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次代を担うリーダーが語る アーティストマネジメントの未来

 毎年新たなアーティストがミュージックシーンに登場し、さらに、動画投稿サイトが入口となって若手クリエイターも増え、シーンに彩りを与えている。ところが、音楽業界の若手経営者となると、他業界に比べて決して多いとは言えないのが実情である。そういった中、次代を担うリーダーとして期待を集めているのが、田村優氏、丸野孝允氏、中川悠介氏の3氏である。30代半ばの彼らに共通するのは、学生時にクラブイベントに携わるようになり、自然とエンタテインメント業界に足を踏み入れている点である。3人共に「音楽業界が大きく変化していく中で、今までの時代と、次の時代を両方体験できる、ある意味新しい世代」と位置づけるが、そんな彼らも今、後に続く若手のプロダクション経営者が少ないことを危惧している。そこで、鼎談を実施して、これからの音楽産業のエンジンとなるであろう彼らに、「アーティストマネジメントの未来」をテーマに本音をぶつけ合ってもらった。ここから見えてくる、マネジメントの新しいカタチとは。

(左から)田村氏、中川氏、丸野氏。これからの音楽産業のエンジンとなるであろう彼らに、「アーティストマネジメントの未来」をテーマに本音をぶつけ合ってもらった

(左から)田村氏、中川氏、丸野氏。これからの音楽産業のエンジンとなるであろう彼らに、「アーティストマネジメントの未来」をテーマに本音をぶつけ合ってもらった

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■田村優(たむらゆう)氏/インクストゥエンター代表取締役社長
80年、東京生まれ。大学在籍中に数々のトランスコンピを制作。04年6月にインクストゥエンターを設立。06年よりマネジメントも始め、初音ミクを使用した、ボーカロイドCDとしては世界初となるメジャー作品『Re:Package/livetune feat. 初音ミク』をリリースしたlivetune、インターネット、ボーカロイド系でもっとも成功したアーティストといわれるsupercellらと専属契約。10年からはネット発のクリエイターを積極的に開拓し、八王子P、ゆうゆP等と契約。また、コミックマーケットにも進出し、自社レーベル「TamStar Records」を設立した


■中川悠介(なかがわゆうすけ)氏/アソビシステム代表取締役社長
81年、東京生まれ。学生の頃からクラブでのイベントに携わるようになり、02年〜06年にかけて開催した、原宿の有名美容師が出演する「美容師ナイト」など、人気イベントを数々企画し、頭角を現していく。イベントや空間プロデュースに携わるなかで、コンテンツ制作も手がけるようになり、07年にアソビシステムを設立。『青文字系』という言葉を広め、ファッション・音楽・フード、さらにはライフスタイルまで、原宿カルチャーを世界に向けて発信。昨年には主催イベント「もしもしにっぽん FESTIVAL 2014」を東京体育館で開催した

■丸野孝允(まるのたかよし)氏/スターレイエンタテインメント代表取締役社長
80年、神奈川生まれ。学生の頃からクラブ業界に携わるようになり、それを契機に音楽業界へ。コンピアルバム、DVDの制作アシスタント等を経て、06年に九州男と出会い、マネジメントを開始。07年、主催フェス「MUSIC LIFE」を手がけ、09年には夏フェスとして長崎で初開催。C&K、ハジ→などもメジャーデビューし、13年にはユニバーサルミュージックと共に、ジョイント・ベンチャーとしてレーベル、NS waVe設立。アーティストマネジメントを軸に、イベント事業やEC事業、デザイン事業まで幅広く展開する

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■アーティストマネジメント会社の新しい在り方

丸野 最近のアソビシステムは目覚ましい活躍ぶりですよね。アーティストはもちろん、中川さんご自身のメディアへの露出もよく目にしますし、大型の主催イベントを拝見しても、様々な業種の出展ブースが並んでいたり、音楽プロダクションが仕掛けているものとは思えません。

中川 少なくとも自分たちを芸能プロダクションとは考えていないですね。原宿カルチャーを中心に据えた活動の過程で、表面化してきた“場所、モノ、コト”を、組み合わせながら1つずつ発信している、というイメージに近いです。田村さんが携わっているネット・ボカロ系シーンも、近いように思いますが、いかがですか。

田村 確かにネット・ボカロ系が、1つのカルチャーとしてまとまっていく過程で、事務所としての在り方も構築できた感覚はありますね。

中川 設立当初から、自分たちの場所を作りたいという気持ちが強かったように思いますね。当社が原宿カルチャーにこだわってきたように、田村さん、丸野さんの会社も、1つのカルチャーに特化していますよね。そのシーンの住人だけの共通言語があり、それを理解していることが我々の強みなのかな、とも思います。

