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livetune『ボカロ第一世代だからこそ伝えたい生の声の魅力』

“adding”シリーズとして中島愛やFukase(SEKAI NO OWARI)といったゲストボーカリストを迎えたシングルをリリースしてきたlivetuneが、その集大成となるアルバム『と』を9月10日に発売。ボカロ第一世代から見た今のボカロシーン、敢えて今生歌にこだわる理由について、kz氏に聞いた。

もっと生の声の力強さを再認識してもらいたい

  • ORICON STYLEのインタビューに応じるkz氏

    ORICON STYLEのインタビューに応じるkz氏

 2008年8月、当時は商業作品としてはまだ珍しかった「初音ミク」で制作した楽曲を集めたアルバム『Re:package』が最高5位を記録し、音楽リスナーに大きな衝撃を与えたlivetune。現在は音楽プロデューサー・kz氏のソロ・プロジェクトとして、他アーティストへの楽曲提供やプロデュース、リミックスなどを手がけるなど活躍の場を広げている。2年前からはリアルボーカルを起用したプロジェクト「addingシリーズ」を展開。数々の注目アーティストとコラボし話題を呼んできた。その集大成となる待望のフルアルバム『と』が9月10日にリリースされた。中島愛やFukase(SEKAI NO OWARI)、尾崎雄貴(Galileo Galilei)らを迎えたシングル曲はもちろん、 鬼龍院翔(ゴールデンボンバー)や原田郁子(クラムボン)などを迎え新たに制作した新曲も多数収録。実に12名もの客演陣が、livetuneの音楽の世界をリアルボーカルで彩る。

 「やっぱりボーカルのレコーディングは楽しい!」とアルバム制作を振り返るkz氏。そもそもaddingシリーズのスタートには、「生の声の力強さを再認識してもらいたかった」という、いわゆる“ボカロ第一世代”という出自からは意外すぎる思いがあった。
「ボカロにはボカロならではの魅力がある。だから僕も音楽ツールのひとつとして活用してきました。だけど最近、ボカロ楽曲しか聴かない小中高生が増えてるという話を聞いて、もったいないなと思ったんですよ。世の中には、こんなにいろんな声質や表現力を持ったボーカリストがいるのになって」

 起用ボーカルの人選は、もともとつながりがあったアーティストが多いそうだが、「大前提として、僕自身がその人の音楽性や表現スタイルのファンであること」だという。そんなリスペクトが根底にあっただけに、楽曲はボーカリストが決まってから個々のカラーを引き出すことを意識して制作。ボーカリストたちもまた、それぞれの持ち味を存分に発揮しており、実に多彩かつ豪華なアルバムとなっている。
「生ボーカルのレコーディングって、予想外のマジックが起きるんですよ。鬼龍院くんとのレコーディングもまさにそう。もともと友人ということもあって、すごく楽しく作業してたんですけど、鬼龍院くんが突然『こういうときって、曲をイジりたくなるんだよね』って言い出して、『じゃあ、好きにやってみてよ』と僕が言ったら、GLAYのTERUさんのように歌声を高く持ち上げて響かせる歌唱をしたんです。僕には絶対に思い付かないメロディだったので、即採用って決めましたね」

音楽にまじめに取り組みすぎていた

  • 「ドン・キホーテにCDが置かれるようになりたい」と話すkz氏

    「ドン・キホーテにCDが置かれるようになりたい」と話すkz氏

 さて、livetuneが活動をスタートしたのは「初音ミク」が発売を開始した2007年。同年9月にニコニコ動画で発表された「Packaged」は、ボカロ初期を代表する人気曲の一つとして、今も人気を集めている。あれから7年、時を経て、音楽のみならず小説や漫画の原作を手がけるマルチプレイヤーも登場するなど、今やボカロシーンは当時とは比べ物にならないほど成熟した。
「最近は、ボカロ楽曲=四つ打ちの早いロックというイメージがあって、それがひとつの「ジャンル」として括られてしまっているような気がします。だけどボーカロイドというのはあくまでシンセの一種であって、楽曲を構成する楽器のひとつ。もっと自由に音楽を表現できるツールだったと思うんです。シーンとして人気が出てきたことで、逆に狭いところに閉じこもってしまった印象もあります」

 そしてkz氏自身、「ボカロで作品を作ってた時期は、音楽にまじめすぎた気がします」と振り返る。「もうちょっと肩の力を抜いてやってもいいのかなって。僕、ドン・キホーテにCDが置かれるようになりたいんですよ。CDショップは音楽が好きじゃないとなかなか行かないけど、ドン・キホーテは音楽に興味ない人も来るから、置いてあるCDは誰もが知っているようなヒット曲が多い。だからドン・キホーテに置かれるようになれば、お茶の間にも届いてるということなのかなと思うんです」。

 そのため、これまでダンスミュージックを取り入れた楽曲が多い印象があるが、『と』に関してはメロディーやサウンド等、随所にJ-POPへのリスペクトが感じられる作品となっている。「僕は洋楽が好きですけど、今回は日本向けの新作なので、やっぱり日本人に耳馴染みのある音がいいのかなと。ただ、ダンスミュージックの中でも「EDM」は日本人の好みに近いと思うので、そのマインドは反映されています。フェスに出演したときに思ったんですけど、日本人ってライブではみんなで一緒に歌ったり、同じ振りを踊ったりする“トゥギャザー感”に喜びを感じる文化があると思うんですよ。同じく、「EDM」もフェスで大合唱したりしますよね」

『と』で意識した音楽の“ローカライズ”

 レディー・ガガが日本で成功した理由のひとつに、現地の文化にまで入り込んだ“ローカライズ”戦略があったと言われている。日本人でありながら、kz氏の発想も、まさにこのローカライズ戦略に当てはまるのではないだろうか。
「前にFukaseくんと、インドカレーをそのまま日本に持ってきても、国民食にはならなかったかもしれない。日本人が好きな味付けにアレンジしたから、カレーライスが生まれたんだよねという話をしたんです。音楽も同じで、自分のカラーを入れ込みながらも、その国の人が楽しめるサウンドを意識することが重要だなと、今回の『と』を作っている間もすごく考えたんですよね」

 それはGoogle ChromeのCMソングに起用された「Tell Your World」以降、アジアやヨーロッパなど海外のイベントでのDJ出演が増え、日本の食や漫画とコンテンツの現地での受け入れられ方から考えるようになったという。最後に、livetuneの立ち位置はクリエイターか?プロデューサーか?と問うと、「プロデューサーであり、アーティスト」という答えが返ってきた。
「たぶんプロデューサーだけだと、届く世界は狭いと思うんです。小室哲哉さんですとか、中田ヤスタカさんのように、自分も表に出て、何かを発信していきたいですね。もっとリアルボーカルプロジェクトもやりたいですし、参加してくれたアーティストを集めてフェスもやりたいですけど、今後は1人か2人くらいのボーカリストを固定して、フットワーク軽く活動していきたいと考えています」
(文/児玉澄子)

livetune adding 鬼龍院 翔 (from ゴールデンボンバー)「大好きなヒトだカラ」MV

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