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ビートたけしが明かす12年ぶり主演作の舞台裏 監督から「すばらしい、でももう1回」

 12年ぶりの主演映画『女が眠る時』を完成会見で「自分の理想とする映画」と語ったビートたけし。妻と訪れたリゾートホテルで、たけしふんする謎めいた男に翻弄されてゆく作家を演じた西島秀俊。日本を代表するふたりの役者に、そんなウェイン・ワン監督最新作での共演について語っていただくと、かつての日本映画の撮影現場の思い出やアメリカ映画の撮影スタイルにまで話は飛び火し、とどまることない映画愛があふれ出した。

◆間違えると大ヒット?いまの時代に珍しい映画

――知的な罠を張りめぐらせたストーリーで、たけしさんが演じたカミソリのように不気味な存在感を放つ、主人公・佐原という男の役割をどう捉えましたか?
【たけし】 西島くん扮する健二って作家が見た、異色の男女であって。なぜかその若い女の子(美樹/忽那汐里)と中年のオヤジ(佐原/たけし)を興味本位で見ているうちに、健二が引き込まれていくってところから始まって。それがいつの間にか作家との間に、会話とか関わりができていって。台本をもらったとき、これは現実なのか、現実じゃないのか、よくわからなくて。でも、ワン監督には聞かなかったんだ。監督、本当のことを言わないもんね?
【西島】 そうなんです。言わないですね。
【たけし】 あくまでも見た目は、作家が見たり、想像したりすることだから。まあ監督が「こうしてくれ」って言った通りのことをやるのを基本にして。監督はいろいろな見方があるとしか言わなくて、「たけしはどう見る?」「オレはこう見る」「ああ、そうだね」ってやりとりだけ。「あれ? 監督はそう思ってないな」と思って、「ワン監督はどう思うんですか?」って聞いても「人それぞれの見方があるから」とお茶を濁す。いまの時代、こんな映画は珍しいと思うよね。まかり間違えば大ヒットしちゃうんじゃないか? 間違わないと大損!っていう(笑)。
【西島】 そんなことないです! 僕は好きですよ。

――『SMOKE』(1995年)のウェイン・ワン監督にとっても、役者・ビートたけし、西島秀俊のファンにとっても、新しい魅力の詰まった本作。撮影現場は、クリエイティブな刺激にあふれていたのでしょうか?
【西島】 撮るカットが決まっていて、それを順々に撮っていくという撮影方法ではありませんでした。僕も知らなかったんですけど、撮影期間中、監督は全く寝ずに、ほぼ夜通し映画のことを考えていたそうです。本当のところはわからないですけど、食事もほとんど摂っていなかったみたいですし、とにかく映画にずっと集中していました。毎朝、明け方になるとスタッフにメールが届いて「(今日撮影する)シーンの新しいアイディアがある」って。それが朝みんなに伝えられて、早めに現場に入って、監督の説明を受けて……という感じでした。
【たけし】 いままでの日本人の監督のスタイルとはまるっきり違うよね。黒澤(明)さんなんか、台本ができたら、役者がその通りにできるまでやったからね。「違う、違う。10cm違う!」とか言って。自分のイメージ通りに撮らなきゃ絶対にダメで、役者と相談してなんてとんでもない話。あるとき勝(新太郎)さんが大失敗してさ(笑)。
【西島】 『影武者』(1980年)ですね(笑)。
【たけし】 ビデオなんか回しちゃったりしたから「何やってんだ、おまえは!」って(笑)。大島(渚)さんもそうだよね。自分で決めたサイズ、カメラワークで思い描いた画ができるまでやる。ワン監督も何回も撮るけどね。「OK,OK. スバラシイ!」って言いながら「One more!!」って(笑)。

