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大根仁監督、観客視点へのこだわり「軋みが出ている既存フォーマットを壊したい」

現在放送中の連続ドラマ『ハロー張りネズミ』のほか、映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』が間もなく公開になる大根仁監督。メジャー大作からインディーズ映画、深夜ドラマからゴールデン枠の連続ドラマまで、規模の大小を問わず幅広いジャンルで活躍する大根監督に、映像ディレクターとしてのクリエイティブや現在のメディアの課題について聞いた。

プロデューサー的に全体のクリエイティブを管理

――『奥田民生になりたいボーイ〜』の全国規模公開の実写化には驚きました。なぜこの漫画を映画化しようと考えたのでしょうか。
大根仁原作者のチョックン(渋谷直角)のことは以前から知っていたのですが、『週刊SPA!』でこの漫画の連載が始まったときに、ストーリー漫画になっているなと感じました。映像化するなら自分が一番向いていると思っていたので、担当編集者に「映像化の話がきたら教えて」と伝えていたんです。その後、単行本化された際に、妻夫木(聡)くんが興味を持っているという話を聞いて、彼がやりたいというのならば、そこそこ大きな映画になるかもしれないと考えて、東宝の山内(章弘)プロデューサーに話を持っていったんです。そうしたら「おもしろい」となり、企画がスタートしました。

――実写化まではスムーズにいったのでしょうか?
大根仁映像化するにあたって3つクリアしなければいけないことがあると思って臨みました。1つ目はボーイを誰にするか、2つ目はガール、そして3つ目は奥田民生の楽曲の使用許可。民生さんの曲に関しては、彼の所属事務所の当時の社長に話をしたときにいけそうな感触があったんです。ボーイに関しては妻夫木くんが乗り気でした。そしてガールは、直感的にこの役は水原希子ちゃんしかいないと思っていたので、最初から一本釣りでした。ありがたいことに快諾していただいて、そこから一気に進んでいきました。

――大根さんは監督でありながら、企画のほかキャスティングなど常にプロデューサー的な立場で作品に参加している印象があります。
大根仁おそらく、長年深夜ドラマをやっているからかもしれませんね。深夜ドラマがプロデューサー不在というわけではありませんが、比較的作品全体のクリエイティブ管理を考えながらやっていたので。あとは「大根は全部自分でやりたいんだろう」と思われているんじゃないですか(笑)。プロデューサーの立場からすると、主題歌まで決めてくるんだから、仕事が楽だと思いますけど(笑)。
――昨今の分業制が主流になっているなかでは、珍しいタイプでは?
大根仁分業には分業の良さがあります。とくにテレビドラマは完全な分業スタイルですよね。長年培ってきたスタイルだけであって、よくできていると思いますが、自分はあまり合議制には向いていないんです。もともとバラエティやクイズ番組などもやっていましたが、とにかく会議が多くて、それが苦手でした。だからスタッフが少なく、2〜3人の打ち合わせで進む深夜ドラマを多く手がけていったのかもしれません。

――でも、映画は業界最大手の東宝とタッグを組んでの大作3本目です。
大根仁東宝は最大手だから、バビロン的なイメージを持つ人が多いかもしれませんが、まったくそんなことはないんです。幅が広いというか懐が深い。だからこそ、映画シーンにおける今のポジションを確立しているんじゃないですかね。なによりプロデューサーとの共通言語が多いので、作品の最終形がイメージしやすい。クリエイティブの仕事は、どうしても建前だけでは進まない。そうなると、話がしっかりできる人とじゃないと難しくなります。東宝にはそういう人がそろっている印象です。東宝でいつまで大作を撮り続けられるか、という自分のなかのプレイがあります(笑)。僕はインディーズか東宝でしか映画を撮っていないんですが、そこは楽しんでいます。

常に意識しているのは観る側としての視点

――テレビドラマと映画の演出や脚本の違いはどう意識されていますか?
大根仁媒体によって観る側の特性も尺も違うので、当然そこは考えます。言葉で説明するのは難しいのですが、常に意識しているのは、作り手ではなく観る側としての視点です。映画なら、客席で観ている自分を意識して脚本を書きますし、深夜ドラマなら、家に帰ってテレビをつけてソファーに横になってビールを飲みながら観ている自分を想像します。観る側のシチュエーションによって、ストーリー展開や演出などは変わってきますから。その意味で『ハロー張りネズミ』は難しかったです。今の時代、ゴールデンの時間帯にドラマを観ている人の感覚って、イメージしづらいから。

