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『暗殺教室』原作者・松井優征が語る“白”のこだわりと読者の目を遅らせる画面

 累計発行部数2100万部を超えるヒット作『暗殺教室』原作者の漫画家・松井優征。巨大書道によるライブパフォーマンスやプレゼンテーションクリエイターとしても注目を集める気鋭の書家・前田鎌利。漫画と書、紙に書くというアナログな表現を生業とする2人のクリエイターが初の対談。その前編では、クリエイティブとは何か? 書くことだけではない、書かない“余白”へのこだわりにクリエイター魂が共鳴した。

漫画家・松井優征と書家・前田鎌利が対談。クリエイティブとは何か?書かない“余白”へのこだわりについて語り合った(写真:逢坂 聡)

漫画家・松井優征と書家・前田鎌利が対談。クリエイティブとは何か?書かない“余白”へのこだわりについて語り合った(写真:逢坂 聡)

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◆型にとらわれない。気持ちが乗る自由なスタイルを貫いてきた(前田)

【松井】 前田先生はとても不思議な経歴ですよね。プレゼンテーションクリエイターと書家では、どちらが本業なんですか?

【前田】 どちらが本業かと問われれば書家ですが、自分のなかではやっていることは同じで、ツールが違うだけなんです。ただ、プレゼンをする書家というのは、なかなかいないと思います(笑)。大体書家って、ロン毛で作務衣を着て……ってイメージなんですけど、そうじゃなきゃ書家じゃないのか? って僕は思うんです(笑)。もっと書道の敷居を下げたいんですよ。

【松井】 少し身の上話をさせていただくと、僕も小学生の頃、1年間だけ書道を習いに行かされていたんですけど、なぜ1年で辞めたかと言えば、1年やって7級から1級も上がらなかったからなんです。その大きな原因のひとつが、左利きを矯正して、右手で書かなくてはいけなかったことでした。

【前田】 僕は矯正しないんです。僕自身も、右手に飽きたら左手で書いたり、口や足、いろいろやってみて、おもしろい書き方を見つけていきます。書き順も自由ですし、二度書きしたっていい。JAXAの宇宙ステーション補給機「こうのとり」の名前を揮毫(きごう)したときも、打ち上げに成功してほしいという思いを込めて、書き順を無視して、下から打ち上げるように書きました。自分もその方が気持ちも乗るので、お教室の子どもたちにも「作品を作る上では自由にやりましょう」と話しています。

◆『暗殺教室』5巻では普通の“白”じゃないと思わせたかった(松井)

【松井】 前田さんの書道は自由で良いですね。僕もこういう書道に出会いたかったなあ。どうも書というのは、何が正解かというのもよくわからなくて。

【前田】 正解はないですね。見ている方の主観で感じていただければいいんですけど、おもしろいことに、書に対してはみなさん“好き嫌い”じゃなく、“上手い下手”をすぐに言いたがるんですよ。絵画や写真、映画なんかを見ても、あまり上手いとか下手では語らないでしょう? 例えばモネの絵を見て「うまい!」なんて言う人がいたら「何様だ、おまえは!?」みたいな話ですよ(笑)。僕がいつも言っているのは、書は上手い下手で見るものではなく、好き嫌いで見るジャンルのひとつです、と。じゃあ書のどこを見て、好き嫌いを言うかというと、余白を見るんです。

【松井】 余白ですか! 漫画家をやっていると、ひと目見れば、この作者は直線が好きか、曲線が好きなのかというのはわかるんですよ。でも余白って感じ方はなかったなあ。

【前田】 墨の部分より、白い部分をどう切り取ったかを見ていくと、自分の好きな白の残し方というのがあるんです。すると文字が読めなくても、好き嫌いで書を見ることができます。『暗殺教室』を拝見して、いちばん印象に残ったのが、5巻の表紙裏に書かれた松井先生のコメントでした。書家なので当然、白と黒は意識しているんですが、“白を主役に使う”先生の白へのこだわりはすごいな! って。この表紙を作るのは、大変だったんですか?

【松井】 あのときはたしか、白についてめっちゃ考えましたね。書店でほかの漫画と並んだときに、ありふれた普通の白じゃないと思わせなきゃいけないと思って。

【前田】 白って、下手するとインパクトがないから、どう料理していったんだろう? と興味を覚えました。そもそも漫画って、白い紙を、黒でコマを切っていくわけですよね? コマ割りって、すんなり決まるものなんですか?

【松井】 えーっと、僕はそこら辺のセンスがないので……(苦笑)。わりと淡々とやっていくんですよね、見やすければいいやって。白に対する考え方とはちょっと違うんですけど、読者の目をゼロコンマ何秒か遅らせたいシーンのときは、画面の活かし方について考えます。例えば15巻の渚のキスシーンは、ページをめくった瞬間、まず(読者の目に)蛇が飛び込んでくる構図にしています。蛇で一拍置くことで、キスの驚きが大きくなる。そういう仕掛けを作ったりします。

【前田】 プレゼンや書でも、目線の誘導は意識しますね。一枚のなかで、いちばん見てもらいたいところを意識して、作っていく。

【松井】 わりと漫画と近いんですね。漫画って、映画やアニメとかといちばん違うのが、読者が能動的にページをめくって、物語が展開していくところだと思うんです。言い方は悪いけど、映画のキスシーンって、その前の流れ次第では押し付けに感じてしまう事もあるじゃないですか。漫画だと、自分でめくったという責任があるぶん、インパクトが強まる。そういうインパクトの大きさは、紙ならではの魅力だと思います。タブレットでもまだ追いつかない気がして。あと明るさやコントラストについても、紙ほどの見やすさを、映像の画面はまだ再現できていないと思います。

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