◆どういうことなんだろうって考えていくおもしろさ

――素晴らしいけれど、もうワンテイクなんですね(笑)。
【西島】 あれって、ニューヨークの作家のスタイルなんですかね?
【たけし】 とにかく褒めるよね。
【西島】 すごく褒めるし、撮影前にいろいろなよもやま話も含めて「おはよう」って話しかけてくる感じとか。
【たけし】 ああいうスタイルって、『JM』(1995年/たけしのハリウッドデビュー作)って全然当たらなかった映画の撮影でニューヨークに行ったとき、メイクさんもそうだったな。
【西島】 劇場に観に行きました、あの映画。
【たけし】 撮影現場に行くと、メイクさんが「たけし、元気か?」って話しかけてきて。カセットテープがたくさん置いてあって「どの曲が好きなんだ?」って聞いてくるから「リズム&ブルース」って言ったら、かけてくれて。「いいね! 乗ってきた?」って(笑)。「お茶は何を飲むの?」とか、すごくリラックスさせて、乗せてくるの。
【西島】 そうなんですか。あの監督(ロバート・ロンゴ)もたしかアーティストですよね。職業監督ではなかったと。
【たけし】 だからあの人、たしかあれ以来撮っていないよね。『JM』ですごい赤字を出したんじゃない?
【西島】 (笑)でも、あの映画、すごく興奮したなあ。キアヌ・リーブスとたけしさんの共演ですから。たしかに不思議な映画でしたけど。
【たけし】 いまだにわからないもん(笑)。でも思い返すとおもしろかったなあ。当時はまだITとかない時代で、現場に大きな水槽を持ってきて。
【西島】 イルカですよね?
【たけし】 そう。イルカがそのなかで機械じかけで動くはずだったんだけど、途中で動かなくなっちゃって、両サイドからスタッフが手で押したりして。
【西島】 怪獣映画と同じだ(笑)。
【たけし】 そうなんだよね(笑)。新しいことをやろうとして、できないときの間抜けさっていうのが、あの映画の特徴だね。今回の映画も、昨今主流のCGとかとは真逆をいくというのか、映像自体で考えさせる映画だよね。テレビゲームというよりは、チェスとか将棋をやらされているような気がするもんね。ひとつの考え方から網目のようにいろいろな解釈が広がっていって“一体これはどういうことなんだろう?”って考えていくおもしろさがある。

◆あんなたけしさん、いままで見たことがなかった

――先ほど大島監督の名前が出ましたが、たけしさんの主演ドラマ『鬼畜』(2002年)を撮った田中登監督、ひいては増村保造監督へとつながっていくような、日本的なエロスのエッセンスも、今回の作品から感じました。日本の文化に対する好奇心のようなものは、ワン監督から感じられましたか?
【たけし】 (監督と)話していると、いろいろと質問してくるから「谷崎潤一郎って知ってる? 監督、ああいう感じ好きなんじゃないかな? 谷崎文学、おもしろいよ」って言ったら、すぐ集めて読んでいたね。で、いきなり『瘋癲老人日記』を持って尋ねてきて「たけし、これやらないか?」って(笑)。
【西島】 (笑)フットワークが軽いですね。
【たけし】 「ちょっと待ってくださいよ」って(笑)。「オレ、テレビもやっているし、そんなスケジュールないですよ」って言ったら「いやいや、先のことだから」なんて言ってたけど。けっこうそういう日本のエロスとか、文化の表面的じゃない、人間の底辺に流れている性的なことに興味があるみたいだったね。
【西島】 そうですね。
【たけし】 やっぱり日本とは生理的な違いがあるからね。例えばヨーロッパにはバラの香りとか、いろいろな香水があるけど、日本人は昔から「残り香」なんて言って、ここに彼女がいたような、かすかに香りが残っている感じを喜ぶよって言うと、監督は喜んでメモを取っていたよね。あと“源氏香”も教えて。平安時代の人は『源氏物語』という文学にまで、匂いをあてはめてしまうくらい、匂いに対して細やかだったんだよって。ところが通訳の人が源氏香を知らないもんだから、説明が大変で!
【西島】 わからないですよ(笑)。僕だって、本を読んでやっとわかりました。こういう遊びをしていたんだって。
【たけし】 監督本人がそういう話を聞いて、夜中じゅう考えたことを、明くる日の撮影に託してくるわけだから。いまどきいない監督だよね。オタクといえばオタクだけど(笑)。

――匂いのような目に見えないものまで、すくいあげようとする監督の意欲から、かつて見たことのない映画が生まれたのですね! シーンについて一点、おうかがいしたいのですが、3日目の夜、プールサイドで健二の反論を全身で否定する佐原の動きは、どのようにして作られたのですか?
【たけし】 急に靴下を投げ捨てて、っていうのは、現場で監督とふたりで考えてね。
【西島】 あのシーンは僕も驚きました、聞いていなかったので。でも、感動しましたね。あんなたけしさん、映画のなかでもいままで見たことがなかった。素晴らしかったです。
【たけし】 それにしても不思議な映画だよね。妙だもんなあ。ラストシーンで、じゃあいままでは何だったのか? って思うよね(笑)。
【西島】 僕は、ラストの笑顔にちょっと救われるんですよね。でも結局、現実は……。
【たけし】 ラストシーンから逆算するとね、美樹をワインバーのウェイトレスにしたらどうだ? ってストーリーが一瞬、頭に浮かんだんだけどね。まあ、これはオレの見方なんだけど。解釈の仕方がたくさんある。その点においては、おもしろい映画だなあと思うよ。
(文:石村加奈)



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