田村 その感覚は理解できますね。17歳でDJ、ダンスミュージックの制作を始めたのですが、その当時に流行っていたのはパラパラでした。その後、トランスが一世を風靡していったのですが、当時、いろいろなレコード会社と一緒に作品を手がけることで、シーンを深く理解する重要性を学んだように思います。

丸野 田村さんもスタートはクラブ系なんですよね。中川さんとも当時から交流があったそうですね。

田村 ただ、その後は、マネジメントをやりながらニコニコ動画やYouTubeなどの動画サイトからアーティストを発掘することに興味が移り、今はネット・ボカロ系から派生し、さらにシーンを広げているところです。スターレイの所属アーティストを拝見しますと、レゲエ、ヒップホップなどのストリートシーンが柱になっていますね。

丸野 どうしてそうなったかは、実は自分でもよくわからないんです(笑)。僕自身、レゲエやヒップホップだけが特別に好きというわけではないですし。1つ共通しているのは、ほぼ全員がシンガー・ソングライターであり、彼らは「言葉や歌で大衆の心を動かせる」という点で、特に音楽のジャンルで括っているつもりはないんです。

中川 僕も音楽ジャンルにはこだわりはありません。イベントを始めたときからハウス、テクノ、エレクトロなど「良いものは良い」というスタンスを大事にしてきました。もちろん特定のジャンルに集中することも素晴らしいとは思いますが、個人的には、1つの音楽ジャンルだけに絞ってしまうと会社の成長においては、限界があるように感じています。原宿カルチャーという軸はブレませんが、いろいろな音楽や映像表現を取り入れて、それらを重ねていくほうが、今の時代には合っているように思いますね。

■現在の音楽業界は若い世代にどう映っているか

丸野 では、社員が「このアーティストをウチでやりたい」と、自分のアンテナとは少しはずれた新人を連れてきたときは、どういうふうに対応していますか? 僕の場合、会社の色に合わないと判断するときもありますし、それを抜きにすれば、ある程度までは任せないとスタッフが育たないと考えるときもあります。音楽ジャンルにこだわりがなくても、ある程度、会社のカラーはあるので、そのバランスをどうとっていくか、最近、それが悩みでもあるんです。

中川 自分の考えを会社全体に浸透させていく作業は、確かに大変です。社員が「やりたい」と思っているのであれば、応援したいという気持ちもありますし…。うちの場合は、クリエイティブ面については、得意な社員が多いので、制作に関しては、ほぼ任せるようにしています。ただし、プロモーションやタイアップに関してはすべて、僕も関わっていますね。

田村 僕もそうしています。もちろん、制作の細かな部分まで見ていたのでは、できることが限られてきてしまいますからね。

中川 3社共に、まだまだ歴史が浅く、新人育成や制作面での共通認識、プロモーションやイベントでの役割やルールなど、すべてをゼロから決めなくてはならない場面は確かに多いのではないですか?

丸野 自分でルール作りから始めているようなものですね。

田村 僕らは同世代ですが、僕らより下の世代で音楽業界に入ってくる人が極端に少ないですよね。

中川 確かに、IT、アパレル業界に比べて少ない気がします。レーベルにも同じ年代の人は少ない印象があります。

丸野 僕も仕事の上では年上の方とやりとりすることがほとんどですね。

田村 音楽を作っている若い人はいるのですが、裏方で働こうと考える人が少ないように思います。

丸野 要は僕も含めて、今働いている人たちが音楽業界を魅力的に見せられていないのかもしれません。IT業界に行くのは時代の流れでもあるし、「儲かりそう」「楽しそう」というイメージを持つのも理解できます。また、IT業界にはアイコン的な社長がいますよね。僕らが学生時代の頃は、音楽業界にも憧れの対象になる存在がいたと思うんです。「音楽業界で成功したら、こんなふうになれるんだ」というロールモデルというか。

中川「CDが売れない」などといった暗い話題ばかりが取り沙汰されるせいかもしれませんね。「LINE MUSIC」や「Spotify」など今後、新たなサービスも増えるでしょうし、音楽を発信する方法は日々増加しています。その分、チャンスも多いはずなのに、なぜかマイナスなイメージが強い。エンタテインメントをやっているのですから、明るい顔で仕事をしていたいって思うんですよ。

田村 コミュニケーションの仕方が変わってきたというのもありますね。今はアーティスト自身がすべての活動を自分でコントロールするケースも増えています。特に動画サイトで活動するアーティストは、その傾向が強いです。ライブのときくらいですよね、クルーを求められるのは。

