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シーズンを重ね進化、本質に迫る「コード・ブルー」の医療監修

「コード・ブルー」医療監修 松本尚氏(日本医科大学救急医学 教授)

「コード・ブルー」医療監修 松本尚氏(日本医科大学救急医学 教授)

 7年ぶりの新作となる月9ドラマ『コード・ブルー〜ドクターヘリ緊急救命〜THE THIRD SEASON』(フジテレビ系)が好調に推移している。前作からのブランクをものともせず、視聴率は初回16.3%を獲得し、以降も平均2ケタ半ばをキープ。オリコンの週刊エンタテインメントビジネス誌『コンフィデンス』の視聴者満足度調査「ドラマバリュー」でも90点台という圧倒的な支持を得ている。新たな局面を迎えた主人公らの人間ドラマはもちろんだが、やはり注目は日本で唯一ドクターヘリを題材とした医療シーン。1stシーズンから監修を務めているのは、国内のフライトドクターの第一人者である日本医科大学救急医学教授の松本尚氏だ。同氏に、医療監修の成り立ちをはじめ、シーズンを重ねるごとに“進化”してきたという「コード・ブルー」ならではの監修方法について伺った。

医療監修は大きく分けて2種類「脚本」と「現場」での作業がある

――そもそも、医療監修とは、どのようなことをしているのでしょうか?
松本尚 医療監修は大きく分けて2つあります。1つは脚本に対しての監修。もう1つは、現場で役者さんのお芝居や手術室の美術セットなどについて、現実的なアレンジを施す仕事です。脚本の監修は、脚本がまだ形になっていない段階から、お話に見合うケガや病気、治療法を提案しながらともにストーリーを作っていきます。

――松本先生は、「コード・ブルー」の脚本では具体的にどのように関わっているのですか?
松本 08年に放送された1stシーズンでは、ほぼ出来上がった脚本について監修をしました。そこには主人公の藍沢のセリフとして「ここは××な病気だから、○○の治療をしよう」などと書いてあり、その×や○を埋める作業をするんですね。リアリティを追求していくと、不自然が生じるケースが多かった。例えば、気管挿管といって、喉に管を入れて呼吸のサポートをする治療をするとなると、当然患者さんは話すことができないのですが、そこに話すシーンが想定されていると、すごく大がかりな訂正が必要となってくる。ありえないシチュエーションにOKを出してしまうと、僕が医療監修をする意味がなくなってしまうので、脚本を訂正していかなければならず、それは大変な作業でした。

――例えば、どんな大変なことがあったのでしょうか?
松本 おそらく、医療監修を話す上で最も象徴的なエピソードは、1stシーズンの第5話(※写真1参照)。爆発事故で、患者さんが鉄筋に串刺しになるシーンがあるのですが、プロデューサーさんは、患者さんをキリストのように貼り付けにしたいとおっしゃっていたんです。私が「その患者さんは助けたいの? 助けたくないの?」と尋ねると「助けたい」と。「おしゃべりはできるの? できないの?」と聞くと「しゃべらせたい」と。この場合は、患者さんに家族がいて、藍沢に「写真を家族に渡してくれ」というドラマが物語にあるんですね。私としてもその物語の条件は尊重したい。そこで、その条件に見合うギリギリのラインでの、患者さんの貼り付けにされた角度などを提案し、あのシーンが完成しました。

【写真1】『コード・ブルー〜ドクターヘリ緊急救命〜』(1stシーズン)第5話より、工場解体現場で発生した爆発事故に巻き込まれた作業員・横山役の山崎裕太 (C)フジテレビ

【写真1】『コード・ブルー〜ドクターヘリ緊急救命〜』(1stシーズン)第5話より、工場解体現場で発生した爆発事故に巻き込まれた作業員・横山役の山崎裕太 (C)フジテレビ

――なるほど。では10年の2ndシーズンからは?
松本 かなり初期の段階から、脚本が形になる前のかなり初期の状態から関わらせていただけるようになりました。そして現在の3rdシーズンでは、プロットの段階から、話の条件や大枠をまず聞いておいて、物語の参考になるようなアイデアをびっしりと書き、お伝えする方法で行わせていただいています

