――『Whistle』は、日常の素の自分たちを、すごく丁寧に歌に込めたアルバムですね。
【新里】 そうですね。そのスタンスはずっと変わらずに、自分たちの日常に起きたことをいつも曲、詞にしているので。以前とひとつだけ違うことは、昔だったら“これでいいのかな?大丈夫かな?”と思いながら制作していることもあったんだけど、今回は自分を信じきって作っていくことができたことです。
――聴き終わったときに、ちょっと大げさな言い方かもしれませんが、“人生讃歌”という言葉が浮かんできました。
【新里】 ありがとうございます。僕らが10周年を迎えるにあたって、ふさわしいアルバムができたと思います。
――16才からの10年って大きいですよね。思春期に始まり……。
【名嘉】 多感でしたねぇ。僕ら高校のときからバンドをしていて、高3になったときに、もしかしたらみんな別々の道を行くかもしれないから“思い出作りとしてレコーディングしようぜ”ってところからスタートしたんですよね。そのときレコーディングしてくれたスタッフが、僕らの歌をすごく気に入ってくれて、そこからストリートライブを始めて、高3の2学期には1stアルバム『Departure』をリリースして。音楽が自分の表現手段になるまでの10年は長かったですけど、メンバーそれぞれがHYの一員であると自覚できました。勉強しっぱなしの10年でしたね。東京に出て来るようになるまで、地下鉄も見たことなかったし……。
――でも「レール」という歌がアルバムの1曲目を飾っていますよね?
【新里】 そうなんですよ。スタッフの方と音楽や人生について深く話をしたときに、人生をレールに置き換えた話になって、それが自分の中に深く印象に残って……。こういった詞がどんどんつながっていったんですよ。もしかしたら、当たり前のようにレールを見ている環境だったら、この歌は生まれてこなかったかもしれないですね。
――「レール」という歌は、とても輝かしいアレンジになっていて、これが自分たちの歩く道であると誇りを持っているような楽曲だなと。
【新里】 10周年を迎えるにあたってこの曲を作ったというワケではないんですけど、26才になって、もっと自分に責任を持ちながら物事を考えて進んでいきたいなという気持ちが、今どんどん出てきていて。その気持ちが出てきたのも、バンドを始めてからずっとファンのみんなやスタッフに支えられて、それがレールだったと気づいたからなんですよね。みんながいろんなことを教えてくれて、学んできたことを糧に、今度は自分たちの手でレールを作っていって、これからもみんなと一緒に歩いていきたいなという想いを込めました。
――この曲は、昨年9月22日に沖縄・北谷町で行ったストリートライブで歌ったというエピソードをお聞きしましたが、その場所はHYの原点なんですね。
【許田】 青春そのものですね。高校時代の夏休みは、毎日といっていいくらいにそこで遊んでライブやって。
【名嘉】 美浜カーニバルパークに観覧車があって、その下で高校生の頃からずっとストリートライブをやっていたんですよ。そのときから、ストリートではボーカルは何をするべきなのか、ギターは、ベースは……とそれぞれが考え、刺激を受けて、信じてやってきたことが間違っていなかったんだなってことが、9月22日のライブで確信できました。2万人もの人が集まってくれたんですよ。本当に感謝です。
【新里】 すごかったね。最後まで熱いライブで、ひとつのフェスになっていましたよ。10周年目を、ここからまたスタートするという意味でも、いいライブになりましたね。
――泉さんの歌は、女性ならではの生々しさがありますよね。「ビタミンI」にしても「Answer」にしても、スキンシップ・レベルの視点から書いていますよね。
【仲宗根】 歌手になれて、自分の好きな人に対する想いを歌にできるって、最高ですよね。綺麗事なら私が歌わなくてもいいと思ったし、歌うからには自分しか経験していないことを歌いたいと。最初はリアルすぎないかな?とか、重すぎないかな?とも思ったんですけど。でも、そういう歌を歌っていたら“まるで私のことを歌っているようだ”って共感の声をたくさんいただいて。自分のやってきたことは間違いじゃないんだなって確信できたことで、曲を書くのがより楽しくなりましたね。
――泉さんの女性ならではのリアルな視点と、男性陣の理想を追い求める視点のギャップがHYの魅力のひとつでもありますよね。
【名嘉】 (なぜか小声で)その通りですねっ。
――(笑)で、サウンドだったりジャンルの幅も広いですよね。今回、新たな挑戦だった曲はあるんですか?
