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Check 2010年12月08日
数多くの映画やドラマに出演し、その圧倒的な演技力で多くの人を魅了する俳優・松山ケンイチ。彼が新たに演じるのは、日本人はもとより世界中から愛されている村上春樹の小説『ノルウェイの森』の主人公ワタナベだ。この映画について、松山は滅多に口にしない“完璧”という言葉を使った。ワタナベという青年を通して見えてきた松山ケンイチの愛と生と品とは一体どんなものだったのか──。

ワタナベを演じることで気づいた

松山ケンイチ
松山ケンイチ

── 原作は日本の国内小説累計発行部数歴代1位の記録を更新し続け、さらに36言語に翻訳され世界中で読まれている小説ですが、脚本・原作を読んだときにどんなことを感じましたか?
【松山】 原作がものすごく有名なものであることは知っていました。オーディションを受けるときに初めて読みましたが、生々しい性描写という印象が強くて、小説の大切な部分を読み取ることができなかったんです……。でも、ワタナベを演じるということは、ワタナベの経験を(自分が)追体験することになるわけで。たとえば直子を失ったときのレイコさんとのセックスの意味は、原作を読んだときは全く理解できなかった。けれど、芝居をしていくうちに、2人が直子の死を受け入れて生きていくために必要だったんだと気づいた。それと同時に原作の持つテーマの深さにも気づいたんです。愛と生と死は普遍的なもの。それを扱った作品だからこそ世界中の人に支持されているんだなと。
── そんなふうに2人を同時に愛してしまうというワタナベの心理は、個人的には理解できますか?
【松山】 僕個人としては2人を同時に愛することはないですね。ただ、複雑ではあるけれど、筋道としては納得のいくものだと思っていて──直子はワタナベと同じ傷(キズキの死)を持っている相手なので、直子が死に引っぱられていることはワタナベも分かっている。それをどうにか生の方に方向転換して、一緒に支え合って生きていきたいと思っているんです。でも方法が見つからない。その具体的な方法=生きる喜びを持っているのが緑なんです。彼女も傷ついてはいるけれど、緑は傷を乗り越えているというか……。緑のようになって直子を救いたい、そして自分も救われたいと思っているから、ワタナベは2人を同時に愛してしまうんです。

僕にとっての愛のかたち

松山ケンイチ
松山ケンイチ

── ワタナベの口調についてですが、松山さんが常に気を付けていたのはどんな点ですか?脚本に書かれていたセリフを、村上春樹さんの原作のテイストに戻したいと自ら提案したそうですね。
【松山】 原作は話し言葉ではないので、そのテイストで演じることは確かに難しいんです。けれど、その口調がワタナベの特徴であると捉えていたし、時代性を映し出していると思いました。崩してしまうとかなり今っぽくなって違うものになってしまう気がしたんですよね。緑のセリフにある「私、あなたの喋り方すごく好きよ」っていう、そのワタナベらしさを、どうしても表現したくて。
── らしさといえば、生々しくなりがちなセックスシーンをあれだけ美しく描き出すのもトラン・アン・ユン監督らしさですよね。「官能性をはらんだ豊潤な映像美に定評がある監督」と言われるゆえんが伝わってくるシーンのひとつでした。
【松山】 本当に素晴らしいシーンですよね。撮り方自体は変わっていて──ふつう小説の『ノルウェイの森』のベッドシーンを描くとしたら、全身を映すと思うんです。でも、トラン監督はあえてバストアップにしている。その理由はキャラクターの心を表現したかったから。ああいう濡れ場は身体(裸体)を見せてドキドキさせることはできても、心情を伝えることは難しい。だからバストアップで描いている。大正解だと思います。
── 確かにキャラクターの内面が感じ取れるシーンでした。あらゆるシーンにこだわりがあり、そのすべてが小説から飛び出した映像のようでした。
【松山】 そうなんです。僕がこの映画が完璧だと思ったのは、品性がある映画だから。下劣でもない、生々しくもない、ものすごく綺麗なものを見ている感覚のある本当に美しい映画だなと。でも、実は脚本を読んでも撮影をしていても、最終的にどういう作品になるのかは分からなくて。完璧だと気づいたのは完成した作品を観たときなんです。監督が意図する品性を実感しました。そういう品性を感じたのも初めてのことでしたね。あと、今の自分にとって愛とは何かという問いにも答えが出ました。愛とは忘れないこと。「ありがとう」「ただいま」「おかえり」とか、そういうこと(気持ち)を忘れないことが今の僕にとっての愛のかたちだと気づいたんです。

(文:新谷里映/撮り下ろし写真:逢坂 聡)

松山ケンイチ
1985年3月5日生まれ。青森県出身。
2001年、HORIPRO×Boon×PARCOの共同企画『New Style Audition』でグランプリ受賞。2003年、『アカルイミライ』で映画デビュー。『男たちの大和/YAMATO』(2005年)で日本アカデミー賞新人俳優賞、『DEATH NOTE 前編』で優秀助演男優賞など数々の映画賞を受賞。『DEATH NOTE 前・後編』(2006年)のL役で大ブレイクする。その後、『L change the WorLd』『人のセックスを笑うな』『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)など多くの話題作に主演。2010年は、『ノルウェイの森』『誰かが私にキスをした』などに出演。2011年は、『GANTZ』『マイ・バック・ページ』『うさぎドロップ』『僕達急行 A列車で行こう』などが公開予定。

【ストーリー】
高校時代の唯一の親友キズキを突然の自殺で喪ったワタナベは、新しい生活を求め東京の大学に行くが、あるときキズキの恋人だった直子と偶然再会する。同じ悲しみを背負った2人は、大切なものを喪った者同士付き合いを深めていく。しかし付き合いを深めるほど、次第に直子のもつ喪失感は深くなり、20才になった直子は京都の療養所に入院することになる。そんな折にワタナベは大学で、春を迎えて世界に飛び出したばかりの小動物のように瑞々しい女の子・緑と出会う――。

監督:トラン・アン・ユン
出演:松山ケンイチ 菊地凛子 水原希子
2010年12月11日(土)全国公開
(C)2010「ノルウェイの森」 村上春樹/アスミック・エース、フジテレビジョン

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