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スガ シカオ、独立後の葛藤と音楽ビジネス語る「フォーマットにあてはめる時代じゃない」

 所属事務所からの独立、インディーズでの活動を経て、2014年、再びメジャーに復帰したスガ シカオ。11年に自らの意志で独立に至ったものの、「もう雑誌とかテレビに出ることもないだろうな」と考えるほど危ない橋を渡ったと振り返るが、その表情は清々しい。SMAPの代表曲「夜空ノムコウ」を作詞し、独立経験もあるスガはTwitterでメンバーにエールを送ったばかり。ORICON STYLEでは、そんな彼に独立前と独立後の葛藤、一度リセットしたうえで改めて感じた今の音楽業界の構図についてなど、様々な話を聞いた。

ORICON STYLEのインタビューに応じたスガ シカオ

ORICON STYLEのインタビューに応じたスガ シカオ

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■もうメジャーに戻ることはないと思った 「大丈夫かな? 俺」って

――6年ぶりの新作『THE LAST』はサウンド、歌詞、ボーカルのすべてにおいて、スガさんの独創性が強く反映されていて、非常に刺激的ですね。
【スガ シカオ】 今までの自分とはぜんぜん違うというか、生まれ変わった感がありましたね、アルバムを作ってる最中から。環境も変わったし、方針も変わったし、スタッフも変わったし。あとは本質的な部分で、自分の才能の質が変わった感じがするんですよね。今まであまり使ったことのない脳で作った感じがしました。

――音楽に対するスタンス、制作の方法を意識的に変えたところもあるんですか?
【スガ】 同じ場所でずっと音楽を続けていたので、どこか昔の自分に引っ張られたり、昔の自分の良いところがちらついたりしてたんですけど、逆に「新しいことをやりたい」と思うこともあって、ブレというか、心の迷いがたぶんあった。スタッフもファンの人も俺も含めて、“あの頃(は良かった)病”みたいになっていた部分もあるし、それを否定したい自分もいるっていう。その葛藤が常にあったんだけど、独立して、インディーズになって、ほぼゼロに戻ったところからスタートしてるので、昔の自分もヘッタクレもないというか、才能がリセットしちゃった感じがします。“スガ シカオっぽさ”みたいなものも全部リセットされたんですよ。これって世界中のアーティストの宿命だと思うんですけど、多分リセットできたアーティストもあまりいないと思うんですよね。偶然そうなっただけですけど、このアルバムを作ったあと、大きなものを手に入れたなって思いました。かなり危ない橋を渡りましたけど…。

――やっぱり危ない橋でした?
【スガ】 (以前の所属事務所を)辞めた直後くらいは「大丈夫かな? 俺」っていうのがありましたね。この先、もうメジャーに戻ることもないだろうし、雑誌とかテレビに出ることもないだろうなって、本当にそう思ってました。俺はもう、そういう舞台の人間ではないんだな、食ってくだけで精一杯だなって……。

■「CDが売れない」ことは気にしてない もっと先のことを懸念してます

――以前から他のアーティストが触れない領域をテーマにしてきた印象がありますが、スガさんにとって理想の歌詞とはどんなものなんですか?
【スガ】 いちばんの理想は、歌詞を読んだときに「これってスガ シカオじゃない?」と思われるというか、他の誰も書けないものというのが理想ですよね。甘いラブソングであっても、自分にしか書けないものを書きたい。何でもいいんですけど、聴いてくれる人をドキドキさせようっていうのが、いちばん思ってることです。楽しくてドキドキすることもあるだろうし、「これ聴いちゃマズイんじゃないか?」というドキドキ感もある。音楽を聴いた時のドキドキ感が、今、どんどん薄れてきているような気がして、そこをもう一度、みんなでドキドキしようって。俺の場合は、ヤバくてドキドキするっていうのが合ってるんでしょうね。

――12月に『THE LAST』の生ライブ試聴会という、発売前にライブでアルバムの曲をやってしまうという試みをされましたけど、それも?
【スガ】 それも「ドキドキしてもらおう」ということの一環ですね。最初に曲を聴くときって、配信かラジオかCDというパターンが多いと思うけど、そうじゃない場所で初めて聴けたら、すげえドキドキするんじゃないかっていう話から始まって、全く聞いたことない新曲を画面に歌詞を映しながら歌ったらドキドキするんじゃないか、ということになった。おもしろかったですよ。みんな衝撃で動けなくなって、拍手も起きないくらい。

――そういう予定調和ではないリアクションは最高じゃないですか?
【スガ】 そうですね。予定調和ではない感じはアルバムにも出てると思うし。よく桜井(和寿)くんと飲んだときとかに話すのが、「CDが売れなくなる」とか言うけど、ミュージシャン自身はあまり気にしていなくて。もちろん生活が苦しくなる人もいるだろうけど、それよりも怖いのは、人の心から音楽のドキドキ感がなくなること、これが一番俺たちにとって恐怖だよね、って。人が音楽にドキドキしなくなったり、興味がなくなったりしていくことが一番なってはいけない状況だし、そうならないために自分たちが作る作品のレベルや姿勢に掛かってる。そういう意識を持っているアーティストは、今、すごく多いと思うんですけど。今CDが売れないっていうより、もっと先のことを懸念している人が多いと思います。伝わり方はライブでも、配信でも、何でもいいんですよ。そういうかたちを問う時代ではとうにないので。やっぱり時代とともに音楽の価値もどんどん変わっていってるし、急速にいろんなものが変わるじゃないですか。そういったときに、ドキドキ感がなくなっていくのだけは心配だなと思います。

■フォーマットにハマらないアーティストが増えた 契約も自由になるべき

――アーティストの作品づくりにかかっていると。
【スガ】 まあ、曲だけではないんですけどね。例えば、仲良くしている若いバンドの連中とかは、曲というよりもパフォーマンスそのものがウリの人たちもいて、すごい心躍るパフォーマンスをする。かたちはいろいろあると思います。

――音楽を取り巻く環境って、それこそスガさんが独立した頃から一気に変わってしまいましたからね。危機を本能で察知して動いたところもあるんじゃないですか?
【スガ】 うん、まさにそうで、そういう事態に、一人だったらいくらでも対応できるんですよ。ちゃんとファンにさえ説明できれば、一人ならどこでも行けるし、なんでも出来る。でもチームプレーでやってたり、他にアーティストが並行でいたりすると、そこを置いてけぼりにしてまではできないことが多いから。その危機感はありましたね。

――同じチームで動くのではなく、たとえばアルバムごとに違うチームを編成するほうがいいんですかね。
【スガ】 俺自身が思うのは、アーティストの在り方は一人ひとり違うと思うんですよ。それを例えば一つのレコード会社とか、一つの事務所とかで、規則を作って何かをやろうとするから良くないんだと思うんです。例えばメジャーなら、“こういう契約で、契約金はこれくらいで、何年かでアルバム何枚出さなきゃいけない”というフォーマットでまとめようとするけど、もうそのフォーマット自体にハマらない人もたくさん出てきてるんですよ。“1アーティスト、1フィールド”みたいにどんどんなっていくべきだと思いますね。契約も違うし、活動の仕方も全部違うし。そうなるべきだと思って、一人でやり始めたんですよね。

――『THE LAST』を引っさげたツアーというのはやらないんですよね。
【スガ】 やらないです。もう、先にやっちゃってるので。アルバムのタイトルを冠したツアーというのはないです。「とか言って〜! 当然、やるんでしょ?」って言われるんですけどね。でも「最初のアナウンス通り、ないよ」って言ってます(笑)。

(文/森朋之)

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