ドラマ&映画 カテゴリ
ORICON NEWS

テレビ局がネット限定オリジナルドラマを手がける背景とその狙い

 動画配信サービス・Netflixの日本上陸、在京民放5社(日本テレビ放送網、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビジョン)による公式無料動画配信サービス・TVerのスタートなど、ネットでの動画配信市場に大きな動きがあった2015年。コンテンツとしては映画や海外ドラマがメインとなり、放送後のテレビ番組も一部配信されているが、ネット配信向けのオリジナルドラマも徐々に登場している。そんななか、テレビ放送と連動しない、ネット配信限定のオリジナルドラマをテレビ局が制作をする事例も現れた。そこにはどのような背景と狙いがあるのだろうか。

日本テレビ放送網インターネット事業局の加藤友規氏と山崎大介氏(右)

日本テレビ放送網インターネット事業局の加藤友規氏と山崎大介氏(右)

写真ページを見る

◆HuluとNetflixがテレビ局とオリジナルドラマを制作

 動画配信サービスが急増しシーンが活性化しつつあるなか、それぞれの有するコンテンツがサービスの雌雄を決する大きな要素なのは言うまでもない。そんななかでの気になる動きが、配信事業者によるネット配信向けのオリジナルドラマの制作だ。NetflixとHuluでは、それぞれテレビ局と組んで制作に着手。Netflixは、昨年の日本上陸とともに、日本でもフジテレビとの提携により、配信オリジナルのコンテンツ制作、配信をスタート。それが、リアリティショー『テラスハウス』の新作と、桐谷美玲が主演する連続ドラマ『アンダーウェア』。どちらもNetflixにて先行配信したあと、地上波でもテレビ放送している。

 対するHuluでは、初のオリジナルドラマとして、人気海外ドラマのリメイク版『THE LAST COP/ラストコップ』を唐沢寿明の主演で日本テレビとともに制作。こちらは第1話を地上波でテレビ放送し、第2話以降はHuluのみで限定配信された。第1話をテレビでプロモーションとして放送し、以降のネット配信への視聴へつなげている。また、作家・真梨幸子氏の傑作ミステリーを連続ドラマ化した『フジコ』は、Huluが共同テレビジョンと制作。こちらはネット限定オリジナルドラマとして配信された。

◆テレビ放送なし、ネット配信限定ドラマの成否

 前述の事例を見てみると、Netflixとフジテレビでは先行でネット配信し、のちにテレビ放送。これまでのテレビ放送後に番組をネット配信する動画配信サービスの主なコンテンツとは逆の流れになり、ネット先行によりコンテンツ価値を高めている。一方、Huluと日本テレビでは、ネット限定としながら、第1話のみをテレビ放送。テレビのリーチをネット配信につなげるプロモーション戦略で、コンテンツへの注目度を高めるとともに、より多くの視聴者の獲得へ務めている。いずれもテレビ局によるネット配信オリジナルドラマは、テレビ放送へのコンテンツ流用、テレビの優位性を有効に活用するビジネスモデルとして成り立っている。

 だが、見せ方など内容的な面でテレビ放送とネット配信では大きな差異がある。基本的にテレビドラマは60分の尺のなかで起承転結を作り、CMの前後には“やま”を入れる。ところが、ネットドラマではCMがないぶん、テレビとは異なる構成や見せ方が必要になる。こうしてみると、両者は同じドラマとはいいつつも、それぞれの特徴がある別作品となり、制作陣もテレビ放送用とネット配信用で切り替えが重要となってくる。

◆独自に制作、日本テレビによる“ネットドラマ”での挑戦

 そんななか、日本テレビでは独自でネット配信限定のオリジナルドラマ『走れ!サユリちゃん』を制作、配信。その背景には、JRAが展開する競馬エンタテインメントサイト・Umabiとの連動企画としての動画コンテンツだからこそコミュニケーションを図る、という目的があった。2014年からインターネット事業局を立ち上げている同局にとっても、ネット限定のドラマ制作は初の試みだったが、同ドラマは、馬と人間を両親に持ち、頭は馬で体は人間のサユリちゃんが主人公という攻めたコンテンツになった。

