• ホーム
  • 映画
  • 井筒和幸が日本映画界に警鐘「腰骨のない邦画界にケンカ売らないと」

井筒和幸が日本映画界に警鐘「腰骨のない邦画界にケンカ売らないと」

 歯に衣着せぬ批評でお馴染みの映画監督・井筒和幸が文句なしに満点を付ける映画作品が『ゴッドファーザー』(1972年)だ。10月3日に同作の楽曲をオーケストラで生演奏する『ゴッドファーザー・ライブ』が日本でも開催されることが決定したが、ORICON STYLEではそんな井筒監督に取材を敢行。映画史に燦然と輝く同作の要因を聞くことで、現在の映画作りにおける問題点も浮き彫りとなった。

【写真】その他の写真を見る


■結局、僕は『ゴッドファーザー』でしか育っていない

――10月3日に、名作『ゴッドファーザー』の楽曲をオーケストラで生演奏する『ゴッドファーザー・ライブ』が日本でも開催されますが、今回は同作に人一倍思い入れがある井筒監督に話を聞きに来ました。
【井筒和幸】僕はね、コッポラの画とニーノ・ロータの音楽でしか育ってないんですよ。結局この『ゴッドファーザー』でしか育ってないということは、今になって改めて思います。ディズニーの『黒ひげ大旋風』でもなかったし、「ウエストサイド物語」でも「風と共に」でもなく、もちろん「砂の器」でも「昭和残侠伝」でも何でもないんです。

――今でこそ、古典や映画の教科書的な認知をされていますけど、1972年の公開前や公開当時の熱気ってどんな感じだったんですか?
【井筒】うん。噂にはなっていたけど、今みたいに情報がすぐに入ってくる時代じゃなかったからね。ただ、とんでもないモンスター映画がやってくるという期待感はあった。

――数少ない情報だったからこそ、期待感がどんどん膨らんでいったと。
【井筒】そうそう。今みたいにすぐにトレーラーがテレビで朝に夕に流れてるワケではないからね。ポスターとか新聞広告、あと映画雑誌からの情報しか無いんですよ。で、どうやら東映も新しい実録もののヤクザ映画を作るらしいという情報が入ってくるワケですよ、我々映画青年にも。

――72年というと、井筒さんは当時19歳のバリバリの映画青年ですよね。
【井筒】そう、バリバリでした。72年夏の7月の公開ということは、まだ『仁義なき戦い』も公開していないんですよ。これは、我々の世代にとっては、凄く重要なことで、『仁義〜』は73年の1月封切りなのよ。つまり、『ゴッドファーザー』に影響を受けた上で、高倉健や鶴田浩二の侠客物じゃない東映の言い出した日本製マフィアというか、新しいヤクザ映画が新たに形成されていったんです。

――確かに『仁義〜』は、これまでのヤクザ映画とは一線を画する作品でしたからね。つまり、それほどまでに『ゴッドファーザー』のインパクトが凄かったんですね。
【井筒】まずね、監督の名前がフランシス・フォード・コッポラ。どこの作家なんや?と。ややこしい名前やなぁって。帽子みたいな名前、イタリアのコッポラ帽いうてね(笑)。

――アハハハハ! 確かに(笑)。今回、改めて調べてみたら、72年当時、コッポラも29歳なんですよね。20代でこんな映画を作ったんですね。
【井筒】うん。『ゴッドファーザー』前のコッポラって、確かにあの大メジャー20世紀フォックスに呼ばれて、『パットン大戦車軍団』(70年)の脚本書いて、アカデミー脚本賞を獲るんだけど、監督としては知る人ぞ知る新世代の存在だった。『雨のなかの女』(69年)とか、彼が本当に好きな叙情ものね。後の『アウトサイダー』(83年)とかもそうだけど。

――本当は男と女の叙情ものが好きなだと(笑)。
【井筒】そうそう。そんな人がね、初めて撮るギャング映画だったの。でも、そういうのも全て後から知るワケですよ。『ゴッドファーザー』にあまりにも衝撃を受けたから。つまり、当時の僕は何の予備知識なしに『ゴッドファーザー』を観る事ができたんです。タイトルからして仰々しいでしょ? 神の父ですよ。

――今だったら普通に“マフィアのドン”を指す言葉だと分かりますけど、当時は映画を観るまでは分からないですよね。
【井筒】神父さんなのにヤクザ映画かぁって思ったわ(笑)。そいで観に行ったわけですよ、道頓堀に(笑)。で、尺が長いから休憩が10分とか入るんですけど、その際にトイレで皆、“馬の話”してましたわ。

――アハハハハ! 馬の生首が敵対するマフィアのベッドルームに置かれる有名なシーンですね(笑)。
【井筒】みんなオシッコしながら、「いや〜凄いなぁ! あの馬の首は!!」と異口同音につぶやいてたよ(笑)。観てる時は知らなかったけど、あれが本物の馬の首だと知って、さらに度肝抜かれましたよ。で、劇場出た後は呆然として、しばらく沈黙でしたよ。

■『ゴッドファーザー』観終わったあとは沈黙、『寅さん』を観に行く気にはなれなかったわ(笑)

――それだけ、観た人が衝撃を受けたと。
【井筒】今まで観てきた映画とは感覚が違ったんですよ。それこそ、僕が高校生の時に観た『イージーライダー』『真夜中のカウボーイ』なんかを観た感覚とも明らかに違った。それまでは、あまたのアメリカンニューシネマの洗礼を受けてきて、大興奮したんですよ僕らは。でも、『ゴッドファーザー』を観たら沈黙なんですよ。何をしていいのかわからん状態。

