定額制音楽配信サービスの認知度は7割 最新モニター調査実施
音楽配信売上実績ではサブスクのシェアは55%に
海外に比べると成長スピードが鈍いと言われてきた日本国内のサブスクリプションサービスではあるが、着実に市場を広げているのは上記した資料を見ても明らかだ。そこでオリコン・リサーチでは、改めて国内におけるサブスクリプションサービスに関する調査を実施。このほど「定額制音楽配信サービス利用者実態調査」として分析結果をまとめた。
ここではこの調査結果のサマリーを基に、改めて同市場の現況を整理するとともに、今後の課題点などを分析してみたい。
「サブスクリプションサービス利用動向調査」調査結果サマリー
音楽サブスクリプションサービスを「知っている」と答えたのは73.6%と7割を超えたものの、それら認知者に利用経験を尋ねたところ、過去に利用していた人を含めても3割を切る結果となった。大手サービスはここ数年、積極的にTVスポットを打つなど、マーケティング施策を強化しており、それらも奏功し、認知は獲得できていることが窺えたものの、利用にまで至っていない状況も浮き彫りとなり、いまだサービス自体の魅力を訴求できていないこともわかってきた。
利用シーンを見ると、TOP3は「自分の部屋でひとりで」(49.5%)、「通勤・通学などの移動時」(42.0%)、「仕事中・勉強中・家事の最中」(32.0%)という結果に。これを男女で見比べると、男性は「自分の部屋」が最も多く5割超え(53.6%)。女性も「自分の部屋」(43.1%)が最も多い点は変わらないが、それと同様の割合で「仕事中」(41.7%)や「通勤・通学」(39.7%)でも多用されている。「入浴中」「運動(スポーツ)している時」「出かける準備の最中」など、その他の項目を見ても、全体的に女性のほうが、利用シーンが広範囲にわたっている様子が見て取れる。
利用時間は、約4割となる「毎日1〜3時間」(39.3%)が最多、次いで「2〜3日に1度」(22.2%)、「1週間に1度」(16.2%)と続いた。利用時間に差はあれど、サービスを毎日利用している人の割合は、全体の約半数(48.0%)を占めている。男女別でも特に大きな違いは見られなかったが、世代別にまで目を向けると、男女ともに10〜30代の利用頻度が高く、40代は低めだった。
今回の調査では、すでに利用を辞めたユーザーの声も聞いた。利用期間は「1〜3ヶ月」(65.9%)が最も多く、「4ヶ月〜半年」(18.9%)も含めると8割以上が半年以内で離脱してしまっていた。辞めた理由のTOP3は、「好きなアーティストの楽曲が少なかった」「コストパフォーマンスが悪かった」「毎回パケット通信料がかかった」。あまり「使わなかった」ことを挙げる人も2割以上おり、サービス利用を習慣化させるまでの“音楽体験”を提供できていないという課題も見えてきた。今後は楽曲のレコメンドはもちろん、より良い利用を促すナビゲーションの工夫も必要と言えそうだ。
定額制音楽配信サービスの登場は、音楽ファンの視聴スタイルにどのような変化を及ぼしているのだろうか? サービス利用者に、利用前後で、よく利用する音楽サービスについて尋ねると、定額制サービスの利便性の高さなどから「CD購入」「CDレンタル」が大きく減少し、変わりに「定額制」へとシフト。また、「コンサート・ライブ・イベント」が数字を伸ばしており、音楽にかける金額の“優先順位”に変化が表れている。
今回の調査結果を有識者はどう読むか?
1つ目は「利用者の現状とマーケティングのギャップ」だ。現在、主要なサブスクリプションサービスのマーケティングは、CMなどを見ても明らかなように、10代や20代といった若者向けになっている。ここにギャップがあるのではないか、と鈴木氏は語る。
「今回の調査結果を見ると、30代〜50代の興味関心が高い。日本の人口構成比から見ても当然と言えば当然なのですが、実際、興味関心の高い層にキチンとリーチできているのか。現状のマーケティングを見ていると若干、ギャップがあるようにも感じていましたが、今回の結果からも同様のことが示唆されたように感じます。現在の若年層というターゲティングで良いのかを再考する価値もありそうです」(鈴木氏)
もう1点が「コストパフォーマンスと日本版バリューギャップ」について。現在、世界的にもサブスクリプションサービスでは、広告モデルの無料型サービスと、定額制の有料サービスとの著しいロイヤリティの格差(=バリューギャップ)が問題視されている。ただし、鈴木氏は「世界規模で指摘されている問題とは別に、日本国内にはもう1つ、“日本版バリューギャップ問題”もある」と指摘する。
「海外では、アルバム1枚分を基準として月額利用料を設定しています。その一方で日本ではアルバム1枚が3000円なのに対して、多くのサービスが月額1000円以下です。ここに海外とのギャップが生まれており、当然、アーティストやレーベルへの還元という点でも差が生じています」(鈴木氏)
この利用料の差については普及フェーズにある現段階から検討していく必要があるだろう。
「現在はサービス自体を普及させていくフェーズにありますから、コストパフォーマンスを重視していくというのも重要な戦略の1つです。ですが、先日、Netflixが値上げを発表したように、数年後には1500円前後まで値上げしていく、ということも現段階から検討していくことも必要だと思います」(鈴木氏)
そこで重要となるのが、いかにして“違法アプリ”を撲滅できるか、だ。
「今回の調査はとても参考になりましたが、違法アプリの動向も同時に調査する必要があるように思いました。サブスクリプションサービスにおいての“敵”はYouTubeではなく、違法アプリです。App Storeなどでは随時削除されますが、それもイタチごっこの状態です。これらの違法アプリが音楽業界に与えているインパクトをキチンと調査し、そのうえで、こうした違法アプリを使わないように啓発していくことが重要。コストパフォーマンスへの意識について、大きな影響を与えているのはやはり違法アプリの存在です。現状のサブスクサービスと違法アプリの利用動向についても比較・分析しながら、対策を検討すべきかと思います」(鈴木氏)
今回の調査からは、現在もっとも定額制音楽配信サービスを利用している層は、配信されていない楽曲をCDやダウンロードでの購入、CDレンタル、YouTube等の利用で補完していることも分かった。ただし、正規のサービス間でうまく移行や補完関係が構築できたとしてもやはり問題は違法アプリの存在。これについては音楽業界全体でさらに対策を議論していく必要があるだろう。