――では、『ハロー張りネズミ』はどんな部分を意識して臨まれました?
大根仁せっかくゴールデンの連ドラをやるのだったら、普通の連ドラと同じことをしても意味がないという思いは強かったんです。現在のテレビを取り巻く環境のことを悪く言うつもりはないですし、テレビ離れなんて言葉も使いたくないですが、現実として、間違いなく昔と今では視聴者のライフスタイルは大きく変わっています。若い世代ではテレビを持ってない人もいるし、テレビというフォーマットに多少の軋みが出てきていることは否めない。そこを崩したいという気持ちがありました。
  • TBS系連続ドラマ『ハロー張りネズミ』(C)TBS

    TBS系連続ドラマ『ハロー張りネズミ』(C)TBS

――フォーマットを崩すとは、具体的にはどういうことでしょうか?
大根仁たとえば、連ドラのワンクールというフォーマットを観続けることが、今の若い世代には合っていないように感じるんです。そのなかでできることのひとつとして、エピソードごとに毎回まったく違うジャンルの話を展開していく。もちろんドラマ設定やキャラクターはそのままですが、こうしたやり方によって変化が生じるかもしれません。これがすぐに結果に結びつくとは思っていませんが、既存のフォーマットを壊していきたいという意識はあります。

――映画、ドラマともに数字という部分への意識はありますか?
大根仁当然あります。映画はテレビと違って成果がわかりやいビジネスなので、明確な数字は設定していませんが、ある程度のラインまでの責任を常に背負っています。テレビに関しては、視聴率が指標になっていますが、今はタイムシフトやネット配信など視聴形態も複雑でなかなか評価が難しい。とは言いつつ、テレビの仕事をするうえで、視聴率から逃げることはできません。

――現状の『ハロー張りネズミ』の数字に関してはどう捉えていますか?
大根仁もちろん数字の推移はしっかり見ていて、番組の入りで落ちるならアタマを工夫しなければいけないとか、CMに入るポイントも考えて、0.1パーセントでも上がるように意識します。4話目までは落ち続けましたが、5話以降戻ってきています(7話で平均視聴率8.1%)。先ほども話しましたが、2話ごとのエピソードで話がガラリと変わるなど、既存フォーマットに沿わない、いろいろな仕掛けをしているので、この先どうなるか楽しみにしていてください。「バカじゃない!」って思われるようなこともやっているので(笑)。

優秀な監督ではないが優秀な視聴者であり観客

――漫画など原作のある作品を映像化するうえで、外せない要素やこだわりはありますか?
大根仁僕は自分を優秀な監督だとは思っていませんが、優秀な視聴者であり観客だと思っています。テレビも映画も大好きなので。視聴者として自分が映像作品で観たいという思いが一番の動機です。それに加えて、原作の持つチャームポイントを見つけ、それが現代でヒットするか、いま作る意味があるか、という部分は常に考えています。こだわりは、これも観客視点なのですが「なんでこんな作品を映像化したんだ」と感じる映画ってあるじゃないですか。「誰か気づけよ」と世間から言われたり。僕はなるべく気づくようにしています。たとえば、キャスティングでダメなら企画を途中でたたむ勇気も必要です。いろいろなしがらみはありますが、妥協してダラダラ進めてつまらない映画ができるのだったら止めたほうがいい。誰も得しないですからね。過去にキャスティングでたたんだ企画はあります。

――昨今の映画界を取り巻く環境について思うことはありますか?
大根仁監督としてはおもしろい作品を作ることだけですが、観客としての視点で言えば、シネコンの在り方かな。経済活動だからやむを得ないのですが、人気作品ばかりいくつものスクリーンで上映して、良質な洋画などがすぐ終わってしまったりする。映画館って、映画を上映するだけの場ではなく、観客を育てる役割もある。今の状況は、自分たちの首を絞めてしまう結果になりかねないと感じています。
(文:磯部正和)

※視聴率は関東地区、ビデオリサーチ調べ

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール

 奥田民生を崇拝する33歳、コーロキ。おしゃれライフスタイル雑誌編集部に異動になったコーロキは、慣れない高度な会話に四苦八苦しながらも次第におしゃれピープルになじみ奥田民生みたいな編集者になると決意する。
 そんなとき、仕事で出会ったファッションプレスの美女天海あかりにひとめぼれ。その出会いがコーロキにとって地獄の始まりとなるのだった……。あかりに釣り合う男になろうと仕事に力を入れ、嫌われないようにデートにも必死になるが常に空回り。あかりの自由奔放な言動にいつも振り回され、いつしか身も心もズタボロに……。
 コーロキはいつになったら奥田民生みたいな「力まないカッコいい大人」になれるのか!?そしてもがく先にあかりとの未来はあるのか!?

監督・脚本:大根仁
キャスト:妻夫木聡 水原希子/新井浩文 安藤サクラ 江口のりこ 天海祐希 リリー・フランキー 松尾スズキ
2017年9月16日全国公開 【公式サイト】(外部サイト)
(C)2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会

提供元: コンフィデンス

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