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休養のゴールドに引退のリプニツカヤ。女子フィギュアスケーターの厳しい現実。

2013年のグランプリシリーズ第2戦スケートカナダの女子シングル表彰台にて。優勝はリプニツカヤ、銀メダルは鈴木、銅メダルはゴールドだった。

9月1日、埼玉で開催されるジャパン・オープン(10月7日)に出場する予定だったアメリカのグレイシー・ゴールドが、大会を辞退することを発表した。
どの大会でも、直前になって選手が辞退、棄権するのはそれほど珍しいことではない。だが今回のゴールドの発表が特異に映ったのは、広報担当者を通じてわざわざ出されたプレスリリースの内容が、意味深だったからである。

ゴールドの発表した意味深なプレスリリース。

以下がその文章を訳したものだ。
「私のスケートとトレーニングに対する情熱は、以前と変わらず強いままです。でもこのところ、氷の上、そして氷の外で様々な葛藤に直面しており、グランプリシリーズの準備をする一方で、専門家の助けを借りて、しばらく休養をとることに決めました。この時間を使ってより人間として強くなり、それがスケートの演技にも反映するだろうと信じています」
ジャパン・オープンを辞退するためだったら、「まだ準備が出来ていない」で十分だっただろう。
この「専門家の助けを借りる」というのが、具体的にどのような意味なのか――スケートのことなのか、それ以外の私生活のことなのか。マネージメントに問い合わせたが「現在、これ以上発表できることはない」との返答が来ただけであった。

ゴールドのスランプの原因は?

現在22歳のゴールドは、ソチ五輪で個人戦総合4位になり、その才能と華やかな容姿で注目されてきた。
だが昨シーズンは、深刻なスランプに直面。GP2大会ともメダルに届かず、全米選手権で6位に終わった。
その直後に、ソチ五輪のシーズンから二人三脚でやってきたコーチのフランク・キャロルが突如として辞任を発表した。現在ゴールドは、デトロイトを拠点としてマリナ・ズエワの元にいる。

才能はあったが本番では好不調の波がある選手。

これまでも、才能がありながら本番では好不調の波がある選手ではあった。だが昨年ほど苦しんでいるゴールドを、かつて見たことがない。
不調の原因は、2016年3月のボストン世界選手権でSPトップに立ちながら、フリーで失敗してメダルを逃した精神的なトラウマだ、と本人は語ったこともある。
だがそれだけではなく、その半年後の2016年10月のスケートアメリカでは、体重の調整で苦労していることを告白してもいる。

体重調整の苦労を率直に語ったゴールドだが……。

シカゴで開催されたそのスケートアメリカで総合5位に終わった後、ゴールドはこう口を開いたのだった。
「太りすぎのスケーターがほとんどいないのには、理由があります。昨シーズンも今年も、ずっとそのことで葛藤してきました。難易度の高い3回転を跳ぶのが大変になるんです。そのことを自覚してこれまで対処してきたけれど、この試合のようなレベルで戦えるような態勢が整っていないんです」
アメリカ人の女性ジャーナリストが慌てたように、「あなたは十分スリムに見えるけれど?」とフォローした。
実際、当時の彼女は、スケーターとして小柄なほうではなかったものの、特に体重に問題がありそうには見えなかった。
だがゴールドはこう答えた。
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいけれど、このスポーツにはもっとほっそりした体が必要で、今の私にはそれがないんです」

スランプは体重が原因? との推測も。

現在のアメリカで女性の体重に関する話題は、日本人の我々が想像する以上にデリケートに扱われている。特に若い女性の間では拒食症が深刻な社会問題となっており、何気ない一言が、この命に関わる病いの引き金になりかねない、と言われている。
国を代表するトップアスリートとして、ゴールドがここまで率直な発言をしたことは、現場に居合わせた我々記者全員にとって、大きな驚きだった。
この発言の後、ゴールドはフランス杯で8位。全米選手権で6位に終わり、(10月のジャパンオープンのアメリカチーム3位を除いて)ついに表彰台に一度も立つことなくシーズンを終えた。
こうした事実をあわせて考えると、今回の「専門家の助けを借りる」というのは恐らく体重管理に伴う心理的な問題のカウンセリングではないか、と多くの関係者たちは推察している。

リプニツカヤの引退宣言の衝撃。

ゴールドがジャパンオープン欠場の発表をする数日前、ロシアのユリア・リプニツカヤの引退声明が話題となっていた。
ソチ五輪ではわずか15歳で代表に選ばれ、ロシアチームの団体戦金メダルに大きな貢献を果たし、「ソチ五輪の顔」とさえ言われた天才少女リプニツカヤ。
だが2014年シーズン以降、体重の変化、怪我などのせいもあって不調が続き、ロシア選手権でも表彰台を逃していた。過去3シーズンは、欧州選手権、世界選手権とも出場することすら叶わなかった。
ロシアのタス通信社によると、リプニツカヤの母親が、本人は3カ月に渡る拒食症の治療を受けた後に引退を決意したことを告白したという。
現在ロシアの女子は才能ある若手が次々と登場し、その世代交代は過酷なまでに早い。リプニツカヤもロシア代表でなければ、ここまで追いつめられることはなかったかもしれない。あれほどの才能を持った選手の、悲しい結末だった。

体重が300g増えるだけでジャンプが……。

残念ながら、体操やフィギュアスケートの選手が、拒食症に悩まされるのはそれほど珍しい話ではない。
それは女子に限らず、2002年五輪王者のアレクセイ・ヤグディンもその自伝の中で一時的に拒食症に苛まれたことを告白している。フィギュアスケートのあるコーチは、体重が300グラム増えるとジャンプに影響があるのだと語った。
日本の選手では鈴木明子が、現役時代に拒食症にかかって治療を受けたことを告白。少しでも同じ病で苦しむ人々の参考になるのなら、と公表を決意したのだという。彼女の場合は病気を克服して氷上に戻り、息の長い選手生命を全うしたハッピーエンディングだった。
だが、全ての選手がそこにたどり着けるとは限らない。このスポーツの、過酷な現実の一面である。
ゴールドは現在、GPシリーズに向けての準備は行っていて、中国杯とフランス杯に出場予定だ。初戦となる中国杯まで、あと2カ月弱。ゴールドが無事復帰をして、あの艶やかな笑顔を再び見せてくれることを祈りたい。

提供元:Number Web

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