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ORICON NEWS
第25回 東京国際映画祭 特集
TIFF応援団・斎藤工が語る、映画祭の楽しみ方
若い目線で映画や映画祭の魅力を発信することがテーマの「TIFF応援団」。
今年度の応援団には、次世代の映画界を担う俳優の代表として斎藤工の参加が決定!!
雑誌、エッセイなど各所でディープな映画知識を披露している彼が、映画祭の魅力をORICON STYLE読者に向けて純粋な映画愛たっぷりに語ってくれました。
お祭り感覚で、みんなで盛り上げていくTIFFにしたい
それは、僕が聞きたいくらい(笑)。大変ありがたいです。話をいただいた頃に、「富川国際ファンタスティック映画祭」に行っていたんです。そこで印象的だったのは、ボランティアスタッフとか地域の若者たちが映画祭を盛り上げている事。映画に携わる仕事を志している人じゃなくても、空港で映画祭関係者やゲストを出迎えたりしていました。
――斎藤さん自身も、地域の人々との交流があったのですか?
廣木隆一監督や井口昇監督とかと一緒に、チヂミの美味しいお店に飲みに行った時、奥でボランティアスタッフの車両スタッフが飲んでいたんですよ。彼らの方も「映画祭で来ている日本の役者だ、一緒にマッコリ飲もうぜ」みたいな感覚で、全然言葉が分からなくてもコミュニケーションできたんです。地域の人たちがスタッフの面倒をみるんです。で、ボランティアの若い子たちが一生懸命頑張るというような美しい組織図が出来上がっている。TIFFにもああいう感覚がもっとあれば、毎年恒例の夏祭りを楽しむように「そろそろ映画祭の時期だな」ってみんなが盛り上がれるんじゃないかな。
なので、今回TIFFに学生がたくさん参加しているのは、大正解だと思っていて。文化祭のノリというか、準備する側も行く側もすごくワクワクしているんですよね。その感情が映画祭の一番重要なエッセンスだと思うので、映画業界の方たち向けというよりは、一般の立場の人間のモチベーションで盛り上げていく感覚で。TIFF応援団として、海外の映画祭で感じたことを還元出来たらなとすごく思っていました。
――では、TIFFでの斎藤さんの「交流」エピソードを教えてください。
まだ役者としては行ったことがないんですけど、過去にはワールドプレミア作品を観に行きましたね。ブラッド・ピットとかハリウッドスターと日本の役者さんを遠目に見る事が出来たのが思い出かな。
でも、TIFFの歴史をさかのぼると、こんなに格式のある映画祭なんだという事を、僕みたいな映画好きな人間でも再確認させられます。そんな日本の誇らしいイベントだという意識を、映画にかかわる人間だけじゃなくて多くの方に感じてもらいたいですね。
感情を共有する劇場体験を、味わってほしい
この映画祭のおもしろいところは、海外の人たちが非常に意識している事。楽しみにしている映画人が世界中にたくさんいるんです。というのも、TIFFでしか流れない映画っていうのがたくさんあるんですよ。DVDスルー(映画館で公開されないでDVD発売される映画の事)が多くある日本の狭き門で、観るべき映画を劇場でかけるという映画祭は、もっともっと日本人がそこに価値を感じて盛り上げていくべきだと思います。
――TIFF応援団という立場から、その“盛り上げ”に貢献できることもたくさんありそうですね。
海外ではチケットが安かったりするからもっともっと映画が大衆的で、本当に気軽に行って、しゃべりながら、歓声あげながら観たりするんです。そもそも、映画ってそういうものだと思う。映画祭も、そういう庶民性や地域性が重要なんじゃないかな。地域のお祭りというか、商店街のおじちゃんやおばちゃんと神輿を担ぐみたいな。
でも、取り上げられる映画祭のイメージがレッドカーペットとかでドレスアップしたスターたちということで、それにまつわるお祭りってどうしても堅いイメージになっちゃいますよね。だから今回のゲストや応援団、スタッフたちだったり、きっかけをつくる人たちが何か催しをしたりすることが実は大事なんだという気がするんです。
なので、TIFF応援団をはじめ、学生たちがすごく頑張って盛り上げてくれているんですけれど、その子たちの声こそ大切にしたいと思います。僕や前田敦子さんは現場の人間なので、どこかで仕事という意識があるんですよね。どう見られているのかというのを意識しないといけない。その点で、学生の生の声というのは実は本当にリアルなんですよね。彼らを巻き込んで一緒に何かしていきたいなというのがあります。
――映画祭で映画を観る醍醐味って、何だと思いますか?
