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日本ではもはやオーディション番組からスターは生まれない

 様々な情報へ容易にアクセスできる現代は、タレントの“卵”を発掘するシステムにも大きな変革を与えている。いろいろな都市に眠っている逸材がインターネットを通してクローズアップされたり、SNSなどを通して自らをプロデュース、あるいはアピールするマルチな才能を持った人物も相次いで登場している。そんななかで、大きな曲がり角を迎えているのが、かつて一世を風靡した“オーディション番組”だ。タレント予備軍を横一線に並べて競わせ、一般大衆の眼の前で合格者が発表されていく、ドラマチックな展開を持つ番組がこのところめっきり勢いを失っている。オーディション番組からもうスターは生まれないのだろうか。

◆英米では現在もオーディション番組が欠かせない存在、かつては日本でもスターを多数排出

 近年、日本のオーディション番組からスターが生まれにくくなった。しかし、海外においてはやや様相が異なる。英国の『Xファクター』からはワン・ダイレクションレオナ・ルイス、同じくイギリス発の『ブリテンズ・ゴット・タレント』からはスーザン・ボイルポール・ポッツなどが、米国の『アメリカン・アイドル』からもアダム・ランバートといった、近年も世界で活躍するアーティストが輩出されている。2001年に英国でスタートした『ポップアイドル』に端を発するこれらの音楽オーディション番組は、似たようなシステムを持ち(『アメリカン・アイドル』のオリジナルは『ポップアイドル』。『ブリテンズ・ゴット・タレント』は、英国でアイデアが生まれたものが米国で『アメリカズ・ゴット・タレント』となり、それを逆輸入する形でスタート)、音楽シーンの先端を行く両国の間でオーディション番組が欠かせない存在になっていることを示している。

 だが、日本のオーディション番組はその例からは漏れてしまう。我が国のテレビ史においてオーディション番組が大きく花開いた時期と言えるのは1970年代であり、その中心にあったのが『スター誕生!』(日本テレビ系)だった。山口百恵ピンク・レディー、80年代に入ってからも小泉今日子中森明菜といったスーパースターを見出した功績は計り知れない。その『スタ誕』無き後に、“夢のオーディションバラエティー”として一世を風靡したのが『ASAYAN』(テレビ東京系)だ。モーニング娘。や鈴木あみ(現・鈴木亜美)の誕生に密着したり、CHEMISTRYを生み出したりもした。EXILEATSUSHINESMITHも『ASAYAN』出身だし、女優の池脇千鶴も同番組が企画したオーディションにおいて見出されたひとりである。このように、数々のスターを見つけ育ててきたオーディション番組だが、近年は大きな成果を上げたという話を聞かない。

◆発掘しなくとも、人材を確保できるセルフプロデュースの時代

 2005年4月から2010年3月まで放送された『歌スタ!!』(日本テレビ系)からも、「home」(木山裕策)といったスマッシュヒットこそ生まれたもののそれ以上の話題は作れなかった。前述の『Xファクター』が日本に上陸するといって話題となったが、結局、沖縄ローカルでのみの放送ということもあって、尻すぼみに終わった感がある。クリス・ハートを送り出した『のどじまんザ!ワールド』(日本テレビ系)のように不定期で放送されている番組(オーディション番組ではなく、あくまで海外の人に門戸を開いた“カラオケ番組”だが)の成功例はあるものの、『スタ誕』や『ASAYAN』のような毎週放送されるオーディション番組となるとないに等しい。それはすなわち、オーディション番組からのスターが生まれにくくなっていることにもつながる。なぜ、オーディション番組は減ってしまったのだろうか。

 ひとつは、テレビ番組でなければ見出すことのできなかった“逸材”がネットをはじめ至るところにあふれていること。読者モデルと呼ばれる人々が事務所に所属しているほど、可視化され、発掘しなくとも、人材を確保できる仕組みが確立されているのが実情だ。

 さらに、地方がクローズアップされていることも大きい。ご当地アイドルの活躍は、“全国区=東京進出”という図式を書き換え、地元で活躍しながら東京に“出張”することを当たり前にした。地元で活躍するためには、オーディション番組に出演しなくても、もっと身近な場所にチャンスが転がっているのだ。

 『ASAYAN』が見せてくれたドキュメンタリータッチのシンデレラストーリーに視聴者が飽きてきていることも大きいだろう。テレビ主導でスターの誕生を見守るよりも、自分たちの身近な場所から、自分たちの手でスターを生み出すほうが充実感がある――言ってみれば、スターになりたい側も、スターを応援する側も“自分たちの手でストーリーを作りたい”というセルフプロデュースの時代になってきたということだ。不特定多数とネットを介してつながっているデジタル世代にとってはそれが自分たちの“オーディション番組”なのかもしれない。

(文:田井裕規)



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