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劇団ひとり、絶対に“当たる”道しるべはない

 芸人、俳優、作家、映画監督とマルチに活躍する劇団ひとり。来年公開の劇場版アニメでは初の映画脚本を手がけることも話題になったばかりのひとりが、多彩なクリエイティブワークと本業のお笑いとの関わりを語ってくれた。映画版でゲスト声優を務める『ちびまる子ちゃん』の、長年にわたるアニメヒットの要因もひとり節で分析する。

◆長寿バラエティはどんどん苦しくなっている

――今回、ゲスト声優を務める『映画ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』の物語にはどんな感想を持たれましたか?
【ひとり】 シンプルでわかりやすいですね。今まで僕らが観ていた『ちびまる子ちゃん』の世界観が変わることなく、劇場版だからといって「やってやるぜ」というような気負いもなくて。そのぶれなさは、『男はつらいよ』の域に達したんじゃないかなと思います。『男はつらいよ』も続くに連れて話がエスカレートするわけではなく、日常を描きますよね。それが一番の魅力。もしも話が派手になったら、あんなに長く愛される作品にはなっていなかったわけで。『ちびまる子ちゃん』『男はつらいよ』『サザエさん』しかり、なんでもない日常をおもしろく魅力的に描いていて、そこにお客さんがついてくるというのは、もう名人芸の域だと思います。

――もしひとりさんが『ちびまる子ちゃん』の映画を作るとなったら、どうなると思われますか?
【ひとり】 バラエティをやっている人間だと、『ちびまる子ちゃん』がヒットしたら、次は何をやろうかと考えて、話を大きくしてしまうのではないかと思うんですよ。例えば、学校に不良がきたり、次は宇宙人がきたり、最後にはロボットに乗せてみよう……ってなったり。そうやってバラエティは破たんしていく。日常の細かい部分にこだわって、クオリティを保って、スケールを大きくしていかないというのは、作る側からすると不安だと思うんです。シリーズものの映画も、どんどん派手になって破たんするパターンが多いけど、『ちびまる子ちゃん』『男はつらいよ』『サザエさん』って、それをしない。それで勝つと、もう負けることはないんです。でも、それで勝つことがすごく難しいんですよね。

――バラエティで続いている番組は、過激にいかないコントロールができているんでしょうか。
【ひとり】 バラエティでコントロールはきかないと思います。どんどん苦しくなっている状態ですね。僕もどちらかというと、ハードルを作って超えていく、超えられなくなったら終わりと思う方だし、性格的にも同じことを繰り返すことができなくて、違うことをしていきたいタイプです。

――お笑い以外にも映像を作ったり、小説も書いています。声優も含め、本当にいろいろな仕事をされていますけど、新しいことをするのはお好きなんですか?
【ひとり】 何かをやるときに、自分がまだやっていないことは何だろうということから考えるタイプですね。だからこそ、楽しんでできると思うんです。それも、中身と外側があったら、外側から変えていきたい。もちろん、中身を変えるということもすごく大変だと思うんですよ。幕の内弁当の味付けを変えていくようなもので。でも、僕は飽き性だから、幕の内弁当を作ったら次はパスタを作ろうとしてしまう。そうじゃないと、新鮮な気持ちを保てないので。これからも、そのスタンスは変わらないと思います。

◆小説は自分のために書く!映像化は考えない

――そのなかに小説もありますが、今も書かれているんですか?
【ひとり】 書いています。やっぱり、そこでも今までやったことがないようなことに挑戦したいと思っています。この先どうなっていくかわからないですけど、気の向くままに書いてみたいなと。今までは、細かくプロットを準備して、どういう展開でどう落とすかがある程度見えてから書いていました。それだと失敗はないけど、自分の想定内のものしかできないので、張り合いみたいなところでいまひとつ欠けるところがあって。なので、誰がどこに行って何をするのかを決めないで書いてみようと思って、やっているところです。でも、物書きって本職ではないので、仕事で疲れている時期は筆が進まなかったり。そういうときに書きたいと思うには、自分がわくわくするしかなくて。今書いている作品は、どちらかというと自分のために書いているようなところはありますね。

――小説を書くと、映像化の話も出てくるんじゃないかと思いますが。
【ひとり】 それも考えないようにして書いています。監督として撮影を経験したあとに小説を書いていると、そればっかり気になってしまうんですよ。このセットいくらかかるんだろうなと、予算を気にしながらその場面を書いたりしがちなんですけど、それは読んでる人には関係ないことだから。今回に限っては、映像化をまったく考えないで書こうとしています。

――ひとりさんにとって、仕事選びの基準というのはありますか?
【ひとり】 楽しそうだなと思うことをやっています。これはあわないと思うとやめますね。というのも、昔はオファーをいただいた仕事は何でもやってみようと思って受けていましたけど、経験してわかったのは、好き嫌いじゃなくて、あうあわないというのもあるんだなと。あわない仕事というのは、頼んでくれたスタッフさんにとっても、僕にとっても良いことにならないので。そういうことも、だんだんわかってきました。

――ひとりさんは、“自分で作る”仕事を選ばれているのかなと思っていました。
【ひとり】 そうでもないんですけどね。ドラマにも出演させてもらっていますし。でも、演出や企画にも参加できる仕事には多く携わっていますし、そういう仕事は喜んで受けるタイプです。規模に関わらず、企画から携わることができる仕事を選んでいたら、そういう仕事が集まってくるようになって、今に至ります。

◆メジャーでやりたいからこそバランスが大事

――今回声優を務められた『ちびまる子ちゃん年』は世代を超えて愛される国民的アニメです。ご自身が作るものに関しても、“誰が観ても楽しめる”ということを考えますか?
【ひとり】 僕は地味なひとり舞台の出身ですからね。もし、自分のやりたいことは抑えて、お客さんのニーズにあわせて作ったら必ず成績が残せるっていうんだったら喜んでやりますけど、それをやったところで当たる可能性があるとは思えないんですよね。テレビを観ても、そんな番組が山ほどありますけど、それが視聴率を取れるかというとそんなことなくて。本当にそこは難しいんですよね。『ゴッドタン』でもそういうことがよくあって、視聴率を取りにいこうとしてわかりすい企画をやったら、ぜんぜん数字が良くならない。そのときに、結局は自分のやりたいことをやるしかないんだなって。絶対に当たるという“道しるべ”はないと思います。

――ひとりさんのなかには、“当てたい”という欲望はやっぱり強いんですか?
【ひとり】 今までの自分の経験則で言うと、自分でおもしろいと思ってやったことで、世間から注目されたと思います。劇場でネタをやっていたときは、女子高生しかいないからすごく引かれていたけれど、だからってどうしたらウケるかわからないから好きなようにしていたら、テレビマンに呼ばれました。これは間違っていなかったんだと思いました。でも、自分のやりたいことだけを純粋にやっていたらアングラになってしまう。僕はメジャーでやりたいから、そういう意味ではバランスを取ることは大事なのかもしれないですね。
(文:西森路代)



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