最近は自宅での視聴環境が良くなっていると思うんですけれど、それをあえて見知らぬ人と共有する空間で観るというのが、実は映画の最大のポイントなんですよね。
昔、ユーロスペースという映画館でメキシコ映画祭を観ていた時に、ずっと同じプログラムを観てまわっているおじちゃんがいたんです。後半、トイレとかで会うと身内のような親近感があって。会話もないんですけれど、仲間のような意識が生まれたりしました(笑)。
誰かと感情を共有するというか。笑うポイントも人それぞれあるし、一切笑えなかった人というのもあって、それはそれでいいんです。ひとりでモニターとにらめっこしながら見ているよりも、隣の席の人の感情が皮膚で伝わってきて。“となりにお客さんがいる”という感覚をTIFFでも味わえたらいいですよね。
今、映画に求められているものは「リアリティ」
例えば、昨年のコンペティションで東京サクラグランプリだった『最強のふたり』が今年日本でも公開されてヒットしていますが、この人気の拡がり方って、これからの時代の映画のあり方のような気がするんですよね。日本でみんなが知っているスターが出てくるわけじゃなくて、でも本当に作品として娯楽性も高くて、すばらしい映画。それを観た人が良いって言って、それがクチコミで広まって、多くの人が劇場に足を運んでいる。これがリアルなんですよね。いいものは、いいという。
あと、映画って不思議なジンクスがあって。厳しい時代であればあるほど、映画にメッセージがこもっていておもしろいんです。例えば日本の70年代って、映画の本数も少なかったし、映画業界的には一番下火だったと思うんですよ。その時に、下から上に突き上げるつもりでつくった映画たちというのが、ものすごいエネルギーを含んでいました。余裕のある中で方程式にのせてつくられた映画より、そういう遺言のような映画というのは生涯残るんです。
なので、今の日本は、実はチャンスなんですよね。震災前と変わっていないような生活をしようと皆が心掛けてはいるんですけれど、実は全然そんなことはなくて。園子温作品が今デートムービーになっているというのも、これが90年代だったらもっとインディーズに追いやられていると思うし、そうじゃない時代ということをみんな感じているんです。今はメディアが増えているから、いい意味で本当にみんなが知ることができるんですよね。その中で映画に問われていることも、リアリティなんです。映画のあり方というのが、本当に娯楽性の高いものか、リアリティを追及したものなのか、対極にあるもので。中間にあるものが響かなくなってきているのかなって感じています。
そういう見方で見ると今回のラインナップって、本当に娯楽性が高いものもたくさんあるんですけれど、それ以上に社会派が多いんですよね。コンペなんか特にそう。インドネシアだったり、トルコだったり、インド、イタリアといういろんな国のリアルを集めている映画祭になっているんです。そういうものを肌で感じにいく映画祭になったらいいな。
映画祭のカラーを味わえる作品をまずは一本観てほしい。だまされたと思って(笑)
アジアの風部門、ある視点部門、natural TIFF。この3つの部門というのは世界の映画祭の中でもTIFF独特のものなんです。ここには、なかなか初見でいけないと思うんですよね。でも、スタンプラリーと一緒で、この映画祭のカラーが見られるものを一本観て貰えると、これを機に「じゃあ、次はこれを観てみよう」と習慣になると思うんです。一気に風呂敷を広げられると選択肢が多すぎるので実は不自由なんですよね。その点では、プログラムコーディネータが厳選した作品を見られるTIFFはすごいチャンス。まずは一本、
だまされたと思って、映画祭で映画を観るという体験をしてほしい。
――最後に、斎藤さんイチオシの作品を教えてください。
『フラッシュバックメモリーズ3D』。これはちょっと驚愕ですね。観たことない映画だと思います、誰しもが。交通事故に遭って記憶を失くされたGOMAさんというディジュリドゥ奏者のドキュメントです。ディジュリドゥっていう楽器は僕もちょっとやってみた事があるんですけれど、簡単に吹けないんですよ。それが、記憶がなくても身体が覚えているんですよね。
記憶を全部失って、でも奥さんがいて娘さんがいて。その中でこれからの人生をどう生きていこうか、という事を、日記の文字や写真と、本人の演奏だけで表現していて、ライブをみたような感覚になるんです。彼の記憶のつなぎかたというか、未来の自分に対して今の自分がどう全力で生きているか、ということを記録している。もちろん字幕も海外の人は必要だと思うんですけれど、それ以上に彼の感情が入ってくるライブ映像なんです。そこにひとりの過去と未来と今が凝縮されているすさまじい映画です。
しかも、この映画は震災をまたいでいて、彼が今の時代に、被災地に何が出来るかという以上に、個人レベルで自分がどう強く立ち上がるか、地盤を固めるかということのほうが、実は観客には勇気を与えることなんですよね。それを3Dで撮っている松江哲明監督が誇らしいんです。今年のコンペティションのラインナップの中で、邦画としてこれを出したという事が誇らしい。これはね、本当にヤバいですね。絶対に劇場に観に行かないと。僕も多分観に行くので。まずは、これを体感してほしいですね。
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開催概要
第25回東京国際映画祭
期間:2012年10月20日(土)〜10月28日(日) 9日間
会場:六本木ヒルズ(港区)をメイン会場に、都内の各施設
【主な上映作品一覧】
『コンペティション』(17作品)
『特別招待作品』(22作品)
『アジアの風』26作品(アジア中東パノラマ:17作品)
『日本映画・ある視点』(10作品)
『WORLD CINEMA』(12作品)
『natural TIFF』(8作品)
★東京国際映画祭 公式HP★
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関連リンク
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