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第2回 見聞したこの事実を見過ごせるのか

堤幸彦
日本の気候風土に適した高床式のHOUSE。屋内には必要にして十分な生活必需品を備える。

堤幸彦
独特の勤勉な“手法”で空き缶を大量ゲット。都会という密林で糧を自在に得る。

 映画『MY HOUSE』への重い想いを書かねばならない。
 都市の死角から“真理”を拾い、世に問いかける行動をする現代のアジテーター・坂口恭平氏の雑誌原稿に触発されたのが2007年2月。即、今回のストーリーが浮かび、盟友の劇作家・佃典彦氏、プロデューサーの神氏とともに、隅田川のエジソンこと鈴木さんのブルーシートの“お宅”に連れて行ってもらう。

 オール電化され日本の気候風土に適した高床式のHOUSEの無駄のない様式美と、行政との関係で年に数回の解体撤収再生の儀式にも耐え得る再現性に驚く。ご主人の数少ない言葉のなかにも都市を生き抜く知恵、強さ、アイディアが聞き取れ、縦長に狭いHOUSEのなかに必要にして十分な生活必需品(リアルな意味の!)が清潔かつ整理整頓されていた。聞けば毎日きちんとしたタイムスケジュールで暮らし、風呂屋、コインランドリーにも頻繁に通う。もちろん3食確実に食べ、シエスタ(日中の暑い時間帯の昼寝)、晩酌も存在。たまに“近隣の仲間”とのカラオケですら……。

 競争相手が無数に存在するなか、空き缶を独特の勤勉な“手法”で大量ゲットし、月数万円の収入を得る。まさに都会という密林で糧を自在に得る現代の狩猟生活者!

 重要な事は彼が意思としてその“職業”を続けている事だ。誰にも束縛、強制されない本来の自由を獲得している事だ。もちろんその自由は相当なリスクを伴う。直接的暴力や病気の恐怖、自然災害、権力との攻防……。しかし意思や幸福度がそのリスクを上回っているからこそ、その“職業”で生計を得、維持しているのだ。生活の被害者意識にまみれた我々と比してなんと割り切った人生か。

 日々、自分の『家』を守る為に莫大な労力と金銭を費やし、それが当たり前と思っている我々のすぐ横で、全く異なる住居生活システムを構築し、0円で生き抜いてる人がいる。その強さは我々の暮らしへのアンチテーゼであり、先行き不透明な時代への生きたメッセージである。

 もちろん賞賛される暮らし向きでもなく、事実否応なくホームレスを強いられている、そうならざるを得ない人々だらけと聞く。私が訪ねたご主人は例外的かもしれないが、しかし見聞したこの事実を見過ごせるのか。映像表現という生活手段を得ている私がパスできるのか。死ぬ瞬間「ああ、やっておけばよかったなあ」と後悔しないか。そんな訳でどうしても作品にして世に問いたいと強く決意したのであった。

プロフィール

堤幸彦 1955年11月3日生まれ。愛知県出身。
1988年、故・森田芳光プロデュースのオムニバス映画『バカヤロー! 私、怒ってます』内『英語がなんだ』で映画監督デビュー。ニューヨークで撮ったオノ・ヨーコ主演の『ホームレス』(1991年)、『さよならニッポン! GOODBYE JAPAN』(1995年)などの映画のほか、テレビドラマやミュージックビデオ、ライブ映像、舞台の演出と幅広く活躍。『金田一少年の事件簿』『ケイゾク』『トリック』などの斬新な演出はその後のテレビドラマに大きな影響を与えた。主な監督作は『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』(2000年)『トリック劇場版』(2002年)『恋愛冩眞』(2003年)『明日の記憶』(2006年)『自虐の詩』(2007年)『20世紀少年』3部作(2008〜2009年)『まぼろしの邪馬台国』(2008年)『BECK』(2010年)『はやぶさ/HAYABUSA』(2011年)『劇場版 SPEC〜天〜』(2012年)など。

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作品情報

MY HOUSE

MY HOUSE 構想から5年を経て、堤幸彦監督が自ら企画から手がけた意欲作を世に送り出す。実在の人物をモデルにした主人公の生活を通して見つける、物にあふれた暮らしのなかで“本当に必要なもの”とは……。

ストーリー:
可動式の家。アルミ缶の換金。社会の枠組みを軽やかに超えていく人々がいる。とある都会の片隅に、見たこともない「家」が建っていた。それは鈴本さん(いとうたかお)とパートナー・スミちゃん(石田えり)が作った組み立て式の、どこへでも自由に移動できる画期的な「家」。鈴本さんはほぼ0円で生活を賄っている。都会に捨てられたアルミ缶を拾い集め換金、不要になったクルマのバッテリーを使って狭いながらもオール電化。目からウロコのアイディアを駆使することで、質素ではあるがそこそこ快適に暮らしていた。都会に生きる自由で不自由な存在。その一方で、エリートコースを目指す中学生・ショータ(村田 勘)がいた。人嫌いで潔癖症の主婦・トモコ(木村多江)がいた。決して交わるはずのなかった彼らの暮らしが、ある事件をきっかけに交錯していく──。

監督:堤幸彦
出演:いとうたかお 石田えり 村田 勘 板尾創路 木村多江

2012年5月26日(土)より新宿バルト9他全国ロードショー
(C)2011「MY HOUSE」製作委員会

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