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宮澤正明氏、国際映画祭で2冠 初監督作品は「運命的な出会い」

 2004年の新嘗祭から継続して伊勢神宮の撮影を行い、05年には第62回 伊勢神宮式年遷宮の正式な撮影許諾を受けた写真家・宮澤正明氏(54)。2013年10月初旬の神様のお引越しである「遷御の儀」を見届け、その叡智の神髄を映像で探る事を決意した宮澤氏は、監督として初めてメガホンを取ったドキュメンタリー映画『うみやまあひだ 伊勢神宮の森から響くメッセージ』で、マドリード国際映画祭の外国語ドキュメンタリー部門「最優秀作品賞」と「最優秀プロデューサー賞」の2冠に輝いた。宮澤氏はどのような経緯で、伊勢神宮の撮影を始めることになったのだろうか。

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 同映画は、伊勢神宮を舞台に20年 ごとに行われる式年遷宮や、大自然と共生してきた日本人の姿をテーマにした作品。日本初の全編4Kカメラ撮影での映画で、写真家ならではの美しい映像のほか“12人 の賢者”が伊勢神宮について語る。

――初監督作品となりますが同作を作ろうと思ったきっかけは?
【宮澤氏】平成17年の春から平成25年に行われた『第62回式年遷宮』までの8年にわたって、正式に、いわゆる神様のお引越しやその祭儀を、記録撮影できる許諾を伊勢神宮から授かりました。平成25年の遷御の儀が行われる年に、伊勢神宮の宇宙的概念で表現した写真集『伊勢神宮 現代に生きる神話』、伊勢神宮が2000年間培ってきた、自給自足の衣食住の為に自然との共存、循環再生型のシステムや伊勢神宮ならではの叡智を僕の写真と共につづった『伊勢神宮の智恵』を手にした映像プロデューサーが「宮澤さん、何か伊勢神宮で何か1本映画を作ってみませんか?」と、突然映画の話が舞い込んで来たのがきっかけです。

【宮澤氏】確かに過去にも映像を撮ったことはあるんですが、映画みたいな大きいものに挑むのは初めての事だったので、自分の中でやってみたいっていうのはありました。けど、やっぱり僕は写真がメインで最後の遷御の儀を撮ろうと思っていたので、正直どっちつかずになるのが、はじめは怖かったですね。

 宮澤氏は、日本大学芸術学部写真学科に入学した頃から、目に見えない光で撮影できる赤外線写真に興味を持ち、それ以来ライフワークとして赤外線写真を用いた作品を制作、発表。赤外写真処女作『夢十夜』では、米国、国際写真美術館(ICP, International Center of Photography) の第1回新人賞を受賞した。

――今作の制作前には、伊勢神宮の方から「赤外線写真の技術を教えてほしい」と依頼があったと聞きましたが。
【宮澤氏】そうですね。どうしても深夜の祭儀が多いですから、神聖な闇の中での祭儀は当然ストロボなどの照明は厳禁です。三脚を使用して高感度で撮っても、暗すぎて まともには写らない。祭儀の瞬間を細部まで撮るには、僕が持っていた暗闇でも明るく撮れる赤外線ストロボを使って目に見えない赤外線で撮影するという技法が、当時は 暗闇で撮影する事ができる最先端だったんです。「それをレクチャーしてくれないか?」とある編集の方を通して伊勢神宮から依頼がありました。

【宮澤氏】ニューヨークで新人賞を頂き写真界へのデビュー作品となった赤外線写真の技術が、まさか伊勢神宮に繋がるとは夢にも思っていなかったです。25歳から45歳までの20年の時空を超え、伊勢神宮の式年遷宮を撮影させて頂くきっかけになった事が、僕にとって非常に不思議でしたけど、同時に運命的ものも感じました。

――撮影時の不思議なエピソード、珍エピソード、裏話などがあれば教えてください。
【宮澤氏】皆さん一番聞きたいのは、やっぱり『遷御の儀』の事ではないでしょうか。
神様のお引越しの時、内宮と外宮の両方で、深夜に神様が今まで20年間住んだところから新しい神殿にお移りいただくという祭事で、闇の中で「絹垣(きんがい)」といって白い布の中に包まれながら、神職の方がゆっくり雅楽などを演奏しながら松明1、2個だけで古い神殿から新しい神殿まで、神様をお移り頂く祭事の事なんですが。それがまた美しい。3000人くらいで見てるんですけど、まるで森のなかで一人でいるみたいな世界で。その中にザクザクっとね、神官の人 たちがゆっくり歩く音の中で、そのときすごい清々しい風が吹いたんですよ。本当に神様が降りてきたような風を感じました。あれはちょっと自分の中では、不思議な体験っていうか体感をしましたよね。この気配は、あの場にいた人は何人も同じこと思ったみたいで。あの清らかな風っていうのは、神様の気配を感じられた一瞬だったかもしれません。「浄闇(じょうあん)」っていう清められた闇の中で行われる祭儀というのが、あんなに素晴らしいものなんだっていうのは初めて体験しました。そういうのが本当にいい経験だった。

