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坂口健太郎、躍進中の若手俳優が胸中を語る「正解のないグレーゾーンにいたい」

 日本映画界を代表するオールスターキャストが集結した、前後編2部作のエンタテインメント大作『64-ロクヨン-前編/後編』。俳優の坂口健太郎は、これまでとはガラリと違う雰囲気で、県警広報室の対応に憤る、若き地方記者・手嶋を熱演した。映画、ドラマと大活躍中の若手俳優が同役を通して考えさせられた自身の“正義”、いま感じる俳優業のおもしろさについて聞いた。

◆芝居が変わった佐藤浩市からのひと言

――今回、坂口さんが演じた手嶋について、原作の本作主人公・三上のメモによれば「東洋新聞サブキャップ。H大卒。26歳。思想背景なし。生真面目。敏腕記者症候群」と書かれています。
【坂口】 横山秀夫さんの原作でも、台本にも、手嶋って多くを語られているキャラクターではないから、三上のメモは参考にしました。でも今回の役について考えるとき、いちばん最初の段階では、あまり新聞記者ということを考えていなかったかもしれないですね。記者という部分を外したところで、手嶋には秋川みたいなちょっと怖い上司がいて、広報官という役職を考えずに、三上という何かを引き出さなくてはいけない相手がいる。若手だし、上からの重圧もあるし、ジレンマもあるキャラクターなんだろうなというところから、役を作っていった感じです。その作業の後に、県警の記者クラブに所属する記者であることを、少しずつ肉づけしていって。

――佐藤浩市さんふんする三上へのすげない物言いなど、若者らしい、とんがった雰囲気が、とても新鮮でした。広報室と激しく対立する、記者クラブの撮影現場は、どんな雰囲気でしたか?
【坂口】 記者クラブでお芝居をするときって、どうしても記者クラブ対広報の図になりがちだったので、常にいい緊張感がありました。撮影が始まる前日に、みんなで乾杯をしたんですけど、そのときに浩市さんが「明日からどんどん俺に向かってきてくれ」と言ってくださって。そのひと言のおかげで、お芝居がすごく変わったと思います。坂口健太郎からすれば、佐藤浩市さんはすばらしい役者さんで、しかし映画の世界では、そんなことを言っていられないじゃないですか! 浩市さんのひと言で、手嶋が発言するときの力の入れ方も、少し変わったんだろうなと思います。

――撮影で、印象に残っているシーンはありますか?
【坂口】 僕がちょっと驚いたのは、前編のクライマックスで(匿名問題にケリをつけるため、記者クラブにひとりで乗り込んできた)三上が銘川老人の話をした瞬間でした。浩市さんのお芝居で、現場全体が冷静になったような気がして。記者クラブと広報室って、何かあるたびにいがみ合う関係性。広報には広報なりの正義があって、クラブにもクラブなりの正義がある。それぞれの正義をぶつけ合うから、答えの出ない問題をずっと小競り合いしているような状態。お芝居をやっていると、皆さんの熱がどんどんヒートアップしていって、楽しかったんです。そんななか、クラブのみんなが忘れていた老人のことを、三上に気づかせてもらったとき、一瞬で熱が落ち着いたというのか。あのときは本当にびっくりしました。

◆僕自身、こんな役者になりたい、こんなお芝居がしたいというのが全くないんです

――さまざまな立場の正義がぶつかり合い、重厚な人間ドラマが生まれてゆく本作に参加されて、坂口さんご自身は“正義”というものをどう考えますか?
【坂口】 正義はたぶん、人の数だけあるんだろうと思います。自分の考える正義が、ほかの人からしたら、正義だとは言い切れない。その人の正義というのは、ちょっとずつズレていたりするんだろうなという印象です。100%の正義というのは、ないような気がして。だけど100%ではないんだけど、100%だと信じて行動しないと、正義には結びつかないとも思うんですよね。

――そんな人間の曖昧さを表現する、役者業のおもしろさは実感されているんでしょうか?
【坂口】 それはけっこう思います。ちょっと話がずれてしまうかもしれませんけど、僕自身、こういう人になりたい、こんな役者になりたい、こんなお芝居がしたいというのが全くないんです。すばらしい役者さんも、大好きな役者さんもたくさんいますけど、それは僕ではないから。誰かをなぞるのではなくて、いまの自分だからできることが絶対にあると思う。それはすごく難しいことだと思うのですが……。だからあえて“こんな人になりたい”という、憧れの人は作らないようにしているところもあります。でもいろいろな人の影響は受けていたいんですよね。ちょっと矛盾してるんですけど(苦笑)、僕はそういう正解のないグレーゾーンにいたいと思います。

――本作で、いちばん影響を受けた人は誰ですか?
【坂口】 浩市さんですね。浩市さんであり三上です。三上って、記者クラブとも、警察内部でも、刑事部や上層部とも闘っている。人とも闘っているし、組織とも闘っている。失踪した娘を持つ親の想いとも闘っている。(本作の舞台となった)昭和から平成という時間の流れのなかでは、時代とも闘っている。影響を受けたというよりも、全てと闘っている人って、すごいなと思いました。時代と闘うなんて、僕には想像もできないから。
(文:石村加奈)



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