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押井守監督、世界発信する日本コンテンツの肝は“高級駄菓子”感

 構想15年、製作費20億円。世界20ヶ国で上映された超大作『ガルム・ウォーズ』がいよいよ日本で公開された押井守監督。そんな押井監督に多大な影響を受けたと語る、日本伝統文化を再構築するクリエイティブディレクターの丸若裕俊氏。世界に向けて日本コンテンツ、文化を発信するふたりがジャンルを超えて熱く語り合った。世界の人々は日本コンテンツのどこに注目するのか?

◆西洋人が気にしているのはオリエンタリズム(丸若裕俊)

【丸若裕俊】 押井さんは世界に作品を発信されていますが、僕も日本の伝統文化を海外に紹介していくなかで感じていることがありまして。日本人が作るものが海外で評価されるのって、マジメさや品質の良さといった部分だと思われがちですけど、西洋人が気にしているのはオリエンタリズムというか。自分たちがこれまで抱いてきたカテゴリーや文脈に当てはまらなくて、分からないものだけど美しい。そういうものに魅了されていますよね。

【押井守】 彼らはすごく貪欲だから、自分たちの周辺にない表現を絶えず求めているんです。日本のアニメーションの動き、キャラクター表現、デザイン、色彩など貪欲に取り入れています。でもそういう表現を求めているけれども、その心というか、なぜこの表現が出てきたのかということに関しては意外に淡泊というか、全然興味がない。

【丸若裕俊】 本当にそれは感じます。逆に日本人は心を知ってもらいたいと思うから、そこを一生懸命に説明するけど、彼らはあまり理解しようとしないですね。

【押井守】 そこは日本の職人にも似たようなところがあって。CGと手描きの絶対的な違いって何かと言うと、ノイズがとても多いことなんです。(『攻殻機動隊』の主人公)草薙素子の顔も、アニメーターが100人いれば100人とも全然違うわけです。でも、CGだとみんな一緒になってしまう。最近は工夫して、アップは別に描いたりしていますけど、それでも人間の手で描く画ほどノイズが入らない。作品に宿る観る人を惹きつける力には、手業による膨大なノイズが人をひるませることがあります。手業の価値ってそこにしかないから。でも実際、職人さんはそれを自覚してやっているわけではないんですけどね。

【丸若裕俊】 押井さんはそれを感じていても、職人さんはそこに興味がないと。

【押井守】 全然ない。だからあの人たちに仕事をさせるためには高いハードルをあえて設定する必要があるんです。あえて無理なことやらせる。そうじゃないとノイズが出てこないから。結局、職人さんにはプロデューサーやパトロンが必要なんです。アニメは、今はそのパトロンがブルーレイやDVDを買ってくれる一般層になっただけ。最近はクールジャパンも含めていろいろな人が訪ねて来て、世界に発信してほしいと言われるんだけど、今まではそういうつもりで仕事をしてこなかったから。そもそも『攻殻機動隊』だって、まさかあそこまでヒットするなんて思っていなかった。でもやってみたら確かに環境が変わってしまったんです。そこで意識して同じことができるかっていう話なんですよね。

◆意識しなくてもいつの間にか日本人的な感性が出てしまう(押井守)

【丸若裕俊】 意識してそれをやるのは非常に難しいことですよね。押井さんの最新作『ガルム・ウォーズ』を拝見させていただきましたが、押井さんがやろうとしていることは一貫しているんだなというのを感じました。どんな世界であっても、押井さんの絶対的な世界観は変わらないんだと。

【押井守】 今回はカナダとの合作で作ったんですけど、契約的な問題でほとんど向こうのスタッフとキャストを起用することになりました。それで自分の映画が作れるのか、というチャレンジだったんです。その結果、打ち上げパーティーでカナダ人のプロデューサーから「これはヘンな映画だ」と言われて。英語で作られているし、出演しているのもカナダ人の俳優なのに、独特な目の動きとか、後ろ姿のたたずまいとか、どう見ても日本映画にしか見えないと。自分では意識していなかったんですけど、どこでどんな状況で撮っていても、いつの間にか日本人的な感性が出てしまうんですね。

【丸若裕俊】 自分も常々思っていますが、“クールジャパン”や“メード・イン・ジャパン”を無理やり打ち出さなくてもいいということですね。

【押井守】 先日、イタリアのコミコンに呼ばれたんですけど、『プリキュア』や『美少女戦士セーラームーン』のコスプレをしている人がたくさんいて、“カワイイ”が共通の感性として定着していました。基本的に僕がやっていることってそこと変わらなくて。高級な駄菓子みたいなものなんです。ある意味、ビー玉みたいなものだとも言えますよね。水を注いだグラスのなかにビー玉を入れて、光を当てると、宝石よりもキレイに見える。それが監督の仕事なんです。僕がやっていることも、難しいことをいろいろと並べているように見えるかもしれないけど、コスチュームを着て、マントをひるがえして敵と戦ったり、戦車を走らせたりということなんです。一歩間違えれば、ただのコスプレ大会になってしまうようなこと(笑)。それをいかにして回避させるのか。そういう知恵がなかったら映画なんて絶対に作れない。

【丸若裕俊】 パロディではなく、いかにリアルにするかだと。押井さんの作品って、しっかり予習して、予備知識を持って観ないとついていけないとか思われるかもしれないんですけど、僕からするとまったくそんなことはなくて。気構えずにいきなり飛び込んでも、難しいことはなにもなくて、その世界を純粋に楽しめると思います。

【押井守】 毎回やっていることは一緒なんです。器が違うだけで。ハードボイルドだったり、アクションだったり、SFだったり。今回の『ガルム・ウォーズ』はファンタジーの器に載せてみたということです。

【丸若裕俊】 今回はどんな器に載っているんだろうという楽しみが毎回ありますね。

【押井守】 それが職人と一緒にやる大変さでもあり、おもしろさでもあります。
(文:壬生智裕)



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