――では、もう1つの“現場での医療監修”についても教えてください。
松本 一番、皆さんがイメージしやすいのは、役者さんが手術シーンで、どのように手を動かすか?とか、目線をどこにやるか?という、いわゆる演技指導です。あとは背景だとか美術指導ですね。例えば、監督さんが手術のシーンでできるだけ手元が撮りたいとなった時に、どれぐらい血が出てくるかとか、器械をどこに置けばよいかとか、そういった細かい美術。また患者さんの寝ている時の心電図の数字がどれぐらいだとか。そういった背景の作り込みです。脚本を含め、これらを総称して「医療監修」と我々は捉えています。

――現場にはどれぐらいの頻度で通われているのですか?
松本 私は『救命病棟24時』の3作目で手術の所作の指導をした以外は、ほかの医療ドラマをよく知らないのですが、「コード・ブルー」は美術の作り込みも含めて非常に細かいところまでこだわっているので、全体の8割ぐらい。外を歩いているとか談笑をしているとか、医療が関わらない部分以外は、ほとんど我々がスタジオやロケ現場に足を運んでいます。

“医療シーン”に関して言えば、キャストは「私の弟子のようなもの」

『コード・ブルー〜ドクターヘリ緊急救命〜THE THIRD SEASON』(フジテレビ系)第5話より (C)フジテレビ

『コード・ブルー〜ドクターヘリ緊急救命〜THE THIRD SEASON』(フジテレビ系)第5話より (C)フジテレビ

――俳優さんたちへはどのように演技指導をしているのでしょう。
松本 最初は僕たちがやっていることを、役者さんたちにコピーしてもらいます。その所作で最も注意しているのは、目線や画面に映っていない部分の動きですね。手術シーンでは、例え手元が映っていなくても、胸より上しか映らなくても、腕の動きだけでリアリティが失われることがあります。見る人が見たら何をやっているかがバレバレなんです(笑)。例えば、3rdシーズンの第1話で、事故現場で子どもが山車(だし)に挟まれ、そこで藍沢が穿頭(専用のドリルで頭蓋骨に穴を開ける技術)するのですが、片手で軸を固定して、もう一方の腕でハンドルを回す動きが正解です。山下(智久)くんは、そこをしっかりと演じてくれていました。

――手術シーン以外でもあるのでしょうか?
松本 医者としての信条や心情をお伝えしていますね。3rdシーズンの第2話では、フェローの横峯(新木優子)に、藍沢が治療の判断をさせる物語が描かれました。藍沢は横峯が苦悩しているのを黙って見ている設定なのですが、その時に僕は山下くんに「僕があなたの立場だったら、早く決めろよと思いながらイライラします。ですが、そこで『もういいよ、自分がやるから』と出て行ってしまったら誰も育ちません。そんな場面でどれだけ我慢できるか、これは実際に医者が悩んでいることです」と伝えました。そこで山下くんがどんなお芝居を見せてくれたかというと、フレームの隅に映っている時、腕を組んで、指でトントンと腕を叩いているんですね。その指の動きが、イライラや我慢をよく現しているんです。あのシーンを見た時は嬉しかったな。

――俳優さんが手術シーンを演じているのを見て、医師としての腕がいいなと思った方は(笑)?
松本 皆さんとてもお上手です。例えば、患者さんに気管挿管する時の所作は、医者らしさがとてもよく出るシーンなのでとても難しいんです。この所作については、白石(新垣結衣)さんがとても上手になっていたのが印象的でした。また、手術シーンではありませんが、現場でバタバタと大勢の患者さんを診るシーンでは、特にセリフや動きがなくても“医者らしさ”が映し出される場合があります。そういった時に「僕はこの場面だったら、こんなことを考えているかな」とキャストの皆さんに伝えます。皆さん自分なりに理解されて、リアリティあふれる芝居をしてくれて…。なかでも緋山(戸田恵梨香)さんは、その辺りのお芝居も抜群に上手いですね。
――お芝居以外での、俳優陣との交流はあるのですか?
松本 浅利陽介くんとは1stの頃から仲良くなっていて、彼の舞台を観に行ったり、その後で食事をしたりしました。また俳優陣やスタッフが集まる「コード・ブルー会」にも一度、顔を出したことがありました。彼らは、医療シーンで言えば、私の弟子のようなものだと思っています。

――師弟関係があると。
松本 彼らというより、各々のキャラクターですね。1stの頃に彼らがフェローとして入って来て、今現在の成長に到るまで、その成長を私はずっと見てきているわけですよ。彼らもその私の感覚をなんとなく受け止めて、乗っかって一緒に話してくれるから、それも嬉しいですよね。