中川 個人でできる限界に気づいていない人が多いのだと思いますね。我々も「マネジメントがしっかり機能すれば、可能性が何倍にもなる」ということを上手く伝えられていないのかもしれません。実際は、もっと大きなチャンスがあるのに、それがアーティストには見えていない。そこはきちんと提示していく必要がありますね。

田村 ボカロシーンに関わっていて感じるのは、やはりネットには良い部分と悪い部分があるということですね。僕らは“デジタルネイティブ”と呼んでいるのですが、今の10代の人たちは、まったく感覚が違うというか、大学生や高校生が「原盤権は○%でしょうか?」と、僕のところにメールで質問してきたり(笑)。そこも大事ですが、もっと夢を見てほしい。

丸野 過渡期なのでしょうね。20代前半の人と接していて強く感じるのは、僕らの世代とは“人とコミュニケーションをする”という部分で、少し違った感覚を持っているように感じます。いい意味でも悪い意味でも。

中川 確かに社会適応力の低い人が多いかもしれない(笑)。会社としても若い世代のセンスを上手く取り入れたいので、ウチはけっこうインターンの学生を入れているんです。若い子が会社にいるだけで空気が変わるし、新しい感覚も得られます。

丸野 とても単純なことですが、この仕事をやっていて嬉しいのは、曲を聴いて涙を流してくれたり、ライブでお客さんが感動して、何かを感じてくれるのを見ることができること。これは時代が変わっても普遍だと思います。若いスタッフにも、エンタテインメントから得られる感動を体験させることも必要ですよね。

中川 それは間違いないと思います。ネットで良い評判をいただくのも嬉しいですが、ライブの現場で楽しんでくれているお客さんを見たときの
喜びはやはり大きい。ネットやSNSが発達しているからこそ、逆にリアルな場で得られる体験が重要なのだと思いますね。

田村 私の場合、ネットとリアルを上手く融合させることが目下の課題ですね。

■今の音楽業界におけるヒット今の時代におけるスターとは?

田村 今のヒットを考えた場合、1つの指針は、ネットでどれだけ話題になっているか。あとはニコニコ動画、YouTubeでの再生回数、配信を含め、総合的に判断する必要があると思います。

中川 ヒットって何だろう?と改めて考えてみると、自分たちがマネジメントしたアーティストが「形になった」と感じる瞬間なのかなとも思います。例えば日本武道館を埋められたとか、街の人が歌っているのを聴いたとか。Twitterのフォロワー数も1つの目安になるかもしれないですね。あと、オリコンが調査しているアーティスト認知度もかなり気にしています。“どれくらいの人が知っているか”というのは、重要な指標だと思いますね。その先に新しいビジネスが必ずあると思っています。

丸野 僕は、ヒットの条件に関しては、「まだ、誰もやっていないことを実現して、それが大衆から受け入れられた」ということだと考えています。きゃりーぱみゅぱみゅは、まさにそうですよね。

中川 ありがとうございます(笑)。

丸野 初音ミクも現代のスター像の1つだと思います。

田村 ミクは僕が作ったわけではありませんが、シーンを作る一翼を担ったという自負はありますね。

中川 今は、国民的スターではなく、いろいろな分野に、それぞれのスターがいるのだと思います。YouTuberも、YouTube内においては、すでに大スターですから。

丸野 誰でもスターになれる、スターを作れる可能性があるという現状はとても面白いですね。その過程では、新しいアイデアや、それを持続させる力など、様々な要素が必要であり、そこは、我々が担っていかなくてはならない部分なのだと思います。


■エンタテインメントビジネス活性化のために変革すべきポイント

丸野 自分自身、今年は勝負の年でもあり、新しいことをどんどん仕掛けていきたいと思っています。そのためにもっとビジネススキームを広げて、新たなビジネスモデルも探っていきたい。

中川 今後の展開を考える際に私がいつも意識しているのは、現状の否定よりも、肯定を先に考える、ということですね。そのために、「物差しを変えながら考える」ということも実践しています。CDのリリース、ライブなど、どんな活動にも目標数値があると思うのですが、それは臨機応変に変えたほうがいい。価値基準が全部同じになってしまうと、どうしても行き詰まってしまうので。

田村 確かにそうですね。最近、新しいことを始めるうえで、「決まりが多い」という、もどかしさを感じる場面が増えているようにも思います。例えば動画を配信する際に、配信先が国内限定になってしまったり…。こちらから「海外でも見られるようにしたい」と提案しても、実現できないケースもあります。

