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後藤正文 「豊かに音楽を楽しむには“循環させること”が大切」

 自身のバンドのほかに、主催者として音楽イベントを実施、レーベルの新設や新聞の発行、さらにはソロ作品を発表するなど、多方面で活動を続けるASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文。音楽を豊かに楽しむためには、送り手としてだけではなく、受け手として何を感じて、何を次に渡すのか。循環させることが重要だと語る。

■メジャー、インディー問わずいい音楽を広く伝えたい

――昨今、音楽フェスが供給過多になっていると言われています。後藤さんはほぼ毎年、『NANO-MUGEN FES.』を開催している主催者でもありますが、そうした現状をどのように受け止めていますか。

後藤 まず、今までイベントが開催されなかったような地方で、ライブが行われる機会が増えたことは、いいことだと思います。町おこし、ではないけれど、村の祭りを今一度、新しくやり直している感じに近いのかもしれません。それによってみんなが開放されて、「ハレ」の場として楽しむって、本来的な音楽の役割だと思います。ただ最近のフェスはショウケース化していて、邦楽ロック系のフェスの顔ぶれが均一化されているのは残念ですね。それから、場を盛り上げることが第一義になっている傾向があるから、最新の自分たちのフィーリングをフェスという現場にアジャストさせていくことが難しいです。

――後藤さんは巨大フェスに出演しながら、若いインディー・バンドにも興味を注ぎ、深く接して動いています。メジャー、インディーの両サイドを俯瞰することが、どういう結果を生んでいると実感しますか。

後藤 その理由ははっきりしていて、循環させないとダメだから。それだけに尽きます。企業でも個人でも、とかく好きな音楽を抱え込んでしまう傾向にあるでしょう? でも、音楽それ自体もお金も、きちんと循環させて回していかなければなりません。そうしないと、流れが澱んでしまいますからね。僕は誰かから受け取ったものを、今度はまた別の誰かにパスしていくということを行っているだけです。そのためには、メジャーもインディーも、同等に接していないといけません。そうしなければ、ロックはスタンダードになっていかないと思います。なぜなら、今の新しい世代のインディー・バンドは、とても面白いと感じるのですが、一方で今後はどうなっていくのだろうか? とも思うからです。

――つまり、せっかく台頭してきた若手が狭い世界の中で終息することなく、どうやって次のステージに向かえばいいのかを考えているということですか。

後藤 はい。せっかく知ったいい音楽を、知らない人に伝えていくにはどうすればいいのかをつい考えてしまいます。SNSの普及で口コミが可視化されるようになったので、誰かが勧めている音楽がすぐに多くの人に伝わります。でも結局、そうして知った音楽を、自分のところで止めずにどう循環させていくかが大事なんです。


■インディー・レーベルの設立は学生の頃からの憧れ

――現在後藤さんは、フェス主催、「only in dreams」というレーベル運営、さらに『THE FUTURE TIMES』という新聞(フリー)の発刊にも携わっていて、まるでご自身が1つのメディアのようです。アーティストが他にも多くのアウトプットを持つことの醍醐味を、どういう部分に感じているのですか。

後藤 越境するところから面白いものが生まれるということは、これまでの歴史が証明しています。文化と文化がぶつかったところでスパークする火花が、新しいものを生む。そんな感覚で考えると、いろんなことに関わりながら音楽を作ったほうが面白いのではないか、と思います。同時に、ミュージシャンとしても人間としても、もっと高みを目指したい。確かに、今のASIAN KUNG-FU GENERATIONは成功していると思いますが、そこに寄りかかりたくないんです。バンドの一員であっても、1人の人間として僕は僕であって、凛としていたいんですよね。

――アーティストがメディア的な機能を兼ね備えていくこと自体、相当な労力を使うことですが、まるでそのプロセスを楽しんでいるようにも見えます。後藤さんとASIAN KUNG-FU GENERATIONの在り方が音楽のビジネスモデルとして前例がないのは、そういう邪気のなさを感じるからなんですね。

後藤 それは単純に、ずっとやってみたかったことを1つずつやっているからかもしれません。例えばインディー・レーベルの設立は学生の頃からの憧れで、実を言うとバンドでデビューしたいという欲求よりも強かったくらいです。好きな音楽やアーティストを、他の人にも伝えたい。周囲のいい音楽を伝えられる場があればいいな、と思っていましたから。でも今は、インターネットがあるので、自由に作品を発表できるようになりましたし、海外のアーティストをネットで調べたら権利が浮いていたり、実はどことも契約していなかったりすることが、すぐにわかります。それなら僕らで出そうよ!と始めたのが「only in dreams」です。割とそういう感じで始めてしまうことが多いんです(笑)。

