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野田洋次郎、『君の名は。』サントラ語る「100%映画に寄り添った、完全に映画のための音楽」

 野田洋次郎RADWIMPS)によるソロプロジェクト「illion」が、10月12日にニューアルバム『P.Y.L』を発売した。illionは海外での活動を視野に入れたプロジェクトとしてスタートし、2013年3月発売の1stアルバム『UBU』から約3年を経て、今夏は日本初パフォーマンスとなる「FUJI ROCK FESTIVAL ‘16」に出演したほか、東京、大阪でもライブを行い、ついにフルアルバム発売となった。RADWIMPSとしても、『君の名は。』サントラが注目を集めている中、ORICON STYLEでは野田にインタビューを実施。ソロプロジェクトの話から『君の名は。』サントラ、現在の野田自身の創作意欲まで、様々な話を聞いた。

ORICON STYLEのインタビューに応じた“illion”ことRADWIMPS野田洋次郎

ORICON STYLEのインタビューに応じた“illion”ことRADWIMPS野田洋次郎

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■illionはRADWIMPSとは真逆にある、自分の音楽の遊び場

――従来のRADWIMPSの楽曲や、『君の名は。』サントラとillionとでは、制作のスタンスや、メロディが生まれてくるきっかけには違いがあると思うのですが、どんなところですか。
【野田洋次郎】 音楽が生まれてくる“場所”がまったく違うんです。RADWIMPSの場合は、何を伝えるのか、歌詞で何を言うのかを思考します。1曲の完成品として、物語だったり、ポピュラリティを持つべきだと思うし、何かしらひとつの責任を背負った状態でRADWIMPSの音楽は鳴らされるべきだなと考えていて、その中で、楽しみを見つけられるんです。illionはその真逆にあって、まずはトラックを作って、そこから歌をどうしようかと、その場で生まれた言葉を乗せていくんです。だから、あまり思考せずに、自分の音楽的な遊び場をそのまま聴いてもらう感じです。それが僕にとって、すごく気持ちいいもので、これは聴く人にとっても、気持ちいいものになるんじゃないかと思いながら作りました。

――『君の名は。』のサウンドトラックは、映画音楽として成立させながら、RADWIMPSの作品として、バンドのヒストリーの中に見事に落とし込まれた作品だと感じていますが、どのようにそのバランスを取っていったのでしょうか?
【野田洋次郎】 聴いた人からすると、バランスのいいものに感じたかもしれませんが、僕らとしては、100%映画に寄り添った、完全に映画のための音楽を作ったという感覚でした。そうした制約の中で、特にインスト曲に関しては新しい発見もたくさんありましたけど、歌詞がある曲に関しては、新海(誠)監督が求めるRADWIMPS像が相当に強いものがあって、そこは最後までブレがありませんでした。もちろん、直接的に映画のことを歌っているわけではないのですが、僕が新しい提示の仕方、つまり監督のRADWIMPS像から外れた表現をしようとすると、それは違うということになったりして。ですから、監督が求めるど真ん中を歌にしようという意識を強く持っていました。

――ここ最近、表だった活動が続いていますね。これまで、RADWIMPSや野田さん自身は、長いキャリアのわりには、どこかベールに包まれた存在という印象が強かったのですが、気持ちが外に向いているという感覚があるのでしょうか?
【野田洋次郎】 そうですね……僕が大人になったんだと思います(笑)。人の言うことを聞くようになったというか。それは、自分にとって、相当大きなことで。昔は、あまり(人の意見を)聞かなかったので(笑)。

――『P.Y.L』を聴いても、デスクトップで作り込んだ作品にも関わらず、いい意味で内面に向かい過ぎず、外に開いた作品のように感じました。
【野田洋次郎】 作っていた時の自分のマインドとしては、完全にプライベート空間で作っていたわけですけど、もしそう聴こえたのだったら、嬉しいですね。音が開いているのかな……確かに、根を詰めて、真っ暗な中で作っていたというわけではなくて、本当に楽しみながら制作しました。今は、音楽を作ることがずっと楽しいんです。『P.Y.L』を作れたからこそ、今は、以前よりもさらにRADWIMPSに深く戻れている感覚もあって。RADWIMPSの強靭なポテンシャルに改めて気付くし、RADWIMPSにしかできないことも分かるんです。それに、メンバーがどんどんパワーアップしていることも感じる。昔は、ずっとRADWIMPSの中だけにいて、特にそれほど表に出なかったこともあって、自分たちを取り囲む壁がどんどん分厚くなっていって。そうなると、やっぱり危険と隣り合わせというか、酸素が薄くなっていくんですね。外から見た自分たちというものが、あまり見えなくなる。そう考えると、今は、とても風通しがいい気がします。

