エンタメシーンに見る“バブル”事象を探る リアル世代から若者に波及するか?
“狂った時代”への回帰!? リアル世代へバブルリーチ
しかし、狂乱の時代はほどなく崩壊。“倹約”を美徳とする不景気の時代が到来し、格差社会や貧困といった陰鬱としたキーワードが日本を覆う。そんな世の中が長く続いていたが、ここ最近のエンタテインメントシーンでは、バブル期をフィーチャーし、当時を追体験するようなイベントや企画が数多く見られる。
一例を挙げると、バブルの象徴ともいえるマハラジャが「バブリーディスコナイト」や「ディスコ 80’s」といったその時代の音楽に特化したイベントを実施。グランドハイアット東京では80’sミュージックを夜通し楽しむディスコイベント「We Love 80’s Disco」、東京スカイツリーでも展望デッキがディスコになるイベント「SUPER SKYTREE DISCO」を開催。
また、バブル生活をネタにしてブレイクした平野ノラやその時代の雰囲気を放つブルゾンちえみが人気になり、ソフトバンクやGUのCMでもバブル期の洋楽が使用され、ファッション誌『VOGUE JAPAN』は90年代生まれの編集者が80年代のバブルを追体験する特集を組んでいる。これらからは、リアル世代を動かそう、さらには現在の若者に向けて“バブル時代”をリーチさせようという思惑が見え隠れする。
パラレルに進行している、グラマラスな遊びへの欲求
実際に同イベントでは、ボディコンにラメのついた靴や大振りのアクセサリー、帽子など80年代当時のファッションで派手に着飾った40〜50代のバブル世代が、マドンナやTOTO、ライオネル・リッチー、ABBAといった80’sのディスコナンバーで踊り、まるで当時にタイムスリップしたかのような空間で、バブル時代のディスコを楽しんでいる。マハラジャも同様。定期的に同世代をターゲットにしたイベントを開催し、毎回盛況を呈している。
実際にスターリムジン東京の客層は20〜30代半ばの女性がメイン。ゴージャスにドレスアップして、豪華なリムジン車内ではしゃぐ様子のほか、東京タワー、お台場の観覧車前などでも記念撮影。SNSに写真をアップしながらバブリーな非日常体験を楽しんでいる。
バブル当時は、六本木、渋谷、新宿などの繁華街は不夜城と化し、20代前半の女性でもエルメスやルイ・ヴィトンなどのブランドバッグを片手に派手に着飾り、30代そこそこで高級外車を乗り回す若者が大勢いた。バブルを知らない今の若い世代にとっては、おじさんたちの語り草になっている、ある種のファンタジーであり、都市伝説のようなものだろう。そもそもそこに大きな隔たりがあるのだから、今のバブル事象が世代間で重なり合わないのも当然といえば当然だ。
ただ、この2つの事象からわかるのは、今の時代の誰しもに“グラマラスな遊び”への欲求があり、世代を超えてそのニーズが表れているということ。今後、世代を超えて波紋として広がっていくのは、バブルというキーワードだけに縛られることのない、そうしたグラマラスな時間の過ごし方ではないだろうか。不景気な時代が続き、倹約が当たり前の質素な生活に甘んじてきた反動も踏まえ、どこまで振り切って楽しませることができるか。それに応えることが世代を超えたムーブメントにつながるのだろう。
“楽しく豪華に遊ぶ”世代間をつなぐ役割を担う音楽
一方、昨今の80’sディスコイベントを楽しんでいるリアル世代たちは、ブルーノ・マーズを聴いたことがない人がほとんどだろう。デビッド・ボウイやマドンナら80年代全盛のアーティストの影響を受けているレディー・ガガでさえ、名前を知っている程度かもしれない。若い世代と同様に、自分たちの時代の曲以外は聴いていないのだが、そこには世代を超えた音楽的なベースのつながりは存在しているのだ。
長らく華やかさを失っている現代において、世知辛い世の中を生きる人々がバブルブームに求めているのは、リアル世代はかつての繁栄への懐古であり、若い世代はビジュアル的な楽しみ。そこに共通するのは、楽しく豪華に遊ぶことだろう。それを音楽シーンに置いてみると、緻密なマーケティングで流行りを追いかける、ターゲティングされた昨今の曲よりも、盛り上がれて楽しい“遊べる”曲が、世代を超えて今の時代には求められていると言えるかもしれない。
華やかでメロディアスな曲は、昨今のバブルブームを背景に再び盛り上がっていく気運を見せている。グラマラスな過ごし方を楽しむムーブメントにおいて、バブル世代と若い世代をつなぐ役割を担っていくのは音楽業界ではないだろうか。
(文:磯部正和【P1、P4】 / 編集部・佐野友香 & 武井保之)
(コンフィデンス 5月8日号掲載)