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小國vs.岩佐戦に詰まっていたもの。ボクシングにおける「紙一重」とは。

試合後の岩佐(右)と小國のダメージには大きな差があった。しかし「これが逆になっていたかもしれない」と思わせる名試合だった。

IBF世界スーパーバンタム級タイトルマッチが13日、大阪市のエディオンアリーナ大阪で行われ、挑戦者で同級3位の岩佐亮佑(セレス)が王者の小國以載(角海老宝石)を6回2分16秒TKOで下し、悲願のタイトル獲得に成功した。互角と見られていた試合は、岩佐が初回に1度、2回に2度のダウンを奪い最後はストップを呼び込む完勝。勝負の分かれ目はどこにあったのだろうか。
小國と岩佐。ともにスタイリッシュなボクシングが売りではあるが、実に対照的な個性を持つ両雄の対戦は、試合前の予想の段階からワクワクさせるものがあった。
チャンピオンの小國は、アマチュア時代にタイトル獲得の経験がない。プロでは無敗のまま東洋太平洋王座を獲得したとはいえ、これを同じ13日のリングに登場した和氣慎吾(FLARE山上)に奪われるなど、決して目立つ存在ではなかった。
そして昨年暮れ、23戦22KO勝ち(1無効試合)のグスマンに対し、ガードを固めてカウンターのボディブローを見舞うという作戦を貫き通して番狂わせの戴冠。試合前はジョークや弱気発言でメディアをけむに巻く、なんともしたたかなボクサーである。

試合前から駆け引きを仕掛けた小國のしたたかさ。

今回も試合前、高校時代に敗れ、スパーリングで何度も手合わせしている岩佐を「大の苦手」と公言し、苦手な食べ物を克服する小学生のごとく、泣き顔でピーマンを食べるパフォーマンスを披露した。これなどテレビ局の演出というよりは、岩佐がやりづらいムードを作り出そうという、小國ならではの作戦のように思えて仕方がなかった。
一方の岩佐は高校時代に3冠を獲得。1年生で初めて出場したインターハイの相手が1学年上の小國で、あっさりと勝利したエリートである(この大会は準優勝)。
ゆえにプロ転向時から注目され、世界王者を嘱望された。しかし、初の日本タイトル挑戦は前WBC世界バンタム級王者の山中慎介(帝拳)に敗れ、世界初挑戦となった'15年のIBF世界バンタム級暫定王座決定戦では、英国の地で力なくTKO負けを喫した。抜群のセンスと才能を有しながらどこか勝負弱く、“ガラスのエース”という言葉を連想させるボクサーだった。

「それしかない」という小國の奇襲。

試合前の両者の発言が実に対照的で面白い。
「12ラウンド中、7つ取ればいい。いや、チャンピオンはドローで防衛ですから6つ取ればいい」(小國)
「圧勝します。できればKOがいいですね」(岩佐)
正直に告白すると、技術や体力なら岩佐が上だとしても、勝負という観点に立てば、全力でドローを目指すと公言してはばからない小國に分があるのではないかと考えていた。
蓋を開けてみると、やはり仕掛けたのはチャンピオンだった。ゴングと同時に鋭いワンツーを打ち込み、右拳を岩佐のアゴにかすめてみせた。岩佐が「出てこないことを想定していた」というから、小國らしく裏を突いたと言える。
しかし、小國がこの戦術を選択した理由は、裏をかいたというよりは「それしかない」という事情のほうが大きかった。
「練習でもサウスポーが全然ダメだった。距離を取って駆け引きしたら絶対にアカン。つぶしていくしかないと思った。とにかく4回まで全力でいく」
これは自らのスタイルを崩すというリスクを背負う戦術だが、一度決めたらためらいなく実行に移すところが小國の強さだ。実際に岩佐は次のように語っている。
「最初の右ストレートがコツって当たったんですよ。すごくキレがあった。あっ、そうきたのかと。これは気をつけなきゃいけないな、と思いました」

小國のプランを狂わせた岩佐の左。

苦肉の策であった小國の先制攻撃は成功した。そして成功したがゆえに、歯車は微妙に狂った。
「右が当たるかもと思った瞬間でした」(小國)
岩佐の左ストレートをカウンターで食らい、チャンピオンは尻からキャンバスに転がったのだ。それでもなお、立ち上がった小國は自らの描いた勝利のパターンを忠実に実行した。グイグイとプレッシャーをかけながら、右ストレートをボディ中心に打ち下ろし、岩佐のボクシングを崩そうと試みた。

2回に岩佐が2度ダウンを奪い、大量リード。

しかし、再び岩佐の左カウンターが火を噴く。小國は2回、同じパンチで2度のダウンを喫し、序盤戦で大量リードを許したのである。
岩佐の参謀、小林昭司会長は次のように振り返った。
「最初に小國君が出てきたのは意外だった。でも最初に出て、次の回から出てこなくなる作戦なのかなと思ったんです。それが1回に岩佐がダウンを取れて、向こうの作戦も狂ったのではないかと」
小國をサポートする阿部弘幸トレーナーの述懐はこうだ。
「スピードでは上回れると思っていたけど、今日の小國はそこまで速くなかった。ダウンで(作戦が)崩れてしまいましたね」

打ち合いに出ず、冷静に1試合を組み立てた岩佐。

それでもハートの強い小國はダメージを負いながら前に出た。愚直に右ストレートを岩佐のボディに打ち込み、流れを変えようと試みた。そして岩佐圧勝に大きく傾きかけた流れを4、5回に食い止めてみせる。
試練を迎えた岩佐は「焦りはあった」とこの場面を振り返る。相手はしたたかな小國なのだ。少しでも甘いところを見せれば徹底してつけこんでくるであろう。この試合、2度目となる勝負の分かれ道がやってきた。
「中盤に攻められたとき、いってやろうと思ったけど、会長が止めてくれました。小國さんはあれしかない状況なんだから、それに付き合う必要はないと」
岩佐の感性の鋭さは諸刃の剣となりうる。山中戦の敗北、世界初挑戦失敗から、感性だけで戦ってはダメなのだと感じていた。打ち合いたい気持ち、打ち合っても勝てるという気持ちをセーブし、小國の攻勢をやりすごしながら、前に出すぎず、的確にパンチを当て続けた。
そして6回、岩佐は小國のペースダウンに乗じて顔面、ボディに次々とパンチを打ち込んだ。小國の口から大量の血が流れる。結局6回途中のドクターチェックで、試合続行不可能と判断され、岩佐のTKO勝ちが決まった。

紙一重の差が、残酷なまでに勝者と敗者を分ける。

試合後、両者は次にように語った。
「今日が僕の日だった。それだけです。チャンピオンは気持ちが強かったし、一発一発のパンチも強かった。途中、心が折れそうにもなりました」(岩佐)
「アホみたいに打ちにいって、アホみたいに打たれて……ダメでしたね。わけのわからん奴に負けるより良かったですけど」(小國)
快勝でベルトを巻いた新チャンピオンと、3度キャンバスに転がり、血だるまになって敗れた前チャンピオン。小さな綻びが致命傷となり、紙一重の差が残酷なまでに勝者と敗者を振り分ける。ボクシングという競技の醍醐味を味わえた夜だった。

提供元:Number Web

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