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佐藤浩市、原作至上主義の日本映画界への想い「若手もベテランも一緒にすべきこと」

 昨年のドラマ化でも話題になった作家・横山秀夫氏の衝撃作が、主演に佐藤浩市を迎えて『64-ロクヨン- 前編/後編』として映画化された。佐藤が演じたのは、警察組織のなかで生きる葛藤を背負い込みながら娘の家出失踪という家族問題も抱える主人公・三上義信。大ベテランの佐藤でさえ気負いもあったという超豪華オールスターキャストの今作への想い、長い俳優人生を歩んできたなかで“いま日本の映画界に対して思うこと”を聞いた。

◆役者の気負いや気合いが映像に現れなければ2部作にする意味がない

――今作には、ベテランから若手までいまのエンタテインメントシーンで大活躍中の役者が集結しています。そのなかで主演を務めることに気負いのようなものはあったのでしょうか?
【佐藤】 気負った部分はあったと思います。役者の気負いや気合いが映像に現れなければ今作を2部作にして見せる意味が無いと思っていました。CGなどない人間同士の気迫がぶつかり合う作品ですから。僕が演じた三上は広報官なので、記者団とのシーンにおいてはエキストラを含む記者クラブの全員に向かって「僕の台詞が聴こえなくなるぐらい全力でぶつかってこい!」と伝えたんです。みんなを挑発することによって、自分自身を鼓舞させるということでもあったのですが……。お芝居とはいえ記者たちからのエネルギーを跳ね返せなければ三上という役を演じることはできないですし、僕自身も終りだなと思っていました。以前出演させていただいたドラマ『クライマーズ・ハイ』(NHK)で、横山秀夫さんの原作のあり方がわかっていたので、そのときと同じような覚悟が必要だと思いながら演じました。

――三上を演じるうえで気をつけたことはありますか?
【佐藤浩市】 三上自身が抱えている闇みたいなものや、家族に対しての負い目が彼をアクティブにさせていると感じました。家族に対して「俺は刑事だからこんなに大変なんだ」と言い訳をして無関心でいるのを、娘に見透かされていることも薄々分かっていた。そして、以前自分が関わった事件の被害者である(娘を失った)雨宮と再会することで、より強くそういった部分を認識しなくてはいけなくなってしまった。そういうことを意識しながら演じるようにしていました。

◆僕自身に関しては、一般家庭と環境が違い過ぎる

――三上は娘との間に埋められない溝を作ってしまいます。三上を演じたことでご自身の家族について考えたこともありましたか?
【佐藤】 僕自身に関しては、一般家庭とは環境が違い過ぎるので、なかなか自分の家族と照らし合わせることはないです。ただ、三上の気持ちが理解できる部分はありました。僕は、自分の家族が学校でどう見られるのか、周囲がどう接してくるのかということがわかってしまう。だからこそ子どもに厳しくしてしまうこともありました。それを失敗したなと思うこともあれば、その反面甘やかした部分もあったと思うこともあります。演じたことで自分の家庭について考えるというよりは、役の気持ちやその家族について共感できるところがあったということですね。

――先日、諏訪を演じた綾野剛さんが「“アマチュアの鎧を着たプロであれ”という浩市さんの言葉が胸に響いた」とおっしゃっていました。それはお父様や先輩方から受け継いできた大切な言葉なのでしょうか?
【佐藤】 受け継いだのではなく、そのときにパっと出てきた言葉だったと思います。伝統・伝承芸能である歌舞伎の世界なら「お前の踊り方はこうだけど、このやり方は先先代とは違う」といったことはあると思いますが、役者というのはそうではないですから。ただ、何十年もこの世界に身を置いていますので、若い役者たちから意見を求められれば応えるようにしています。綾野君も今後その時々の現場や作品、共演者の方々からいろいろな言葉と出逢っていくと思います。

◆今の映画界に対して、どうなんだろう? と思う部分はある

――昔と今とでは公開される映画のジャンルがかなり変わってきていて、今作のような社会派小説のほか人気少女漫画など原作ものの実写映画化も増えました。長年俳優として活躍されてきた佐藤さんはいまの日本の映画界に対してどんなことを感じていますか?
【佐藤】 オリジナル作品は作らないという映画会社も実際にありますし、原作至上主義という世の中だとも感じています。それはどうなんだろう……と思う部分は確かにありますが、若い子向けの原作ものの実写映画は、確実に観客が入る見込みがある。僕が若い頃はそういった原作ありきの青春映画を作ってもお客さんはなかなか入らなかったんです。大人向けの映画のほうが劇場に観に来るひとが多かったですし、ドラマも若いひと向けのものはなかなか観られない時代でした。だから、その時代のニーズにあった映画が作られているということで、それは映画界として当たり前のことです。

――若い層向けの作品が多くなれば、若手の役者たちが出演する機会も多くなりますね。
【佐藤】 いまの時代のような若い役者が活躍できる場がたくさんあるのはとても良いことだと思います。一方、今作のようなシリアスな社会派の作品がマーケットとして成立するのであれば、それはひとつ裾野を広げることにもなる。映画界が活性化すればオリジナル作品ももっと作られていきますし、若い人向けの映画が多いというのは決して悪いことではないと思います。

――若い役者さんたちとそういった話をすることもありますか?
【佐藤】 ふだん僕からそういう話はほとんどしないですね。こうやって聞かれれば答えますけど。若手の役者たちは若い人向けの映画だけじゃなく、今作のような大人向けの映画にも出演しています。最近は大人たちが劇場になかなか足を運ばなくなっている現状もあるので、若い人たちにもっともっと映画を観てほしい。若手もベテランも一緒になって、どうしたら劇場にお客さんが来てくださるのかを真剣に考えて、行動しなければいけないと思うんです。そのためには僕も広報となって宣伝活動を全力でやります。その結果、劇場に足を運んでくださった方が今作を“おもしろかった”と感じてくださったら本当に嬉しいです。
(文:奥村百恵)



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