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『レ・ミゼラブル』ヒット検証〜若い世代にも響いた生歌パワー

 『レ・ミゼラブル』の映画興収が50億円を突破し、『オペラ座の怪人』の42億円を抜いて国内のミュージカル映画史上1位に躍り出た。55億円突破も目前に迫り、もはや社会現象と化すほどの爆発的な人気を集めながら、興収ランキング1位になったことのないこの無冠の大ヒット作は、どうやって生まれたのか。

映画『レ・ミゼラブル』の場面カット (C) Universal Pictures.

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 「ミュージカル映画は当たらない」とは誰が言ったのか。公開より12週目に入っても興収ランキング上位から落ちない『レ・ミゼラブル』。現時点で今年一番のヒットを記録しており、配給元の東宝東和も「他の作品に比べて、首都圏のシェアがとても高い。こういうかたちでの興収50億突破は珍しい」と驚きを隠せない。

 本作のターゲット層を設定するにあたり、全国の10〜50代の男女を対象にしたポテンシャル調査を実施した。演劇ファンにとっては、東宝ミュージカルで何度もロングラン公演されたおなじみの演目とあって楽曲認知が高く、とりわけスーザン・ボイルが歌ってヒットした「夢やぶれて」は飛びぬけていた。女性40代以上の原作の認知率も95%を超えたが、一方で若い世代の多くはタイトルを耳にしたことはあっても、内容を知らないと回答した。そこで、同作の宣伝プロデューサー・石田聡子氏(東宝東和営業本部宣伝部)は、メインにミュージカルの舞台を見たことがあるであろう50代女性、戦略ターゲットを30代〜40代に定めた。

 特報を流し始めたのは6月中旬から。アン・ハサウェイ演じるフォンテーヌが歌う「夢やぶれて」のインパクトが強く、大きな手ごたえを感じた石田氏は同曲以外にも「オン・マイ・オウン」、「ワン・デイ・モア」といった認知の高い楽曲を次々に出していくことで、幅広い層に訴求させていこうと考えた。ところが、「なかなか音楽の使用が解禁にならなかった」と苦しい舞台裏を振り返る。「お正月映画でもありますし、皆で歌う「民衆の歌」などで希望を伝えたかったのですが…」。ミュージカル映画でありながら、宣伝に使用できる楽曲がほとんどないという、素材の少ない状態が11月まで続いた。

 公開は12月21日。初動の興業成績は、決して芳しいものではなかった。しかし、連休が明けて25日以降も動員が落ちることはなかった。なんと、出足を支えたのは20代と思しき若い女性層だった。「調査ではミュージカル映画を前面に出して宣伝しないほうがいいという結果も出ていました。しかし、食わず嫌いはむしろ上の世代で、先入観のない若い世代にはストレートに生歌の力が伝わったのだと思います。だから、話すように歌う内容にも違和感を覚えなかったのではないでしょうか」と石田氏も語るように、作品世界にどっぷりと浸った若い女性層は、その感動をSNS等で拡散していった。

■「夢やぶれて」のインパクト 若い女性層にも訴求

 メインターゲット層が動いたのは年が明けてから。アカデミー賞のノミネーションの発表(現地時間1月10日)やゴールデングローブ賞の助演女優賞をアン・ハサウェイが獲得したニュース(同1月13日)も追い風になり、2月頭には『オペラ座の怪人』を抜き、ミュージカル映画として歴代最高の興収を記録。また2月後半には第85回アカデミー賞で助演女優賞、録音賞、メイク・ヘアスタイリング賞の計3部門を受賞し、ヒットにさらなる弾みをつけた。

 本作は主人公ジャン・バルジャンの波瀾万丈の人生と、執念深く彼を追い続けるジャベール警部の対立が描かれた男くさいドラマだが、ヒロインのウエイトを増やし、感情移入できる泣けるシーンを作ったことで、若い女性客を動員することに成功した。また、臨場感のある生歌のパワーは、舞台を知らない層にも訴求。出演者が多く、観るたびに感動するツボが違うのもリピーターを増やす誘因となった。舞台に忠実な設定はもちろんのこと、随所に舞台のキャストが起用されていることもコアファンの呼び水となった。上記がヒットの主な要因と考えられるが、社会現象とまでなったのは、やはり初動で若い女性層をつかんだ点だろう。

 昨年30億円の大台を突破した洋画はわずか5本と、邦画11本に比べて少なく、邦画に押され気味の感は否めないが、本作の大ヒットによって、洋画マーケットが活気づくのではないかと期待を集めている。(オリジナル コンフィデンスより)

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