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ニコ動のカリスマ・米津玄師か語るメジャーでの成功法とは!?

 シンガー・ソングライター、米津玄師(よねづけんし)のアルバム『YANKEE』(4月23日発売)が、5/5付オリコン週間ランキングで2位にランクインし、注目を集めている。以前はボカロPの“ハチ”として、ニコニコ動画で絶大な人気を誇っていた米津が、ORICON STYLEのインタビューに応じた。メジャーデビューに際してぶち当たった壁とは――アルバム制作を通して感じた、ニコニコ動画とメジャーシーンの違いを語った。

ネット界のカリスマ・米津玄師

ネット界のカリスマ・米津玄師

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◆大きな島国(ニコニコ動画)を出てわかった、メジャーシーンでの壁――

 初音ミクなどのボーカロイドを使って、楽曲を発表するボカロP。ここ数年、数多くのボカロPがメジャーシーンに進出しているが、アーティストとしてヒット曲を生み出すことができるのは、ほんのひと握りだ。米津玄師は、かつて“ハチ”という名前で「結ンデ開イテ羅刹ト骸」や「マトリョシカ」、「パンダヒーロー」などの人気曲を生み出し、ボカロ曲の発表の場であるニコニコ動画では、総再生回数2500万回を超える人気ボカロPとして活躍した。その後、本名である米津玄師として自らボーカルを取りインディーズアルバム『diorama』を発売。2013年からはフィールドをメジャーの音楽シーンに移して活動している。ここに至るまでには、数々の変遷があったそう。ニコニコ動画やボカロシーンの持つ独自性は、必ずしも良い面ばかりではなかったと振り返る。

 「ニコニコ動画というのは、大きな島国みたいなものなんです。そのなかでしか通用しない方法論や独自文化があって、そこにいた僕は、それがそのまま外の世界でも通用すると信じて疑わなかった。でも、実際に一歩外に出ると、必ずしも通用するものではなかったんですよね。インディーズでリリースした前作『diorama』は、ニコニコ動画でやっていたときの気持ちのまま、それこそ自信満々でオリコン1位のつもりだったんですが、蓋を開けてみたら6位だった。僕自身、そこで初めて通用しないんだと気付いた感じです。確かにニコ動で曲がウケたことは、僕に自信を与えてくれたし、否定するつもりもないんですが、やっぱりボーカロイドを使っていたからこそ成立していたんです。それをそのまま生の声に変えて歌ったとしても、ニコ動と同じような反応は得られるはずもなくて。メジャーにはメジャーの、新たな方法論を手にする必要がありました」

 最新作『YANKEE』を制作するにあたり、米津のなかでは音楽に対する意識改革が行われた。

 「正直に言うと、前作『diorama』のときは、聴く人のことはあまり考えていなかったし、自分の思う美しさは、万人に共有してもらえるものだと勝手に思い込んでいたんです。しかも自分のなかでの美学しか信じてなくて、他人の意見や感性をまったく寄せ付けなかったから、ガラパゴス状態もいいとこだった。今の自分に欠けているのは、人と一緒に同じ方向を向いて、同じ熱量を持って物作りをすることだったと気付きました」

 多くのボカロPは、自宅のパソコンで作詞・作曲からアレンジまですべての作業をひとりで行っている。一方、メジャーシーンでの音楽制作は、プレーヤーやミックスエンジニアなど、様々な分野のプロフェッショナルが集結し、多くの人の感性が交わることによって、楽曲により大きな大衆性を与えていく。米津は、バンド形式でレコーディングを行い、スタッフの意見も採り入れることで、自分ひとりでは浮かばなかったアイディアも浮かび、結果すごく楽しい作業になったと言う。


◆J-POPのスタンダードに――国民的な音楽家になりたい

 そうした試行錯誤によって生まれたアルバム『YANKEE』は、週間アルバムランキング2位にランクインという、大きな結果を導き出した。タイトルは、アメリカ人や移民という意味があるそうで、ニコニコ動画やボーカロイドシーンという島にいた米津が、一歩外に出て外の世界の違う国に移り住んだという意味で、「自分は移民みたいだなと思って」付けたとのこと。語感からある種の爽快感も感じさせる絶妙なネーミングだ。そんな米津の目指す先は?

 「言い方に語弊があるかもしれないですが、僕はJ-POPを作りたいんです。日本のいわゆる歌謡曲があって、その上にロックとか、今ならEDMとか、時代ごとの要素を乗っけて、スタンダードになれるものを作りたい。国民的な音楽家になりたいです」

 ニコ動で育まれたアマチュアリズムや、もともと持っていた音楽センスを壊すことなく、メジャーならではの制作スタイルに馴染ませることによって、自分の進む道を見いだした米津玄師。彼の描く道筋は、今後ニコ動からメジャーを目指す多くのボカロPにとってのスタンダードとなり得るだろう。

(文:榑林史章)

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