2009年の映画興行は、この年末近くにきて、洋画の巻き返しが顕著になってきた。この11月あたりまでは、邦画の興収シェアが、前年のように洋画を上回るものと見られていたが、12月に入り両者の差がかなり縮まってきたのだ。この洋画の巻き返しは、実に心強い。それはさておき、今年の邦画の興行は前年と同じく、相変わらずテレビ局製作の作品のヒットが目立った。ただ、製作の主体を握るテレビ局には変化が起きている。変化を見せたのはフジテレビで、これまでの製作のバリエーションとは、かなり様相を異にした作品を送り出してきた。その興行成果については後述するとして、これまでテレビ局の映画製作の主導権を握ってきた同社の変化は、今年の邦画界にあって、重要な意味をもったと私は見る。

 それはともかく、2009年の邦画最大のヒットは、TBSが中心になって製作した『ROOKIES-卒業-』(85億円)だった。人気コミック原作があって、テレビドラマが圧倒的な高視聴率を誇り、その映画化がまたブームを巻き起こした。この製作の流れに、テレビ局が独自で作品宣伝を行う強力な番宣(番組宣伝)が加わった。明らかに、最近の邦画ヒットの典型的なパターンとなったような興行であったといえる。

 この『ROOKIES-卒業-』のほか、作品別興収の上位10本には、テレビ局製作の作品がズラリと並んでいる。アニメ3本を除くと、実写作品7本中、実に6本がテレビ局が幹事会社(製作委員会の主導権をもつ会社)をつとめる作品だった。人気コミックや人気テレビドラマの映画化、オリジナルものなど中身は様々だが、テレビ局がもつ強いメディア伝播力を背景にしたヒットだったのは言うまでもない。

 数字的には、上位11位までが興収30億円を突破したのは、特筆していい(12月1日現在)。前年は30億円を超えた作品が11本だったから、2009年も同じレベルを維持した。また、30億円を超えた洋画は6本(前年も6本)だったことを考慮すれば、ここ数年でいかに邦画のヒットのボリュームが大きくなっているかがわかる。30億円突破の邦画がここまで増えているのは、近年の大きな特徴である。

 さて、そうしたなか、フジテレビが、製作の志向性を変えてきたことに注目してみたい。具体的な作品を挙げてみれば、公開順に『誰も守ってくれない』『ホノカアボーイ』『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』『サイドウェイズ』『曲がれ!スプーン』ということになるだろう。いずれも人気コミック、人気テレビドラマ、ベストセラー小説など、安価にヒットが期待できるベースを土台にした映画製作ではない。いってみれば、作品の質そのもので勝負しようと腐心したような作品ばかりだ。

 フジテレビがこうした作品を製作した背景には、前記したような邦画のヒット構造に、アンチテーゼを示そうとしたためと思われる。そのヒット構造とは、同社が他社に先駆けて作り出してきたものだけに、何とも興味深い取り組みなのだが、しかし残念ながら、いずれも興収で10億円を超えることはなかった。収支的には、かなり厳しい作品もあったといえる。

 マーケティング主導のテレビ局製作映画の悪い面ばかりが指摘される昨今、それに異を唱え始めているフジテレビの新たなチャレンジについては、どこにもまだほとんど触れられていない。確かに、まだ大きな成果を上げるまでには至っていないが、この方向性を評価したいし、そのためには今後に向けてのさらなる企画や中身の吟味が必要になる。

 一方、テレビ局主導型以外の作品に目を向けてみれば、アカデミー賞外国語映画賞の受賞で社会現象化した『おくりびと』が、ついに62億5000万円を記録。今年に入ってからでは30億円以上の上乗せを果たし、2009年のもっとも注目すべき興行になったのは立派だった。さらに、『ヤッターマン/YATTERMAN』(31億5000万円)、『沈まぬ太陽』(推定30億円)、『劔岳 点の記』(25億円)などの実写作品に加え、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(推定39億円)などのアニメの健闘ぶりも目につく。また、吉本興業が推し進める邦画製作では、『ドロップ』(20億円)といった成功作も登場し、ヒット作がテレビ局主導の邦画だけではない現状も見えてくる。単館拡大のマーケットでは、『ディア・ドクター』や『南極料理人』などの健闘もあった。

 2009年も不振の続いた洋画は、一段と深刻さの度合いを増した。『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(80億円)をトップに、『レッドクリフ PartII ―未来への最終決戦―』(55億5000万円)などが上位にくるが、そのほかに興収予想を下回る米映画の大作が続出したからだ。3D映画元年とも言われた2009年だが、よりそれら3D映画がいまだ大きな成果上げていないのも、洋画の低迷ぶりを加速化させたのかもしれない。

 ただ年末にきて、『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』が4週間と3日という限定公開ながら、44億円を記録したのは洋画シーンにとって2009年唯一の明るい話題であった。この大ヒットが、洋画の復活につながるかどうかは未知数ながら、映画の底力を広く知らしめたことは高く評価していい。 (映画ジャーナリスト・大高宏雄)

※上映中の作品の興行収入は、最終的な見込みの数字を「推定」として記しています。

監督:若松節朗
出演者:渡辺謙ほか
配給:東宝
(C)2009「沈まぬ太陽」製作委員会

インタビュー:桜庭ななみ
監督:細田守
出演者(声):神木隆之介ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

監督:木村大作
出演者:浅野忠信ほか
配給:東映
(C)2009『劔岳 点の記』製作委員会

インタビュー:西川美和
監督:西川美和
出演者:笑福亭鶴瓶ほか
配給:エンジンフイルム、アスミック・エース エンタテインメント
(C)2009『Dear Doctor』製作委員会

インタビュー:堺雅人
監督:沖田修一
出演者:堺雅人ほか
配給:東京テアトル
(C)2009『南極料理人』製作委員会

監督:ポン・ジュノ
出演者:キム・ヘジャほか
配給:ビターズ・エンド
配給:(C)2009 CJ ENTERTAINMENT INC. & BARUNSON CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED