こういう状況において一番相応しい言葉
まず目を見張り、心を惹かれるのは、『C'mon』という極めてシンボリックなアルバムタイトル。ワードとしては、誰もが知っているとてもシンプルなものではあるのだけれど、アコースティックギターの音色に導かれ、郷愁感を抱きながらゆっくりと未来へと歩みだしていこうとする心持ちを歌う、オープニングナンバーでありタイトルチューン。「C'mon」が生まれた背景を知れば、このワードが掲げられた理由が明確となるはず。
「この「C'mon」という楽曲は、東日本大震災の影響を受けて作った作品なんです。アルバムの制作中に震災が起きて、それで気持ちが一度ゼロの状態になってしまったんですけれど。そのなかで、“こういう状況において、B'zのサウンドに乗せて発するのに一番相応しい言葉”を模索し続けて、それで出てきたのが“C'mon”という言葉でした。やっぱり勢いがすごいんです、そういう状態で出てきた言葉は。ですから、この楽曲を制作している段階で、“この言葉は、今回のアルバムに向けて作り上げてきた全ての楽曲を一気に束ねられるのではないか?”という考えにも至り、アルバムタイトルも“C'mon”に決めました」(稲葉浩志)
“いい曲”ということだけが大事ではない
制作に着手したのが昨年の5月であり、先行シングルの「さよなら傷だらけの日々よ」「Don't Wanna Lie」や、生まれ変わってさらにドラマチックにパワーアップした「ultra soul 2011」といったナンバーが収録されていることを思えば、しんえんに臨むに近い心情のなかで閃いたキーワードが全ての創作物を包括する、ということは普通ならなかなか想像がつきにくい。しかし不思議なことに、このアルバムに収録されている全13曲どれもが、何らかの響きで“C'mon”に込められた精神と魂を表現しているように感じられるのだ。それを“偶然のなかの必然”と捉えるのが正しいのかどうかはわからないが、1曲1曲と正面から対峙しながら全ての楽曲を聴き終えた瞬間に、揺るぎない“意思”という一本の筋が貫かれているのは、確か。
「このアルバムにとって、とても大事な楽曲になった「C'mon」ができて、“これが1曲目”と決まったところから、全体の流れを構成していったんです。アルバムを制作していくなかで、実はかなりの数の楽曲を創り上げていたんですけれど、“いい曲”ということだけがアルバムを構成するために大事なわけではないんですよね。そしてもちろん、選曲と同じように曲の並びというのも重要ですし。そういうところを考え抜いた結果、最終的にこの形となりました」(松本孝弘)
聴き応えがある、というのはもちろんだが、五感をフルに活かして鳴り響いてくる全ての言葉と音を感じ続けたい作品集。真摯なメッセージ、誠実な音色と旋律を、ぜひ全身全霊で体感していただきたいと思う。
(文:竹内美保)