増えると思う。

 今映画を作ろうとしてもスタッフ集め、助手集めがものすごく大変なんです。20代の子たちが入ってきてもすぐ転職してしまう。邦画界は、そこから変えていかないといけないところまで追い込まれている。『君の名は。』が当たったことは悪いことじゃないので、これからいい方向にいくことを願っています」。

■井関惺(いせき・さとる)
1943年東京都生まれ。大学在学中に、日本ヘラルド映画に入社。映画の宣伝、買い付け、邦画の海外セールス業務などを行った。ヘラルド・エースの設立と共に、取締役に就任し、大島渚監督作『戦場のメリークリスマス』(83年)、黒澤明監督のアカデミー賞外国語映画賞受賞作『乱』を製作し、全世界でキャンペーンを行なった。

■映画『Smoke』
現代アメリカを代表する作家ポール・オースター氏が1990年ニューヨークタイムズに発表した短編小説を基に、『女が眠る時』『ジョイ・ラック・クラブ』のウェイン・ワン監督がメガホンをとった作品。都会で暮らす男女それぞれの嘘と本当、過去と現在が交差する中で生まれた不思議な絆を描く。恵比寿ガーデンシネマで25週にわたるロングラン上映という記録を打ち立てた。YEBISU GARDEN CINEMAにて上映中、順次全国公開。公式サイトhttp://smoke-movie.com/

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  • 邦画界の製作にまつわる現状について語ってくれた井関惺氏 (C)ORICON NewS inc.
  • 邦画界の製作にまつわる現状について語ってくれた井関惺氏 (C)ORICON NewS inc.
  • 映画『Smoke』(C) 1995 Miramax/N.D.F./Euro Space
  • 映画『Smoke』(C) 1995 Miramax/N.D.F./Euro Space
  • 映画『Smoke』(C) 1995 Miramax/N.D.F./Euro Space
  • 映画『Smoke』(C) 1995 Miramax/N.D.F./Euro Space

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