【仲宗根】 「うけんビーチ」とか?
【名嘉】 アコースティックで大人っぽいサウンドが出てきましたね。これ、実在するビーチなんですよ。
――作詞作曲が宮里さんですが、うけんビーチに思い入れがあるんですか?主人公の2人の姿が想像できるようなロマンティックな歌ですけど?
【宮里】 ま、行ったことはあります。
【全員】 (笑)。
――え、そのくらい(笑)?
【宮里】 (笑)これ、仮タイトルだったんですよ。最初はもっとアップテンポなイメージで……。でもゆったりとした感じで曲が完成に近づくにつれて、他のタイトルを考えようと思ったんですけど、浮かびませんでした。
【名嘉】 あと、歌詞の世界観という意味での新しい挑戦だったのが「時をこえ」ですね。泉(仲宗根)が作ってきたんですけど、僕らも沖縄の歴史を伝えていく年齢になってきたのかな?って感じましたね。沖縄民謡は、昔からどの家からも聴こえてくるような文化ですからね。僕らのおばあちゃんは、沖縄戦の話をたまにしてくれるんですよ。そういう戦争の話を聞きながら、いつかは僕らも作らないといけないだろうなとは思っていましたけど、まさか26才という年に、しかも10周年というタイミングに泉が書いてくるとは。
――この歌を聴いたときには、思わず涙がこみ上げてきました……。
【名嘉】 レコーディングも苦労しました。一番時間がかかった作品です。沖縄民謡に外国人のゴスペルのコーラスを入れるのは、すごく悩んだよね。“カッコいいからやってんのか”とか言われたりもしましたし。だけど、世界が手を取り合っていかないと、本当の平和って来ないんじゃないかな?と思っていて。
――おばあちゃんたちには本当に悲しい戦争だったと思います。でも、その想いを受け継いで、世界が手を取り合って……って言えるのは、この世代ですからね。
【名嘉】 本当にそうなんです。曾おばぁも99才なんですけど、そういうリアルな話を聞けるのも僕たちが最後の世代かな?って思うしね。これからは手を取り合って生きていこうってことを伝えていかなくちゃいけないと思っています。
【新里】 沖縄民謡と外国の方の歌がコラボしている歌って、あまりないよね。だけどこの歌を子供たちが聴いてくれたら、意味もわかって、その考え方が当たり前のようになって、それがどんどん広がって、新たな世界が生まれたりするのかな?って思うんです。
――そういう意味でも「時をこえ」というタイトルなんですね。
【許田】 この歌にはエイサー(太鼓を叩きながら踊る沖縄の伝統芸能)も入ってるところがまたいいと思うんです。命の重さの音って感じがしています。
【名嘉】 いいこというね。HYというバンドがちゃんと後ろで支えて、三線だったりエイサーだったり、ゴスペルが入っていて。こんなミクスチャーは新しいんじゃないかな。
――そういうアルバムに『Whistle』というタイトルをつけたところには、そんな想いがあるんですか?
【新里】 10周年を迎えて、自分たちで新しいレールを作っていくための第2の始まりなんだなという想いも強かったので、タイトルはスタートをイメージできる言葉にしたかったんですよ。そんな中で出てきた言葉がホイッスルだったんです。たとえばサッカーだと、たくさん練習を積んできて試合に挑みますよね。今までの想いをすべてぶつけるキックオフの合図がホイッスルであり、ここに入っている12曲も、これから始まる何かを予感させるものであってほしいなという想いがこもっています。
(文: 三沢千晶)