――文字通り、形容しがたいほどの衝撃だったワケですね。
【井筒】しかも、スクリーンという圧倒的な迫力で観れたワケですから。「いや〜楽しかった、よく出来た映画だったわ〜」とか、そんな言葉じゃ表現できなかったよね。脳が溶かされた感じ。他の映画を観る気なくなったよ。日本映画なんて、あの日からたいして観てないからね、僕は(笑)。アレを観終わったあとに、さすがに『寅さん』を観に行く気にはなれなかったわ(笑)。

――アハハハハ! まぁ、ジャンルが異なると言うことで(笑)。じゃあ、『ゴッドファーザー』以降、映画の観方自体も変わったと?
【井筒】そう。これまでの過去作品から、僕らがリアルタイムで観てきたアメリカンニューシネマまで。そもそも、アメリカンニューシネマの出現で僕らは映画の観方、捉え方を変えられたワケですよ。「コレだったら、俺らでも作れるかもしれない」って。そういう身近でポップな現代リアリズムを追及してたからね。でも、そんなニューシネマさえ否定するくらいの衝撃が『ゴッドファーザー』にはあった。

――ある意味、アメリカンニューシネマのムーブメントに終止符を打つ作品だった。
【井筒】そうかも。冠たるものとして『ゴッドファーザー』が鎮座したんですよ。もう、神棚に奉って拝むしかなかったのね(笑)。当時の僕らが映画に持っていた旧価値観から新しい価値観が芽生えたんですよね。でも、さらにその上に『ゴッドファーザー』が乗っかったんですよ。

――『ゴッドファーザー』は映画の観方を変えただけでなく、映画の作り方を変えたとも言われています。
【井筒】照明方法からカメラワークからカット割り、全てが革命的。撮影を担当したカメラマンのゴードン・ウィリスの手法を世界中が模倣したんです。僕もピンク映画撮ってるときにカット割を参考にしようと思ってノート片手に観たの。でも、途中で邪魔くさくなってノートなんか置いちゃった、映画についつい見入ってしまうから(笑)。それだけ、何度観ても惹きつけられる作品なんです。

――勉強のために観てもいつの間にか集中しちゃうと(笑)。
【井筒】だから、この映画はコッポラだけの功績だけじゃないんです。コッポラもゴードンとはしょっちゅうケンカしてたんですよ。コッポラは制作会社とも揉めていたから板挟みだったらしいけどね。もちろん、音楽を担当したニーノ・ロータの功績もあるしね。

■日本の若い作家たちも今の腰骨のない邦画界にケンカ売らないと

――それを20代後半で監督して束ねたコッポラって凄いですよね。しかも、役者陣もマーロン・ブランド、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロなど錚々たる面子ですよね。
【井筒】役者に関しては、マーロン・ブランドも落ち目でしたからね。もちろん、『ゴッドファーザー』を機に再び脚光浴びるワケですけど。それ以外はデ・ニーロにしてもパチーノにしても若手のチンピラですよ。ただ、映画会社をコントロールして、撮影スタッフをコントロールして、役者をコントロールしてというのは本当に大変なことでね。その中でここまで革新的なことがやったのは、コッポラにとっては、ものすごい挑戦だったと思いますよ。

――ここまで影響を与える作品が、今後ハリウッドから出てくることってあるんですかね?
おそらく無い。凄まじく無いですよ(笑)。今後、『ゴッドファーザー』のような作品が生むためには、当時のコッポラのようにハリウッドにケンカ売るくらいの覚悟がないと厳しいよね。本当は日本の若い作家たちも今の腰骨のない邦画界にその覚悟を持つべきなんですけどね。

――監督も常に日本映画界にケンカを売ってますよね。
【井筒】はい、売ってます。常に持ってますよ。ただ、今の状況では本当に難しいもんですよ。一生かけてもあの映画は超えられない。コッポラですら『ゴッドファーザー』以降は、3度も破産して大変だったんですから。自分の作品に埋もれてしまったんです。コッポラって、もっと“うたかたの恋”とかね、そよ風のような青春映画を作りたかったんだと思いますよ(笑)。でも、もの凄いタイミングで、チャンス舞い込んできて、最高の役者と最高のスタッフが揃ったら、ああいう映画に行きつきますよ。

――人生に一度あるかないかの千載一遇のチャンスを見事に掴み取ったワケですね。
【井筒】そうです! でも、今は映画の方向性が問われている時代でもあるから、そういった時に再び『ゴッドファーザー』が脚光を浴びるのは良いことですよ。今の若い子たちも『ゴッドファーザー』観て、映画の価値観が変わりましたっていう声をいっぱい聞くから。観ている人の人生を変えるくらいの熱量があることこそが、“映画の在り方”なんですよ!

■フル・オーケストラの生演奏と共に上映! 全米で話題のゴッドファーザー・ライブ、今秋日本上陸!

 映画『ゴッドファーザー』の劇伴音楽部分をオーケストラが生演奏し、巨大スクリーンで上映する「ゴッドファーザー・ライブ」が10月3日(土)に東京国際フォーラム ホールAで開催。メインテーマ曲はもちろん、数十秒で終わるような短いパートや効果音まで、巨匠ニーノ・ロータの書いた映画のスコアを完全再現。今回は「ゴッドファーザー・ライブ」のプロデューサーでもあるジャスティン・フリーアが指揮者として来日し、日本最古の名門オーケストラの東京フィルが60人編成で奏でる。



関連写真

  • 『ゴッドファーザー』の魅力を語りだすと笑顔がこぼれる井筒監督
  • ゴッドファーザー・ライブの模様
  • バックスクリーンには『ゴッドファーザー』の名シーンが
  • 色あせることのない名作『ゴッドファーザー』

オリコントピックス