――ディティールについて、厳しい指導を受けていますもんね。
松本 ディティールであるとか、フィクションと現実とのさじ加減には相当にこだわっています。僕は同業者から「あのドラマ、変だよね」と言われたくないんです。医者から観ても「リアリティがあるドラマ」だと感じてもらいたい。そういった意味では、「コード・ブルー」というドラマはとても稀有な作品で、俳優さんもスタッフも、新しく入ってくる人はいますが、コアとなる人たちは1stからほぼ同じなんです。お互いに、そのさじ加減のプロフェッショナリズムもわかっている。医療シーンについても、監督さんが僕らにいいか悪いか、しっかり聞いてくれるんですよ。美術、衣装、メイクさんも我々のリクエストにしっかりと答えてくれる。僕は、「そこは映らないからこだわらなくてもいいですよ」と言われた瞬間に「じゃあ、我々じゃなくても良い。ほかの病院から誰か連れて来てください」と言ってしまうかもしれません(笑)。その時のご都合主義で何かが起こっているわけでは決してないというところは譲れないぐらいに、こだわっています。

ドラマの撮影現場と病院はとても良く似ている

『コード・ブルー〜ドクターヘリ緊急救命〜THE THIRD SEASON』(フジテレビ系)第5話より (C)フジテレビ

『コード・ブルー〜ドクターヘリ緊急救命〜THE THIRD SEASON』(フジテレビ系)第5話より (C)フジテレビ

――そのリアリティもあってでしょうか。「コード・ブルー」を観て、実際にフライトドクターになった方もいると聞いています。
松本 本作のエキストラの中にも、この作品を観て医学部に進んだ学生がいました(笑)。医療の従事する中で本作の影響力の大きさを実感する機会は多くあります。なかでも、ドクターヘリの認知度が高まった、この貢献度はすごいですね。ドクターヘリという単語を知らなければ、我々もイチから説明をしなければならない。ですが、「あの山下くんや新垣さんが出ているドラマだよ」と言うと、みんなそれで承知してしまう。そのパワーはすごいものがあると感じています。

――本作に関わったことで、先生の中でも何か変化はありましたか?
松本 ドラマの撮影現場と病院がとても良く似ているということを知りました。現場には音声さん、カメラマンさん、美術さん、いろんな方が集まって作業していますが、病院も医師だけじゃない。ナースや薬剤師、放射線技師、リハビリテーション技師もいれば事務方もいます。また、ドラマも毎日違うシーンを撮影していますが、病院も非日常空間が展開されており、毎日違う治療をしている。部下に何かを教える時も、ドラマの現場のように「背中を見て覚えろ」という部分があり、異業種でありながら、極めて構造が良く似ているんです。これを知ってから、テレビの見方が大きく変わりましたね。それぞれみんなプロフェッショナリズムを発揮して、それが画面に映っている。どんなに自分の好みに合わないドラマでも、正座して観なければいけないなって思うぐらいに(笑)。特に裏方さんへのリスペクトは大きなものがあります。目に見えるものだけで判断しちゃいけないなという思いも強くなりました。

――視聴率という数字だけで評価される世界にも違和感がありますか?
松本 そうですね。それは違うんじゃないか、と今になって僕は思っています。

(文:衣輪晋一)
◆プロフィール
松本尚/まつもと ひさし(日本医科大学救急医学 教授)
62年生まれ。金沢大学医学部卒業。同附属病院救急部などを経て、00年から日本医科大学千葉北総病院救命救急センターに勤務。01年よりフライトドクターとして活躍し、日本におけるドクターヘリ救急の第一人者となる。「コード・ブルー」の医療監修は、08年放送の第1シーズンより務めている。

『コード・ブルー〜ドクターヘリ緊急救命〜THE THIRD S EASON』

フジテレビ系 毎週月曜21:00 〜
出演: 山下智久、新垣結衣、戸田恵梨香、比嘉愛未、浅利陽介ほか
プロデューサー:増本淳/協力プロデューサー:中野利幸/演出:西浦正記、葉山浩樹、田中亮/脚本:安達奈緒子
音楽: 佐藤直紀/ 主題歌:Mr.Children「HANABI」
【ストーリー】日本で初めてドクターヘリをテーマに取り上げた人気ドラマシリーズの第3弾。医師として10年以上のキャリアを越えた登場人物たちの“今”を描く。

提供元: コンフィデンス

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