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言論・表現の自由はどこに……「放送禁止用語」の厳しすぎる自主規制

 テレビやラジオで使用NGの言葉として、一般的に広く知られている「放送禁止用語」。これは法規制ではなく、あくまで放送事業者による自主規制であり「放送注意用語」などとも呼ばれている。その範囲は時間帯や番組内容によっても様々。だが、“NGワード”は年々増え続けており、一部メディアで報道された「頑張れ」の使用不可など、近年では意外な言葉までその対象となりつつあるようだ。だが、ここまで規制を厳しくする必要が本当にあるのだろうか? 言論・表現の自由を問う声はもちろん、日常生活の中で使う言葉をも規制して、果たして番組内での会話は成立するのか?

地上波では過去の名作が軒並み放送できないのが現状(※写真は台詞に放送禁止用語が多く放送困難なアニメ『あしたのジョー』)

地上波では過去の名作が軒並み放送できないのが現状(※写真は台詞に放送禁止用語が多く放送困難なアニメ『あしたのジョー』)

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◆現状では、クレームがきた言葉=放送禁止用語 地域の違いでも

「放送禁止用語」とは、テレビやラジオ等のマスメディアで使用が禁止されている言葉のことだが、そもそも法的に禁止されているわけではないので、実際には放送禁止用語というものはない。かつてNHKでは「放送問題用語」としていたが、2008年に事実上廃止。今では「放送注意用語」「放送自粛用語」などとも呼ばれるが、あくまでメディア側、特にマスコミの自主規制であるため、差別的な言葉、暴力的な言葉、卑猥な言葉などの、いわゆる“不適切な言葉”が放送禁止用語となっているようだ。

 「あとは“公序良俗に反する”言葉とかですね。この“不適切”の線引きがどこからどこまでかがわからないから、われわれも困るんです。一応、NHKさんが指針として出したガイドライン『NHK新用字用語辞典』や『NHKことばのハンドブック』に“載っていない”言葉や用法が放送禁止用語になるんですが、簡単に言えばクレームがきた言葉=放送禁止用語です。スポンサーのCMイメージがある以上、クレームほど怖いものはない。こちらもおよび腰になるのはしょうがないとも言えるんです」(番組制作会社スタッフ)

 放送禁止用語は番組の放送時間や番組のジャンルによっても変わってくる。『報道ステーション』(テレビ朝日系)のキャスター・古舘伊知郎氏は、先の降板記者会見で「バラエティではラーメン屋が、報道ではラーメン店と言わないといけない」と明かし、報道番組の堅苦しさを嘆いていたように、報道では使用できないがバラエティでは使用可能な言葉もあるようだ。また、お笑いコンビ・浅草キッド玉袋筋太郎などのように、NHKに出演する際には「玉ちゃん」や「知恵袋賢太郎」に名前を変えるというパターンもある。

 さらに地方によって放送禁止用語が変わる場合もある。かつて力道山やジャイアント馬場と熱戦を繰り広げたプロレスラーのボボ・ブラジルは、アメリカ出身で「人種差別のないブラジルに行きたい」という憧れからリングネームを付けたが、「ボボ」という言葉が九州地方の方言では放送禁止用語にあたり、実況では「ボボ」が消されたという逸話もある。

◆年々NGワードは増え続け、地上波では過去の名作やヒット曲が忘却の彼方に…

 かつては映画やテレビで普通に使用されていた言葉でも時代を経るごとに規制され、放送禁止用語は増えていく傾向にある。社会自体が近代化、民主化されるにしたがって前時代的な言葉や慣習が見直され、現代にはふさわしくないと判断されることが多くなるからだ。その結果、映画『座頭市』やアニメ『あしたのジョー』などは物語の設定自体が放送禁止で、いわゆる“ピー音”ばかりになってしまうということで地上波では再放送すらされない。初期の『機動戦士ガンダム』も反社会的ということで難しく、2013年に放送されたアニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』(TBS系)では、「専守防衛」「独裁否定」という言葉でさえ配慮された内容になっていたという。

 また映像作品のみならず、1960年代、70年代に歌われた岡林信康に代表されるフォークソングの中には、差別的表現、反時代的表現があるということで、今でも放送できない名曲が数多くある。さらには歌謡曲であっても、“不適切”な歌詞があるということで放送できない曲を加えれば膨大な数にのぼる。そのほとんどはいわゆる“卑猥”とされる表現があるとのことだが、普通の感覚で日常的に使われているものが多い。それでもいまだに、おニャン子クラブの「セーラー服を脱がさないで」や原由子の「I Love Youはひとりごと」などのヒット曲が放送さることはない。こうした誉れ高い過去の名作や名曲も忘却の彼方に葬られることになる。

◆ヒーリング映像やインストゥルメンタル曲を流すだけの“放送”に意味はあるのか?

 SNSやインターネットが当たり前に普及している現在、確かに世界の多様性や個別性が衆人環視にさらされる中、憲法第21条の「表現の自由」をかざして、何でもかんでもオープンにしていいというわけにはいかない。表現の自由が保障されているとは言え、たとえば極端に卑猥な言葉に関しては「電波法」108条ではっきりと禁止されている。やはり表現する側としても、その時代時代に即した配慮が必要なのは当然だ。

 しかしながら、何でもかんでも規制するということでは、例えば基本的にありのままを記録するといったドキュメンタリー番組などは、いっさい制作することができなくなってしまう。また、用語の直接使用を避けて、コンテキストの流れの中で婉曲的に表現したり、代替表現を使用することで、本来の趣旨がわかりにくくなり、逆に不必要な誤解や陰湿な好奇を助長させることにもつながるのではないかと思われる。このまま極端な規制を続けていけば、最終的にはヒーリング映像やインストゥルメンタル曲しか放送できないことになってしまい、視聴者の感性やクリエイティビティを著しく損なうことにもなる。テレビ離れが年々進んでいるのは、ネットやSNSの普及はもちろんだが、過剰なまでの自主規制による無難な番組作りがその要因の一端となっているのは明白。メディアの雄たるテレビの復権は、“自主規制”という風潮といかに向き合うか? いかに逆手に取るか? にかかっているのかもしれない。
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