ドラマ&映画 カテゴリ
ORICON NEWS

尾野真千子、自分の芝居を覚えていない

 日本を代表する女優であり、思えば女優デビューした中学生のときから複雑な役を演じていた尾野真千子。“さわやか”の代名詞である朝ドラのヒロインさえ、彼女が演じると、善悪を越えて人間の業を肯定する、芯の強い女になる。難しい役を呼び寄せているような印象すら抱いてしまう尾野だが、配信中のネットドラマ『フジコ』(Hulu/J:COM)では、少女時代から殺人を繰り返してきたヒロインの狂気を表現し、現在放送中の『おかしの家』(TBS系)では、ちょっぴりくたびれたシングルマザーを色っぽく好演。そんな尾野に“演じること”について聞いた。

「女優業は痛めつけられてなんぼ」と語る尾野真千子(写真:鈴木一なり)

「女優業は痛めつけられてなんぼ」と語る尾野真千子(写真:鈴木一なり)

写真ページを見る

◆女優業は痛めつけられてなんぼ(笑)

――主人公フジコの壮絶な人生を描いた本作。美智子(谷村美月)とのやりとりで、封印していた記憶が揺り起こされるなか、怒ったり、笑ったり、くるくると表情を変えていくフジコ。第2話で美智子に見せた涙は、子どもの涙のように美しく、印象的でした。あのシーンのことは覚えていますか?
【尾野】 ……覚えていない。大概どの作品でも、自分でどんな芝居をしたか、覚えていないんです(笑)。(本番前の)テストでやったことも覚えてないことがあって。「さっきのあれ、良かったね」って言われても「なにか、やりましたっけ?」って。「いや、手を上げていたんだけど」「えっ、私、手上げてました?」とか(笑)。無意識にそういう行動を取っているからこそ、覚えていないんでしょうね。計算していないというか。もともとこうしようと思っていたら覚えているんでしょうけど、覚えていないのは不意にやってしまうから。完成作を観て「あ、こんなことをやっていたんだ、私」って、びっくりすることがよくあります。いや、ほとんどそうですね。

――たとえば第1話で、初めて美智子に会ってあいさつをしたとき、唇をなめる仕草に、フジコの心の渇きを感じて、ゾクッとしました。尾野さんにとって、役を演じるということは、理解したふりをするのではなく、あるがままに振る舞うことで、フジコという複雑な人間の内面に踏み込んでいくような感覚でしょうか。そう考えると、10歳で家族を惨殺されて以来、心の均衡を失い、平気で人を殺せる人間になっていったフジコを演じることは、精神的にとても過酷だったのでは?
【尾野】 やっぱり子どもに手をかけるときは、しんどい、つらい、つかれた、と三拍子揃っていました(苦笑)。ダンナ役の(高橋)努くんとふたりで、殴る蹴る(の身体の痛み)より、心が痛いよねって話していました。でも、普通の恋愛女子でもなく、特徴のある役だったのでやりがいはすごくありました。いま、また完成作を見返しているんですけど、やって良かったと思います。また違う自分を見れた気がしたし、しんどいからこそ、生まれてくることもありますし。自分を痛めつけて出てくるもの、甘やかして出てくるもの、いろいろできたら、幸せです。そのために、日々がんばっています。やっぱり自分は自分を甘やかすしかないので、痛めつけられるのは周りからですね(笑)。

◆自分を甘やかすと限界ができてしまう

――女優業は、痛いことですか?
【尾野】 痛めつけられてなんぼ、ですよね(笑)。周りにいる人がいろいろなことを言って、いろいろなことをやらせてくれるから、いろいろな自分が出てくる。そうでないと、自分で甘やかしているだけだと、これが限界になってしまう。

――芝居をしているときのことは、ほとんど覚えていないと言っていましたが、これまで演じてきた役は、尾野さんのなかに残っているんですか?
【尾野】 どんどん次に、次に行っていますけど……どんな役をやったっけ? って思い返すこともありますからね。本当は(撮影の終わった役は)なくした方がラクなんです。残っていると、その子たちが出てきちゃうから。

――お話を聞いていて「すぐに忘れて、次へ行くしかなかった」という、フジコの哀しいセリフが一瞬、頭をよぎったのですが!?
【尾野】 私の場合は、リセットは簡単なんです。寝ればリセットされるので。いいことも、悪いこともね。いいことはたまーに覚えていますけど。

――尾野さんは、フジコを悪女だと思いますか?
【尾野】 悪女ですね。特別な悪女かは、よくわからないですけど。人ってみんな必ず、悪を持っているから。フジコという人は、人を殺すとか、いろいろなことで、悪というものがぎゅーっと固まってしまっているけれども、フジコに限らず、ドラマを観ている人だってみんな、悪の一面もあると思うんですよ。

――フジコをどう感じるか? というところでは、視聴者も試されているのかもしれませんね。毎回、タイトル前に挿入される、踏切前に立つフジコの表情ひとつを取ってみても、不気味にも、孤独にも観えるのは、観る側の気持ち次第、つまり視聴者がどれだけフジコに感情移入しているかによって、変わってきますよね。
【尾野】 そうそう、だからフジコは悪女です。その度合いがどれほどかは……あなたも悪女でしょ? って(笑)。でもフジコにはきっと、きれいな悪女の部分もあったんですけど、洗脳とかいろいろなことによって、汚い悪女にされつつあって。そうはなりたくなかったから、リセット、リセットしていったら、どんどん黒い悪になってしまって。もっときれいな悪でいたかったのに、って。そんな悪女だと思います。
(文:石村加奈)

オリコントピックス

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索