――後藤さんは今年、初のソロ・アルバム『Can’t Be Forever Young』をリリースしたときに、ある取材で、今のASIAN KUNG-FU GENERATIONを巨大ロボ、企業に例えていました。様々な人の手を借りて動かしていくロボットや企業のような巨大化したバンドに対し、ソロではもっと柔軟で好きなことが即できるようでありたいと。いつ頃からそう感じるようになったのですか。

後藤 最初は一心同体だったのですが、バンドがそれなりに売れて、次第に意識が変わってきました。アルバムで言うと『ソルファ』(04年)あたりで極まった感じでしょうか。気がついたら巨大化していた、というのが本音です。たとえばツアーを行うとなると、多くのスタッフが必要ですし、そうなるとそれまで自分たちで機材を運んだりしていたような状態ではないということもわかる。もはやエヴァンゲリオンとかガンダムみたいですよね(笑)。気づいたら乗組員がいっぱいいる! みたいな(笑)。今までは自分の手でやっていたことも、「あ、今はもう“指の担当者”がいるんだ」と、ふと気づいたんです。

――その巨大ロボの司令塔として、音楽シーンに新しい風を吹き込んだり、整えていったりする役割を、バンドの一員としASIAN KUNG-FU GENERATIONが担っているという構図ですか。

後藤 メジャー・レーベルにいると、こんなこともやってはダメなのか、ということがたくさんあります。ギターを抱えてヒョイと友達のミュージシャンのアルバムに参加しにいくことも簡単にはできないし、楽曲配信などはクリアしなければならない壁がある。そもそもCDの価格が統一されていることもどうなんだろう? と思います。でも、僕らが影響力を持つことで、状況を変えることができるかもしれない。何か考えるきっかけになるかもしれない。そんなことを考えます。

■音楽を豊かに楽しむために味わう時間を大切にすべき

――そういう状況で、リスナーが丁寧に音楽に向き合い、咀嚼し楽しむような環境を作るには、どういうことが先決だと考えますか。

後藤 まず、味わうという時間を持つことが大事ですよね。それから、すべてのフェスに行かないとマズいとか、みんなが聴いているから聴かなければならない、といった感覚を捨ててほしいです。全部コンプリートしなくてもいいんですよ。本当に好きな音楽やフェスを見つけて、それをゆっくり楽しむ。そして、そのアーティストが伝えようとしているフィーリングって何だろう? といったことを想像しながら聴いてほしいです。僕自身が今、なるべくそういうイメージを持って、音楽を楽しむ時間を作るように意識しています。それに最近は、聴く方法を選べる環境もあります。たとえば今年、ソロ・アルバムをCDだけではなく、ハイレゾ音源とアナログ・レコードで発表しました。それは、ハイレゾは絶対的に音質がいい、アナログ盤は断トツに作品への愛着が感じられる、というそれぞれの良さがあるからです。僕はアナログ盤で音楽を聴くことが多いのですが、リスナーには、それぞれ好きなツールで楽しんでほしいんです。この作品でそういう意識を感じてもらえたら嬉しいですね。

――ゆっくりと聴いて堪能しながら、作品から何かを受け取ってほしい、それが音楽を豊かに楽しむための第一歩だと。

後藤 そうです。僕は送り手という立場でありますが、1人のリスナー、受け手として何を受け取って、それをどう次に渡していくかをとても意識しています。これはもはや、音楽だけの問題ではないと思いますね。そういう意味では今、リスナーや、こういうメディアの文章に触れる読み手など、受け手の態度が問われている時代でもあるのだと思います。

文/岡村詩野、撮影/草刈雅之、衣装協力/ LUI’S SHIBUYA PARCO

(ORIGINAL CONFIDENCE 14年12月22日号掲載) 



関連写真

  • ごとう・まさふみ/ASIAN KUNG-FU GENERATION(Vo&G)の一員として03年にメジャーデビュー。バンドを続ける傍ら、自主企画イベント『NANO-MUGEN FES.』の開催、新聞『THE FUTURE TIMES』の発行、自主レーベル「only in dreams」の運営など、様々に活動する。14年4 月には初のソロ・アルバム『Can’t Be Forever Young』をCD、ハイレゾ、アナログ・レコードで発売。14年12月3日にはソロ・ライブアルバム『Live in Tokyo』
  • 表紙写真(エンタテインメントビジネス誌「オリジナル コンフィデンス」14年12月22日号)

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