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チャンス・ザ・ラッパーにみる音楽ビジネスの転換期 アーティスト中心の時代に突入

 世界の音楽市場はここ数年で一気にストリーミングへと移行した。今年2月12日(日本時間13日)に開催された『第59回グラミー賞』の授賞式では、CDやレコード、ネット上でダウンロード販売されているものに加え、ストリーミングだけで発表された作品にも受賞資格が与えられた。そうした状況を象徴するかのように、CDだけでなく、ダウンロード販売もしないチャンス・ザ・ラッパーが「最優秀新人賞」を受賞。彼の登場が音楽業界にどのような可能性や課題を示したのか? 改めて紐解いていく。

チャンスが模範を見せたアーティストとSNSの新たな関係

  • チャンス・ザ・ラッパー(写真:Everett Collection/アフロ)

    チャンス・ザ・ラッパー(写真:Everett Collection/アフロ)

 周知のとおり、彼はレーベルに所属せずに、音楽をストリーミングサービスでフリー配信しながら活動しており、グラミー賞最優秀ラップ・アルバム賞の受賞作品である『Coloring Book』も、ストリーミング配信のみで、CDやダウンロード販売はしていない。その作品をグラミーが認め、賞を与えた意味は大きい。

 LAでHIP HOPジャーナリストとして活動する塚田桂子氏は「インデペンデント・アーティストとしての威厳と自由を保ちつつ、メジャーレーベルと契約をせずに商業的成功を手に入れてみせたのは、実に新鮮でした」と彼を評する。さらに塚田氏はチャンスの音楽性について、「ミレニアル世代を象徴する存在」と指摘する。「チャンス・ザ・ラッパーには、ゴスペルやジャズ、カニエ・ウェストなどから受けたさまざまな影響を、“チャンス・ザ・ラッパー色”に進化させたような新しい音楽性があります。超が付くほど前向きでポジティブ、気分が明るくなる彼のラップにも思わず惹きつけられます。「Blessings」という曲の中での、「俺はタダ(free)で曲を作るんじゃない、自由(freedom)のために作るんだ」というラインなどは、彼のアーティストスタイルを体現していると思います」(塚田氏)

 また、彼を語るうえで外せないのが、SNSとアーティストの新たな関係性だ。「TwitterやInstagram、Facebook、Snapchatなどを中心に世界が回っていると言っても過言ではないほど、SNSへの依存・中毒が標準化しているなか、SNSは今後さらに強力なトレンドセッターになっていくでしょう。と同時に、チャンスが模範を見せたように、長い物にも巻かれない「自由さ」が、より枠にとらわれない発想で新しい「価値観」のトレンドを生み出していくのではないかと感じています」(塚田氏)

 単に“メジャーレーベルと契約しない”、“CDやダウンロード販売を行わない”という側面だけで彼を理解するのはやや早計だ。塚田氏が指摘しているように、“価値観のトレンドを生み出している”と見ると、彼の存在も、また違った見え方になるだろう。

同じ考えを持つクリエイター同士がつながるコミュニティ

  • 地元シカゴの小学校に1.1億円を寄付したチャンス・ザ・ラッパー(写真:AP/アフロ)

    地元シカゴの小学校に1.1億円を寄付したチャンス・ザ・ラッパー(写真:AP/アフロ)

 この点について、デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏はポイントを2点挙げて解説する。「まず1つは、レーベルに属せずとも、音楽ストリーミングやSNSを駆使すれば、制限のない活動を通じてフォロワーを得られること。これは、今も変わらない地元に根付いたコミュニティ戦略から、Apple Musicとの契約まで一貫しています。メジャーレーベルと契約するか、アップルと契約するかを迫られた時、果たして何人の日本人アーティストがアップルを選ぶでしょうか」(ジェイ氏)

 そして2つ目のポイントとしては、「自由なパートナーシップとネットワークの重要性」と指摘する。「特に、同じ考えを持つクリエイター同士がつながるコミュニティの存在は、クリエイティブ、ニュース性、ビジネスを強化する上でも今後はより一層、重要視されていくと思います」(ジェイ氏)

音楽業界が成長する為には、アーティスト中心の音楽ビジネスの構築がカギに

 では、彼の登場は音楽業界にどのようなビジョンを示し、同時にどのような課題を浮かび上がらせたのか?「『グラミー賞』を受賞したことで、チャンスの存在は日本を含めて世界の音楽業界が注目し始めています。そして、ストリーミング時代というデジタル音楽最大の転換期を迎え、アーティストやレーベルは時代の変化に適応する戦略を持つ必要性に迫られました。アップルやSpotifyなどのプラットフォームも含めて、アーティストとWin-Winな関係を構築できるかが、日本を含めて音楽業界が成長を続ける上で、今後の戦略のカギになることは間違いないでしょう。そう考えると、今の音楽業界に求められるのは、チャンスのようなアーティスト中心の音楽ビジネスの手法や可能性を熟考することではないでしょうか?」(ジェイ氏)

 世界規模で大きな転換点を迎える音楽シーンに登場したチャンス・ザ・ラッパー。彼が次に何を仕掛けていくのか、さらには、どのようなアーティストが次に現れてくるのか、今後の動向が大いに注目される。

提供元: コンフィデンス

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