国立競技場の歴史に芝生あり

 2020年に開催される東京五輪のメイン会場とするため、解体・改築計画が進んでいる国立競技場(東京都新宿区)。解体に伴い今年12月に現国立競技場は閉鎖されるが、改修前最後のJリーグの試合となる「2013Jリーグヤマザキナビスコカップ決勝戦 浦和 vs 柏」が11月2日に開催される。青々とした芝生が印象的な同スタジアムはスポーツファンから“聖地"と呼ばれているが、1年中青い芝を維持するようになったのは1990年から。この美しい環境を維持するためには、長年の努力と専門スタッフ「グラウンドキーパー」の存在があった。

■試行錯誤を重ねた「芝生の通年維持」

 国立競技場(正式名称は国立霞ヶ丘競技場・陸上競技場)は日本初の本格的陸上競技場として1924年に誕生した「明治神宮外苑競技場」が前身。1958年に開催した「第3回アジア競技大会」のメイン会場として改修が行われ、1964年10月に開催された東京オリンピックの開会式にも利用された。競技場としての歴史は古いものの、当時の芝生の常識は「冬は枯れて茶色になるのが当たり前」で、決して整っているとは言い難かった。日本スポーツ振興センター国立競技場事業課の渡辺茂さんによると、その転機は1990年の改修時。1年通して緑の芝生を維持し続けるための栽培法“ウィンターオーバーシード"を取り入れたことに始まるという。

 とはいってもこの方法は簡単にはいかなかった。まずは、床土をそれまでの土主体から砂主体のものへと変更。「通年育成している夏芝が冬枯れ(休眠)をしていく時期に合わせ、冬芝を播種、育成する」という“二毛作"にしたものの、床土が砂であることから水をまいてもすぐに乾いてしまう。また、冬芝の播種のタイミングも難しく、試行錯誤を繰り返したという。現在は生育状況や気象状況、開催競技・イベントに合わせて、芝刈りや施肥、冬芝の播種、芝の切り替え作業などを行っているが、「芝生が縮れて変色してしまうと、回復までに時間を費やしたり、壊死してしまう場合もあるので、1年中、気を配りながら、水やりや肥料のタイミングなどをみています」(渡辺さん・以下同)。

■「美しい芝の維持」に選手からも感謝の涙

 同競技場はスポーツ以外のイベントでも使用されているが、「コンサートなどでピッチに観客席を作る場合は芝生の上にスノコのようなものを敷きこむ」とか。また、「気温が高い時期などはストレスがかかって黄色くならないよう、敷きこむ時間を決めている。コンサートが終わったあとは、土壌をほぐすために穴あけをしたり、肥料を与えています」。スポーツの試合後、グラウンドがえぐれたり穴が開いてしまった場合も「小さなえぐれなどはその部分に砂を入れ、平らに戻します。10月からの冬芝のシーズンには、その砂の中に種子を混ぜ、芝が生えることによって回復させていきます。(もっとひどく穴が開いてしまった場合は)場内にある予備の畑から芝をくり抜き、傷んだ部分に植え込みます」と、徹底管理を続けている。

 良いコンディションのピッチは、選手のパフォーマンスにも大きく影響する。現在の芝の栽培法を導入した後、「よくやってくれた」と、選手から涙を流して感謝されたグラウンドキーパーもいるとか。新たに作られる新・国立競技場では「芝生もすべて新しくなるので、またその新しい環境に合わせた種と育成方法を考えていく」ことになるため、また試行錯誤の日々が始まる。

■冬芝の生育も順調 今年のピッチは期待大

 とはいえ、選手が素晴らしいプレーを行い、それを見に来た観客が熱狂する。そのひとときのために、グランドキーパーたちは手間暇かけて芝の徹底管理を行っている。「今年は、10月7日に冬用の芝の種を撒き、順調に育成しています。種を撒いた後、サッカー等の試合でピッチを使用するのはナビスコ杯が初めてとなるので、当日は良いコンディションで選手、お客様をお迎えできると思います」。

 ヤマザキナビスコカップも1992年の第1回大会から一部大会を除き決勝戦の舞台として利用されているが、この競技場のこの芝で行うのはこれが最後。「満員の観客の中で行なわれるヤマザキナビスコカップ決勝。私たちも、この日に合わせ、満員のお客さんがスタンドに入り、ピッチを見た時に、すごい!と喜んでくれるような状態に仕上げるよう、整備に取り組んでいます」グラウンドキーパーたちの技術と情熱が注ぎ込まれた美しい芝と、その上で繰り広げられる選手たちの雄姿に注目だ。


2013 Jリーグヤマザキナビスコカップ浦和レッズvs 柏レイソル
11月2日(土)午後1時よりフジテレビ系列にて全国生中継

Jリーグヤマザキナビスコカップ公式サイト



関連写真

  • 青い芝の刈込作業をする専門スタッフ・グラウンドキーパー(現在の様子)
  • 凸凹になった芝生を転圧で平らにする作業(以前の様子)

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