■ある日パタッと何も生み出せなくなることへの恐怖心

――特に現代は、SNSで誰もが評論家となって、音楽や言葉の伝わり方も変わったように思います。その中で、意図しない形で音楽や歌詞が広まっていくこともあるかと思いますが、作り手としてはどのように考えていますか?
【野田洋次郎】 それを気にし過ぎると、そちらに(意識を)持っていかれるので、気にしないようにしています。でも、今という時代の音を鳴らしているわけですから、どうしても時代とリンクせざるをえないし、それはすごく誇らしいことでもあると思っていて。ただ……そうですね、勘違いや、偽りがたくさんあるという前提で、みんな言葉を発しているのかなというようには感じています。僕自身、こうやって少なからず表に出るということは、架空の自分というものも、どんどん肥大化していっているとも思いますし、それはそれで、すごく不思議な物語のある世界だなと思っています。

――そうした世界に対して、クリエイターとしての本質を見失わずに作品を生み出していくポイントは、何だと考えていますか?
【野田洋次郎】 そこに関しては、何も考えていません。というか、ただ必死にやっているだけです。僕は、作れるうちに作りたいという、個人的な動機が強いんです。やれるうちにやりたい、残せるうちに残したい、生きている間にどれだけ作れるだろうかっていう。だから、時代性などに関しては、今は特に考えていません。逆に昔の方が、いろんなことを考えていたのかもしれませんけど、今は、(音楽が)生まれたままに、とにかく作っていきたいという欲求に従っています。むしろ、ある日、パタッと何も生み出せなくなる恐怖心の方が強くて、だからこそ、今の方が、純粋に音楽を作れているように思っています。

――その純粋さは、自分が生み出す音楽や言葉に対する自信からくるものなのでしょうか? それとも、また別のものから得た感覚なのでしょうか?
【野田洋次郎】 どうなんですかね……でも、ちょっと前の自分より、今は自信を持てているんだろうなとは思います。僕はずっと、みんなが「RADWIMPSが好きだよ」とか、「(自分を)好きだよ」と言ってくれる言葉を排除してきた気がしているんです。そう言われても、「いや、だって僕は、これも出来てないし、あれも出来てない。やりたいことにたどり着けてないし」という思考の持ち主だったので。でも、そろそろいい加減、自分が真っ当に獲得したものは、ちゃんと自分で大事にしてあげていいんじゃないかと思えるようになったんです。ネコババしたものではなく、きちんと自分で手にしたものであれば、「好きだよ」と言ってくれる人に対して、真っ直ぐに「ありがとう」と言えるようになりました。こうなるまで、10年という時間は長すぎたとは思いますけど、そういう自分にやっとなれて、その人たちに何を届けられるかという思考が強くなってきたと思います。ただ、それが“自信”なのかどうか……自分が求められなくなるかもしれないという想いは常に持っていますし、求められる間は応えたいなと思っていて……何なんですかね? ちょっと不思議な感覚です。

――illionとRADWIMPSは、月と太陽のような関係性ですね。
【野田洋次郎】 そうですね。だから、メンバーが『P.Y.L』にどう反応するのかという点も、すごく楽しみですし、今後、どんどん面白くなっていきそうだなと感じています。今は、やりたいことが、次から次へと出てきていて、止まらないんですよ。しかもそれを、無理することなく、そんなに力まずにできているので、本当に楽しくて。11年間やってきて、今が一番楽しいと思えることは、すごく幸せなことだと感じています。だからこそ、いろんなことをやりたいという気持ちに置いていかれないように、それらをきちんと形にしていきたいなと思っています。

(文/布施雄一郎)

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