 日本テレビによると、前述のようなネットとテレビのドラマの違いに加えて、数字を取りにいかなくてはいけない地上波とは異なり、同作はネットに親和性のあるキャスティングや企画内容、動画尺などから、「いかにネット上でバズらせるか?」をミッションにしたトライアルになったとする。同局のインターネット事業局 山崎大介氏も「今までテレビで培ってきたノウハウ、制作力、企画力といったものをネットの動画コンテンツとして落とし込んで作ったときに通用するのか、活かせるのか、そういったことの治験もないなかでの挑戦でした。テレビ局が60年間放送をやってきたなかで、これまでやっていなかったことにいま乗りだしているというところがあります」と胸の内を明かす。

 その結果は「通常の地上波深夜枠の見逃し配信のドラマやバラエティと同数規模の再生回数になりました。まったく地上波で告知もしていないなか、深夜ドラマと同等の観られ方をしたというのは、健闘したという感覚を持っています」(同局 加藤友規氏)。SNSでのコメントやリツイート数などが予想以上に跳ねたほか、まとめサイトが作られたりといった拡散効果も現れた。また、ネットならではといえるだろう、中国、台湾でも話題になり、問い合わせも舞い込み、具体的なリメイクの話も進行しているようだ。山崎氏は「そこまでは狙っていなかったんですけど、ネットにコンテンツを出すのはこういうことになるんだと実感しています」と驚きを隠せない。

◆テレビ局がネット限定のコンテンツを手がける理由

 『走れ!サユリちゃん』はスポンサーがあって実現したネット配信限定のドラマだったが、テレビ局として独自にネット限定ドラマを手がけるメリットとはなんだろう。かつてのテレビ番組は、深夜枠で実験的な試みが行なわれ、そこからブームが生まれたり、番組がゴールデン枠に昇格したりする流れがあった。若年層の可処分時間がテレビからネットに移ってきている現在、そんな役割をネットでの番組が果たすこともあるのかもしれない。

 だが、日本テレビ放送網 インターネット事業局 担当副部長の上田識喜氏はそれを否定する。「地上波で多くの人の目に触れている話題の番組をネットで流せば確実に人気動画になりますが、ネットの世界でおもしろいものを見つける努力をしているのはごく一部の人たち。ニッチな世界で評判になって、それをテレビにもってきてビジネスになるかというと現状は難しいと思います」。

 また、テレビ局がネット限定の動画を手がけていくにあたってのもうひとつの課題として、テレビというメディアが内包する現在の状況が浮かび上がる。テレビが100%リーチメディアではない世代が生まれてきている視聴形態の時代の流れ、スポンサーの需要が変わってきているなか、きっちりとコンテンツをその世代へ届ける経路が模索されているのだ。「離れていった若年層の視聴者をどう取り込んで、番組、CMを見せていけるかは、テレビ局が取り組んでいかなければいけないところ」(上田氏)。そこにテレビ局がネット動画に積極的に踏み込む理由がある。

 大手広告代理店の担当者は「普段テレビを観ない層はYouTubeなどネットで動画を見ていて、ネット動画広告が一番リーチがいいんです。そこにインタラクティブ性をもたらせるなど、単純な動画広告ではない取り組みが増えています。地上波と連動させればより効果的です。また、先鋭的な施策を戦略的に行っている企業では、CMの効果を可視化したいというニーズが高まっており、きちんと数字が取れるネット動画広告の活用を考える向きもあります」とコメントする。

◆10〜20年後、地上波がなくなるというところまで考えないといけない

 上田氏は「いずれ『テレビCMは効率が悪い』『いらない』と言われる時代が来るかもしれません。そこは広告会社さんに本音を聞きたいです(笑)」としながらも、テレビ局が置かれる現況に対して「ネット動画でなんとかビジネスにできる状況になってきて、テレビ局としてもそこに力を入れなくてはと考えています。10〜20年後、地上波がなくなるというようなところまで含めて考えていかなくてはいけないという状況の端緒に立っているのではないでしょうか」と真摯に向き合う。

 昨年から今年にかけて日本テレビでは、テレビ放送、映画、ネット配信、ライブが連動した総合エンタテインメントプロジェクト『HiGH&LOW』も進行している。同プロジェクトでは、テレビ放送をプロモーションという枠に留めるのではなく、それぞれのメディアでのオリジナルの部分を濃くしたコンテンツが制作され、連動を最大限に活かそうとする先鋭的な意欲が見られる。その結果がどう出るかはまだこれからだが、テレビ局でも、独自に手がけるネット動画のコンテンツとしての有用性が認識されている。他メディアとの連動も含めた、さまざまな可能性を模索しながら、今まさに新たなビジネスの開発に向けての取り組みが急ピッチで行われている。

オリコントピックス

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索