――各界12人 を選ばれた理由、印象に残るエピソードは?
【宮澤氏】人選をする前に、伊勢神宮の森、伊勢神宮が2000年間、衣食住という人間の営みの根幹になるものを中心に森と共存する世界である事を考えました。森と共存するってことは、自然と共存することじゃないですか。例えば、稲をつくるためにきれいな水がいる、きれいな水にはきれいな川が必要で、きれいな川を作る為にはきれいな森がなきゃいけない、栄養分豊かな水によって田畑が潤う。その水は、海に流れて、海に栄養豊富な漁場が生まれ。そして、それがまた水蒸気になって、雲になり山に雨として戻る。この美しい自然の循環サイクルっていうのを常に大切にしてきた自然対する畏敬の念、尊敬の念っていうのが、伊勢神宮に限らず、どこかで日本人の心のDNAで繋がっているんじゃないか?点と点で結ばれてるんじゃないか? 伊勢神宮に繋がりが深い方々だけインタビューをすると、なんかすごく偏っちゃうなと思い、その点はなるべく最小限にしようと思いました。

【宮澤氏】「北野武さん(の人選)が何でだ?」って方がいらっしゃいますが、北野さんはもともと伊勢神宮には精通された方だったんです。北野さんの精通のしかたが普通じゃなくて、宇宙論的だったり量子力学など最先端の科学と、一番反対側にある最も宗教的で最も人間的ものとが意外と表裏一体なんじゃないか?と考えられていまして、聞き入ってしまいました。

【宮澤氏】そういう見方を伊勢神宮に対してしている方は、なかなかいないので、新しい見地で伊勢神宮を語ってくれる方がどうしても欲しかったんです。それで北野監督にお願いしたら、快く出演して頂けまして。北野さんが出ていただくことで、もちろん有名な方なので、PR効果もあると思いますが、それ以上に僕は北野さんの神に対する宇宙的な発想、数学的な発想、量子力学的な発想、科学的な発想っていうのが好きです。

――次回作の構想などありますか?
【宮澤氏】そうですね、僕の本業は映画監督じゃないですから、写真家が映画に挑むなら台本とかせりふとかが無い、ドキュメンタリーが合っているかも知れませんね。もう一歩踏み込んだ、あんまり重いテーマにもしたくないんですけど、でも何か「人はなぜ祈るんだろう?」とか、祈りみたいなのをテーマにしたものって いうのを今は漠然に構想はしてますけど、それを本当に映画化するかどうかはわからないし。おかげさまで、映像とか映画の方でいろんなお話が来てはいますが、まだ何も具体的なものはありません。あくまで構想と言うか妄想段階ですね。

■宮澤正明(みやざわ・まさあき)
日本大学芸術学部写真学科卒業。大学卒業後、赤外線フィルムを使った作品 『夢十夜』で、国際写真センター(ICP, International Center of Photography) の第1回新人賞を受賞。その後は、日本の女優やタレントの撮影を生業とし、自身が撮影した写真集は100冊以上を出版し、女優・菅野美穂のヌード写真集『NUDITY』(1997年)などで知られる。

 2004年の神嘗祭を機に伊勢神宮の撮影を開始。翌年12月、第六十二回伊勢神宮式年遷宮の記録を撮影する奉納写真家の認定を受け、伊勢神宮の撮影を開始。現代に生きる神話をテーマに2013年の第六十二回式年遷宮の撮影を行うと同時に4K動画での記録にも挑戦。写真では表現できない枯渇した想いを映画という新たな表現を使い、神宮を通じて自然と向き合ってきた人間の記憶を探るドキュメンタリーとして2014年4月映画『うみやまあひだ』を発表。

今年7月、スペインのマドリード国際映画祭にて「うみやまあひだ」が外国語ドキュメンタリー部門最優秀作品賞と同最優秀プロデューサー賞の2冠に輝いた。



関連写真

  • マドリード国際映画祭の外国語ドキュメンタリー部門で2冠に輝いた宮澤正明氏
  • 写真家・宮澤正明氏
  • マドリード国際映画祭の外国語ドキュメンタリー部門で2冠に輝いた映画『うみやまあひだ 伊勢神宮の森から響くメッセージ』
  • 写真家・宮澤正明氏
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  • マドリード国際映画祭の外国語ドキュメンタリー部門で2冠に輝いた映画『うみやまあひだ 伊勢神宮の森から響くメッセージ』

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