丸野 CDのリリーススケジュールについても、レーベルと設定したプランに合うアーティストもいれば、合わないアーティストもいると思います。収益源のバランスも変わってきているので、その時の状況や世の中の流れを見て、その都度判断するフレキシブルさが欲しいところです。

これは当社のC&Kのケースですが、昨年11月にマリンメッセ福岡で1万人動員のライブを行いました。彼らはこの1年間でシングルを1枚しか出していないのですが、チケットを即完売できたことで、リリースだけに頼らなくても「今、このアーティストがキテる」という雰囲気を作ることができるかもしれないとも感じました。また、今のC&Kの場合、新曲のリリースを続けるよりも、ライブ中心の活動のほうがお客さんのニーズにも合っていたようにも思いましたね。メディアの活用を含め、やり方はいろいろあるはずです。

田村 メディアに関しては、当社のアーティストのような、ネット系、サブカル系は、特にテレビとの温度差があると思っています。そこは課題ですね。

丸野 僕らも同じですね。

田村 どうにか上手く連携していきたいのですが、テレビとネットの融合は本当に難しい。動画サイトとテレビはどうしても競合しますから。その点、中川さんは上手く付き合っている印象がありますね。

中川 いや、僕らもテレビを上手く使えていない、という悩みは常に抱えていますよ。

田村 でも、報道番組にも出演していたり、アーティストというよりも、文化人的な出演の仕方など、とても上手いメディア活用だな、と感心したこともあります。最近は中川さんが出る機会も多いですよね?

中川 テレビに出演するのは決して好きではないのですが、自分たちの活動を知ってもらうためには、今はメディアに出ていくときだと思うので、苦手ではありますが、声がかかれば極力出るようにしています。

丸野 そこは僕も同意見です。同世代や、下の世代がもっと音楽業界に入っていきたくなるように、音楽業界を魅力的に感じてもらえるように、僕らの世代がもっとメディアへ出ていって発信する必要があると思っています。

■同世代が連携することでエンタメ活況のパワーに

丸野 今年は、音源、ライブ、マーチャンダイジングなど、今まで頼ってきた部分以外で収益を上げていくことも考えています。そこでまずC&Kで、“Stamps”というスマホアプリを使用したファン向けのポイントサービスをスタートさせました。これはライブのチケット、グッズ、CDなどを購入するたびにスマートフォンのアプリにスタンプが付与され、それを集めることでサービスのランクアップが行われるシステムです。これにより、ファンサービスの充実化を図ると同時に、既存のビジネスと他業種を連携させ、新しいサービスを提供することが可能になります。例えば、飲食店などと契約し、ライブに来ていただいた方に「ライブ後、このお店で食事すると割引してもらえる」といった情報も提供できると思います。そうなると、新しい収益モデルにも繋がると思うんです。

中川 ウチは、昨年スタートした「もしもしにっぽん」(“KAWAII”を世界へ発信する新プロジェクト)を進めることはもちろんですが、アソビシ
ステム自体をメディア化することを考えています。現在、当社に所属しているアーティスト、モデルなどのTwitterのフォロワー数は、合計で500万以上。その中のコアファン10万人に向けて情報を発信するだけでも、1 つのメディアとして成立していくと思うんです。そのために今は、社内のモチベーションを上げていくことから始めています。今朝も「ウチから発信した情報は、即時、自分のFacebookでもシェアしろ」と指示したのですが、スタッフ全員が“メディアになる”という意識を常に持つように徹底させています。

田村 ボカロ系、アニメ系のイベントを軸に、今年は海外に積極的に出ていきたいと思っています。さらにアーティスト単独のワールドツアーを含め、幅広い展開を視野に活動するつもりです。今、中川さんがおっしゃった「メディア化」も進めたいですね。それぞれのコンテンツ、楽曲を中心としたメディアミックスを図り、そこから様々な展開へ派生させていきたいです。

丸野 これから音楽業界はさらに大きく変わると思いますが、僕らは今までの時代と、次の時代を両方体験できる、ある意味新しい世代でもあると思うんです。この後に続く世代の人たちにも、音楽業界が「魅力的だな。カッコいいな」と思われる存在になれるように盛り上げていきたいですね。

中川 僕は人と人を繋げるのが得意だと自負していますので、いろいろな職種の同年代を集めて、一緒に行動する機会を増やしていきたいと思っています。微力かもしれませんが、そうしたことを通じて、エンタテインメントが元気になるパワーに繋げられるといいですね。

(ORIGINAL CONFIDENCE 15年3月2日号掲載)

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